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落ち葉の季節

落ち葉の季節


春男の仕事は作家なのだから、文章を書くことがメインなのは言うまでもない。そして、作品を書くにあたって資料が必要なのも理解できる。

 問題は。それが、紙だけではすまないことがあることだ。もちろん、自分でその場所に行くこともあるし、写真などが資料に使われることもある。

締め切りまでに帰ってきて、書き上げてくれれば、なんの問題も無い。だが、資料を実物で持ってくるとなると、結構大変なことなのだ。

 ある時など、玄関を開けたら、犬が飛び掛ってきた。

「うわぁ。」

「逃がしちゃ、ダメ!」

 春男の声で慌てて、ドアを閉めた。すると。体はとっくに外に出ていたが、首をつないでいるリードが引っかかって、それ以上いけないようになってしまった。

 リードを引っ張ると、自然に犬も引きずられるのだが、鳴くのだ。とりあえず、家の中に戻したが、玄関で、外の方を向いてそこから動こうとしない。

「なんだ、あの犬は?」

 オレはいつものようにソファにドサリと座り込んだ。

「借りてきた。ほら、いつだったか、僕のことを噛んだ犬だよ。」

 春男が振り向きもせずに、そういうのを聞いて、オレはやっとそんなこともあったなぁと思い出した。それにしても。

「なんで、自分のことをかんだ犬を借りてきたんだよ。」

「他に犬を連れている知り合いあいがいなかったから。」

 春男は平然とそう言いきった。

「何に使うんだよ。」

「資料に。」

「資料?なんのだ?」

「ほら、僕、動物を飼ったことが無いから、犬が基本的にどんな動きをするのかよくわからないんだよねぇ。いま、書いている話って、動物が人を食べる話だからさぁ、爪とか見ようと思って。」

「また噛まれるぞ。」

 そんなことで、実物を借りてくるとは。オレはあきれたように言った。

「大丈夫だったよ。そのときは飼い主さんがいたから。」

「ん?だけど、その飼い主さんはどこへ行ったんだ?」

 部屋には、オレと春男しか見当たらない。

「僕の作品をしばらく読んでたんだけど、あまりに時間がかかるもんだから、買い物に行ってくるって、犬を置いていった。もうすぐ戻ってくると思うよ。」

そう春男が言い終わると、犬が激しく吠え出した。そのままドアが開き、あの女性が顔を出した。

「戻りました。」

春男は玄関まで出て行き言った。

「あー。おかえりなさい。犬をありがとうございました、長い時間借りちゃって。」

「いいえ。それじゃ、これで。」

女性はオレにもぺコリと頭を下げて、犬を連れて去っていった。おそらく、貸したくなどなかったのだろうが、昔とはいえ、かんだという弱みがあるせいか、断るに断りきれなかったのだろう。

「飼い主の足音がわかるんだなぁ。あ、いいかも。使おう。」

春男のまたパソコンに向かいだした。犬ならまだしも、そのうち、爬虫類でも買って来たらどうしようかとオレは結構本気で心配をしている。

 そんなものを書くと言い出したら、本気で反対しようと心に誓った。



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