プティティ
プティティは村一番の愛くるしい娘だ。すんなりと形よい頬は、果実を思わせる素直な赤みを帯びて、健康的である。その真ん中を陣取る鼻は小ぶりで、ひどく愛嬌のある形だ。
瞳は……農耕の女神を思わせる晴天のスカイブルー。パッチリと見開かれたそれに見つめられれば、男ならどぎまぎしてしまうほどに印象的だ。瞳から色を分けられたか、スカイブルーの長髪は良く手入れされ、さらりと艶が流れる。
しかし、額に描き込んだように形良い眉は、恋人の語る言葉に悲しげな八の字に歪んでいた。
「ヤム、ハークネル」
結婚式の延期を言い渡すグルボの声は暗い。
努めて明るい言葉を探そうと、ぷっくりと柔らかな唇が動いた。
「ヌヌリ、ヤムレクレコ」
「ナクト!」
結婚式を挙げないなど許されない。ここは田舎なのだ。どんな噂の種にされることやら……
「ナクト! ネクナル、シクエト」
大慌てする男の手を、小さな白い手がきゅっと掴む。
「ネクナヤム。ウコヂュエス?」
小首を傾げれば、蒼い髪がさらりと揺れる。信頼に煌めく湖水色の瞳はただ真っ直ぐに愛する男を映しこむ。
こうなってはグルボの心も乱れる。本当なら一刻も早くこの娘を娶り、夫婦としての行為を教え込みたいのだ。
「……ナクト。ヌメル……イェクサル、セシモ」
金を工面するアテが一つだけある。
男としてのプライドは多少傷つくが、もう一人の幼馴染であるマイディに借金を申し込めばいい。彼女の家は豪農だ。少なからぬ額を借り入れることが出来よう。
「ネキ、ユクレスクル」
愛する婚約者の髪に口付けを一つ落として、彼はマイディの家へと向かった。