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向かうべき先

作者: 長串望

 この物語は、北アイルランドのThe Creativity Hubが製造・販売しているRory's Story Cubesという玩具を利用して書かれています。


 このストーリーキューブはポケットサイズの作話サイコロで、おとなもこどももおねーさんも、ひとりでも友達と一緒だって、想像力だけで楽しめる素敵な玩具です。

 この玩具を使えば、誰だってステキな作家になれますし、生まれてきた物語はどれもみんな間違いなしにステキな物語です。

 さあ、サイコロを振って、あなたの頭に詰め込んだガラクタや素敵な色々を遊ばせてみましょう!

 (パッケージ英文超意訳)


 遊び方は簡単。

 九つある六面サイコロの、その五十四面それぞれには数字の代わりにシンプルな絵が描いてあります。

 サイコロを振って出た面の絵を見て、プレイヤーは物語を紡ぐだけ。


 五十四面はそれぞれ、

 ・磁石 ・羊 ・錠前 ・火 ・足跡(済) ・四角にL(済)

 ・矢 ・電球 ・時計 ・ふきだし ・眠っている人 ・家(済)

 ・矢印 ・携帯電話 ・雷 ・天秤 ・宇宙人? ・ステッキ

 ・困った顔 ・クエスチョンマーク ・噴水(済) ・鍵 ・流れ星 ・テント

 ・魔法の杖 ・算盤 ・月 ・蜂 ・本 ・橋

 ・カード ・虹 ・塔 ・ピラミッド ・目 ・木

 ・仮面 ・パラシュート ・魚 ・鍵穴 ・花 ・八方矢印

 ・悪魔のような影 ・スカラベ ・亀 ・サイコロ ・掌 ・虫眼鏡

 ・懐中電灯 ・地球 ・笑顔 ・リンゴ ・ビル ・飛行機

 となっていますが、どれも想像の余地があり、自由に連想ができるのです。


 さて、本編で御座います。







九つの賽子、五十四の絵柄。

本日の絵柄は――、[磁石]







 ナウルはいまや熱狂的とさえ言える意欲に溢れていた。

 生まれてこの方、ナウルを前進させ続けてきたエネルギーはいまやその発散すべき行き場所を前に爆発寸前の炉心のようでさえあった。

 その意欲はナウルだけのものではなかった。

 科学が生活を向上させ、底辺を底上げし、世界を少しずつ纏め上げてきた頃から、この意欲は人類全体に広まっていた。

 幾つもの不可能が、力を合わせることで可能へと置き換えられていくことで、人々は新たな不可能へと挑むことをその生き甲斐とさえしていた。

 社会は人々に無限といえる可能性を与えたが、それを前に臆するものも迷うものもいなかった。人々は何でも出来た。好奇心のままに学び、そして先人達の知恵をより一層洗練されたものへと昇華させていった。

 ナウルもそうだった。子供の頃から自分の進路で迷うことはなかった。気になったらすべて学べばいいのだ。時間を短縮する学習法は巷には溢れかえっていた。そしてそれらが子供達の発展性を妨げることは決してなかった。

 人気があるのは困難とされる道だった。余人がまだ歩いたことのない道だった。

 ナウルがまだ四つん這いではいはいしていた頃でさえ、人類は不可能を探すのに躍起なくらいで、長じた頃にはもはや選択肢はそう多くなかった。

 エネルギー問題も食糧問題も遥か昔に解決され、人々は寿命も長く健康で、彼らにとって真に難解といえる数学は、自分達にとって難解といえる問題を作り出すことだった。宇宙開発でさえ、太陽系をすでに掌握していた。

 選ぶ道は絞られていた。

 そしてその道の最先端に、ナウルと、その仲間達、そして人類は立っていた。

 人類は自分達の手に届くありとあらゆる可能性を試したと確信した。

 そして新たな可能性は外へと探しに行くしかないと結論付けた。――外宇宙へと!

 ナウルは人類のあくなき探究心を満たすための、一大宇宙船開発プロジェクトの中核を担う、いわば地球人類の代表とも言える立場だった。

 勿論、それは今現在のという意味だ。

 全人類を乗せることを前提としたこの宇宙船の建造には、実に長い年月と、莫大な費用がかけられた。だがそのことにどれだけの意味があるだろうか。誰が不満に思うだろうか。人類の意思は一つだった。

 人々はかつてない熱狂に背中を押され、世代を変えながら宇宙船の建造を手掛けた。

 手始めに冥王星が、船体の部品とするため解体された。これが一番遠かったからだ。

 次に水星、金星、火星が平行して解体され、月軌道上で加工され、太陽を挟んで地球と反対側で建造に移された。

 それらがあらかた解体された頃、ガス状惑星達は徐々にその体積を削られ、解体されていった。その衛星も勿論建材となった。土星の我解体される工程は、多くの人間にとって興味深いショーとなった。

 小惑星群を残さずさらうのはなかなかの一仕事だったとされている。だがこれらもまもなく根こそぎにされ、水素と真空だけが残った。

 ついに地球の解体が始まったとき、問題となったのは衛星としては実に大きな月であった。これをシンボルとして取っておくのはどうであろうかという提案があったが、建材の確保も急務であり、大いにもめた。

 しかしこれも、地球に向いていた面だけを綺麗に刳りとって、船首にすえつけることで合意した。

 ナウルがプロジェクトの中核に入ったのは、ついに太陽を炉心として据え置き、船体各部を合体させるころだった。

 ナウル自身も設計の一部を手掛けたこの宇宙船は、惑星間をちまちま飛んでいた既存の宇宙船とは一線を画す巨大なものだった。また巨大なだけでなく、自由自在に宇宙を飛びまわれる、ありとあらゆる新技術が詰め込まれていた。

 全人類が乗り込み、生活し、そしてより一層の発展を続ける内部世界を載せて、宇宙船は今まさに発進しようとしていた。

「さあ、いよいよですね、ナウル艦長」

「うむ。我々の先祖の時代から始まったこの一大プロジェクトも、ついに終わりに近づいている」

「いえ、艦長、これこそ始まりですよ。宇宙の大海原に乗り出し、新たな可能性を切り開いていくんです」

 副艦長のロマンチックとも言える物言いも、今このときばかりは大いに同意できた。

 ナウルは艦内放送のスイッチを押し、全人類へと響くように出航を指示する。

「エンジン始動。出航せよ!」

 宇宙船は今までに人類が経験したどんなものよりも巨大で、そして高性能な推進機関により、まっすぐに進み始めた。

 船の進む先には輝ける光。引き寄せられるように船は速度を上げていく。

 羅針盤は過つことなく、まっすぐにその光を示していた。

 銀河の中心を。







 殖民惑星のどこかで使われていたという骨董品の羅針盤が、頼りの地磁気がないためあいまいにくるくると回っているのを眺めていると、ビープ音が退屈を一時途切れさせた。

「小型恒星艦を一隻確認。間もなくキャプチャーネットに接触。回収します」

 ヤウル・セン司令は本部へとつながる非光速回線で、簡潔にそう報告した。

 司令などといっても、最外縁部で時たまやってくる宇宙船を回収するだけの閑職だ。これが左遷だということはヤウル自身が一番わかっていた。

 視線の先の三次元モニターには、小惑星を先端に設置したらしい極めて小型の宇宙船が、ちょうどキャプチャーネットに接触して解体工場へと移送されていく光景が映し出されていた。

 かわいそうに、とヤウル・センは呟いた。尤もその響きには憐憫よりあきれの方が強く出ていたが。

 中枢星域から銀河系全域へと発信されるパルスによって、ある程度発達した知的生命体は、その進化を促進され、フェロモンに操られる虫達のように、全力を尽くして全資源を持ってこうして銀河系中心部へと落ちてくるのだ。

 こうすることで中枢星域は自ら動くことなく、宇宙のあちこちにある資源を回収でき、その上、急速促成された知的生命体の生命素を回収することで、莫大なエネルギーをも得ることが出来る。

 昔は反対派もいたそうだが、宇宙のあちこちで生まれては死んでいって勝手にエントロピーを増大されるより、一極集中させてしまったほうが宇宙の寿命も長引こうという話だ。

 尤も、ヤウル・センのような地方公務員にとってはどうでもいい話だ。

 きっとありとあらゆる希望を詰め込んでやってきたであろう、彼らなりに最大限を尽くした宇宙船が、呆気なく解体工場へと流されていくのを眺めて、ヤウル・センはぼんやりと報告書にサインした。

 ああやって、羅針盤を頼りにまっすぐ何処までも進んでいって、曲がりなりにも目的地にたどり着くのと、自分のように極点近くにいるせいで羅針盤がぐるぐる回って何処にもいけない奴と、どちらがマシなのだろうか。

 羅針盤に尋ねてみたが、相変わらず磁針はふらふらと曖昧に回るばかりだった。


 


Once Upon a Time...7 "Gather Under The Absoluteness." closed.








あとがき


 ショートショートをうまく書けるようになりたい、とは思うものの、なかなかうまくいかないものです。

 敬愛する星新一の著書を何度読んでも、なかなかうまくいかない。やっぱり数書かないと駄目ですね。

 磁石というお題を前にして、そのままじゃあ面白くないなあ、そういえば羅針盤も磁石だよね、そうしよう、と思いついてからそのまま勢いで書き上げたのですが、読み返すとやっぱり粗が多い、説明が多い。


 ちなみに一番考えるのに時間がかかるのが、お題をどう解釈するか。

 二番目が一番最後の英題だったりします。

 毎度毎度気の利いたようなのを考えようとするのですが、日本語でさえ苦手な私が英語で考えるのは一苦労で、大抵あんまりひねりがありません。

 今回の英題は、羅針盤→目的地と連想し、目的地の英訳Destinationの元というか動詞というか、Desitineという単語が(神の)下に<de>立つ<stine>という語源だったことからつけられたタイトルでした。ちなみにDestinyにすると運命。辿り着くように出来ているということですかね。

 ひねりません。


 英語はなじみがなくて分かり難いという方もいらっしゃると思いますが、調べてみると面白かったりしますので、お暇があればちょっと辞書で調べてみてくれたりすると嬉しいです。最近はネットでも調べられますしね。

 わかりづらいといえば、噴水のお話の英題The Fountain at (week)end.の()は、()の中を無視して読んでも、()を外して読んでも意味が通じるようになっています。………冠詞ついてねーにゃあ。

 矢印のお話の英題Arrow from/to distanceの/は、Orの意味と取っていただいて結構です。

  

 それではまた、次の機会にでも。

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