『本』質ーーー[2]
1#3
僕たちが召喚された大聖堂の隣には巨大な西洋風の城がそびえ立っている。
なんでも、この国の成り立ちにある宗教が大きく関わっているからだそうだ。
そして今、僕たちはその城の厨房でちんまりと縮こまって食事を摂っていた。
「ほら見ろ。俺は早く着替えろと言ったのにモタモタしてるからこんなことになるんだ」
「そんなこと無いよ。マイスだって何もないところで五回くらい躓いてたじゃないか。いちいち大泣きする君をあやす僕の気持ちにもなってくれよ」
「な、何を言うか!そもそも悪いのはそっちであって、悪いのは俺のせいじゃない!」
「ねぇ、知ってる?僕の故郷の言葉にね、こんな言葉があるよ?『悪いって言う奴の方が悪い』」
「死ねえええええ!!!」
「うるせぇぞてめぇら!こっちは忙しいのに場所を貸してやってんだ!うるさくするんだったら出てけ!!!」
「すまん………」
「ご、ごめんなさい……………」
どうやらコックを怒らせてしまったようだ。
マイスか悪いとはいえなんだか申し訳ない。
「ううぅ。早く食べ終わって大聖堂に行くぞ。……………ここのおっちゃん達やっぱ怖い」
「わかった。僕もなるべく急ぐよ」
その後はもくもくと食べ、マイスが大盛りのコロッケをほぼ食べ終わり、僕も最後に水を飲んでいた。
そういえばマイスがなんだか気になる事をいっていたな。
「そう言えばさ、『しょ』ってなんの事なの?よくわかんないんだけど?」
「ん?ひょ(書)?ンッ、『書』っていうのはな、分かりやすく言うと、一人に一つだけの己のギフトって奴さ」
「なにそれ?もうちょっと詳しく」
「つまりだな、そいつの持っている才能の具現化した形っていうの?そんな感じだよ。まぁでも、必ずしも全ての人に発現する訳じゃなくて、大体三割くらいの人間がもってるな。いちおう、親から子に伝わりやすいからか、貴族とか、王とか、そういう位の高い人に多いなぁ。あとはまぁ、ダブってる『書』もあるらしいし、種類には限りがあるんじゃないか?」
つまり、ゲームでいう『スキル』って奴ですね分かります。つまり召還された僕達はその『書』っていうのを持ってるってことか?
そんなもの持ってる感覚ないんですけど?
「なぁ、つまり僕たちはその『書』の能力をほぼ確実に持ってるって事か?」
「そういうことだと思うよ」
「僕、そんなもの持ってる感覚ないんですけど?」
「こんなやつだよ?無いの?」
そう言うとマイスは自分の胸元に手を当てたかと思うと、おもむろに一冊の本を胸から引きずりだした。
それは百科事典のように分厚い本で、普段文庫本しか読まない僕からするとなにやら小難しい内容が書いてあるように思える。それに、赤茶色の古びた皮の表紙でだった。
「これが俺の『書』。『鎧書』つうんだけどさ。俺にとってこれこそが俺の証明。俺の力の源さ」
「ちなみに、それ中身どうなってんの?」
「見たい?」
「うん」
「超見たい?」
「うんうん。超見たい超見たい」
「仕方ないなぁ。ホラッ」
そうしてマイスは『鎧書』の中程を開いて見せてくれた。
何も書かれていなかった。
ニヤニヤしてやがる。コノヤロ。
と思っていると今度は最初のページを見せてきた。
そこには、こんな言葉が日本語で書かれていた。
『この者、臆病者也。されど、心に動かぬ芯を持つ者也。この者、大切な何かを守ることを願う者也。故に、何かの盾になり、自らを隠す殻を持つ者也。』と。