雨ケ崎汐里と神隠し村・0
雨ケ崎汐里という少女についての噺を始めよう。常にマフラーで首を覆い隠し、セーターを着込み、冷ややかな視線は対人拒絶を体現している様な出で立ちである。彼女と出会ったのは、僕とサクラが出会い別れたあの秋の惨劇から半年以上も時を進めた、ある夏の出来事である。彼女の纏う雰囲気は僕の放つそれと類似した部分が多く存在し、考えるに、僕は初めから……彼女もまた『愛に喰われる』存在である事が解っていた様にも感じる。僕がそうであった様に。身の丈に合わない願い事は周りを不幸に貶める、自身に罰を与え罪の意識を植え付ける。なにも悪い事ではない、所詮は自業自得以外の何物でもないのだから。
そんな彼女との噺を始めよう。
こんな僕達との噺を語らおう。
語り聞かせる相手など持たなくとも、口にする意味など解らなくとも、それでも僕は始めよう。
これは彼女の噺であると同時に僕の噺でもあるのだから。
悲劇の開幕は既に済ませているのだ、だからこそ僕はただ単に終演へと向かっていくだけなのだから。
口を開くと声が聞こえる。知らない遠く、心の直ぐ近くで。
彼女は囁く。
――そこにある日常、守りたい空間、失いたくない人。一生かけてこの幸せを閉じ込め続けることこそが……君に対しての愛の証明。
続きます