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第十一話 トクベツな友達

 翌日、僕は茜が来ているかを確かめるために佳織の教室を訪れてみた。

「桜崎さん?うん、来てたよ。鞄置いたらすぐにどこかに行ったけどね」

 佳織の話を聞きながら僕は教室の中を見てみた。教室の中はとても閑散としている。今教室にいるのは佳織だけだ。ちなみに僕は廊下から話しかけている。

「和明、探してみたら?多分、桜崎さんはできるだけ誰にも会いたくないからどこかにいったんだと思うよ。だから、人のあんまりいない場所とかにいるかも」

「わかった、ありがとう。それと、もし、茜が困ってたらよろしく」

「うん、あたしに任せてよ。出来る限りのことはするからさ」

 佳織の頼もしい言葉を聞きながら僕は佳織と別れた。

 僕は北棟を目指して歩く。

 この学校は北棟と南棟の二棟で出来ている。僕が今いるのは南棟だ。この棟には各クラスの教室がある。その為、人の出入りが多い。

 しかし、今は朝、しかも普通の人は家か部活動の朝錬に出ている時間だ。僕や茜や佳織を除けば校舎内には誰もいないかもしれない。

 いや、そういえば雄輝もいた。雄輝は今教室で佳織が来るのを待っているはずだ。彼らは毎日交互にそれぞれの教室へと会いに行っているらしい。

 話がずれたが、南棟には美術室や音楽室など、特別な授業を受けるための教室がある。こちらは時間によってまちまちだが人の出入りは少ないほうだ。

 茜がいるとしたらそこだと思う。今は人の少ない北棟だが時間が経てば人が増えてくる。その反面、南棟に朝、訪れるような人はいない。

 もし、南棟にいなければ屋上にいるのだろう。屋上は北棟と南棟でつながっている。なので、南棟を下から順番に調べていけばどこかでみつけることができるはずだ。

 それでも、見つからなかったら、と考えそうになったが頭を振り考えるのを止める。今、そのことを考えたら悪いことにしか考えそうになかった。

 僕は南棟に入ったので中に向けていた意識を外に向けた。一階には理科室と何が置いてあるのかわからない倉庫がある。

 特別を探す僕にとってそこは気になる場所であったが今はそんなこと頭の隅に追いやる。今は茜を探すのが先だ。僕は昨日、茜が学校に来ていたら彼女と会う、という約束を交わしていた。

 南棟も北棟も四階立てだ。探すのにはそこまで時間はかかりそうになかった。

 それに、朝は南棟の教室は全て鍵がかけられている。だから、廊下の真ん中に立って左右を見ればそれだけで一つの階を調べることが出来る。

 そのおかげで茜の姿はすぐに見つけられた。茜がいたのは三階の美術室の前だった。

 階段からそれほど距離が離れていなかったので僕はその場で茜に声をかけた。

「おはよう、茜」

 いきなり、声をかけられたことに驚いたのか茜の全身が一瞬震えたように見えた。それから、茜は僕の方を見た。

「あ、あんただったのね。昨日の約束通り来てあげたわよ」

 茜の声は少し安堵したようなものだった。もしかしたら、僕以外の誰かに見つかったのだと思ったのかもしれない。

「僕も、約束通りに茜に会いにきてあげたよ」

 そう言いながら僕は茜の方に近づく。近づいてから気がついたのだが、彼女の顔が暗いような気がした。

「どうしたの?もう、疲れたとか?」

「え、ええ。久しぶりに来たから少し疲れたわ」

 何かを隠すかのように目をそらして彼女は言った。何を隠しているのだろうか。

初めて会ったときは気がつかなかったが昨日話してみて気がついたことがある。その気がついたことというのは、彼女は何でも自分ひとりで背負い込もうするということだ。だから、彼女は一人苦しみの前で何も出来ず自殺をしようとしてしまったのだ。

 話してくれないのなら、僕から聞いてみる。昨日も何かを隠したようだが、それでも、今日は喋ってくれると思って。

「茜、何を隠してるの?」

 僕が声をかけた時とは違う驚きを浮かべて茜は僕の顔を見た。僕は何か言うのかな、と思っていたのだが茜は何も言わずに下を向いて俯いてしまった。

 それから、無言の時間が流れる。僕は何を言えばいいのかがわからない。彼女は言うか言わざるべきかを考えているんだ、と思う。そうしていると、僕は信じている。

 十五分ほど経ってからだろうか、ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。この時間きっかりに始めるクラスはほとんどないが早く教室へ戻らなければいけない。

「そろそろ、戻らないといけないね。茜も授業には遅れないようにね」

 僕はその場を立ち去ろうとして、さっきかけた言葉以外で茜にかける言葉が思い浮かんだ。

「何で茜が何があったのかを僕に教えてくれないのかはわからない。言いたくなければそれでいいけど、どうするか考えてみて。僕はまた昼休みの時に会いに行くつもりだから」

 僕は、そう言い残してその場から再度立ち去ろうとした。しかし、今度は自分自身ではなく茜の声によって止められた。

「和明……」

 彼女の声はとても弱々しかった。それは、今にも泣き出してしまいそうな程に。

 僕は彼女の方に振り返って答えを待った。しかし、いくら待っても答えはこない。僕が口を開きかけたその時に茜は言った。弱々しい声を無理やり抑えたような声で。

「やっぱり、なんでもないわ。早く戻ったほうがいいわよ」

「うん、昼休みのときまは話してくれると思って待ってるよ」

 僕はそれだけ言い残して今度こそその場を立ち去った。今は話してくれなくてもまた会った時に話してくれるかもしれないという淡い期待を抱きながら。


 昼休みの合図の鐘が鳴り授業が終わると同時に僕は茜のいる教室を目指した。

 一時的に勉強から開放された気の緩みからか学校全体が騒がしい。そして、茜の教室はそれ以上に騒がしかった。

 教室の中には人だかりができている場所があった。僕はすぐにその中心に茜がいるのだとわかった。

 何かを質問したり好き勝手に言っているような声が聞こえる。

 僕の前では少し強気な彼女も複数の人の前ではどうしようもないようだ。

 僕はあの人だかりの中から茜を助け出す為に教室の中へ入ろうとしたときに人だかりが不平のようなものを言いながら二つに割れた。その中心にいたのは茜と……佳織だった。

 佳織は茜の手を引くようにしてこちらまで歩いてきた。

「ささ、和明も行くよ」

 佳織は僕の隣まで歩み寄るといきなりそんなことを言って僕の体を右手で押した。僕はとりあえず転ばないようにしながら佳織の手の力の向きに合わせて歩く。佳織の左手には茜の右手が握られている。このままどこかに連れて行くつもりなのだろうか。

 されるがままにして連れてこられたのは南棟の二階の階段の横だった。ここだと、北棟の喧騒もあまり聞こえない。

「ここまで来れば大丈夫のはずだよ」

 佳織はそう言いながら茜の手を放した。僕は途中から一人で歩いていたのだが茜はずっと佳織に引っ張られるように歩いていたようだった。

 茜は戸惑ったような表情を浮かべている。僕以外にこうして普通に接する人がいて驚いているのかもしれない。

「あの、あなたは?」

「同じクラスなのに知らないの?まあ、仕方ないっか一度も話したことないもんね。あたしは、日向佳織。一応、はじめまして、だね」

 言って佳織は右手を差し出した。茜は少し戸惑いを残しながらもその手を握り佳織と握手をした。

「は、はじめまして、日向佳織さん」

 そういえば、僕も雄輝に紹介してもらった時に佳織と握手をしていた。後から本人に聞いた話なのだが自分と気が合いそうな人とは握手をするらしい。要は彼女なりの初対面の相手への自分の意思表示ということだろう。

「あたしのことは気軽に佳織、って呼んでよ。敬称って好きじゃないんだよ。だから、あなたのことも茜、って呼ぶね」

 これも、僕と佳織が自己紹介したときと同じだった。僕ははじめ佳織のことを敬称付きで呼び敬語で話していた。それに気付いた佳織はすぐさまに呼び捨てで呼ぶように、敬語なしで話すように言った。

 そういえば、雄輝と知り合ったときもそんな感じだったような気がした。やっぱり、佳織と雄輝は似てるんだな、と思った。

「ええ、わかったわ。よろしく、佳織」

 僕は、なんとなくだがこの二人なら良い友達になれるような気がした。

「うん、よろしく、茜。それにしても、茜の手って綺麗だよね。なんか、触ってて気持ちいいかも」

 その言葉を聞いて僕は茜と佳織の手のある場所を見てみると佳織は茜の手を両手で包んで表面を撫で回している。

「ちょ、ちょっとやめてくれるかしら」

 そう言いながら茜は右手を引っ込めた。

「あ、ごめん。いや、だった?」

 佳織はすまなさそうに言っている。

「別にいやじゃないわ。くすぐったかったの」

「肌が敏感なんだ。あ、だからそんなに肌、綺麗なのかな。羨ましいなー」

 佳織は言いながら今度は茜の腕を撫でた。茜はさっ、と腕を引っ込める。本当に触られるのが苦手らしい。

 佳織はそんな茜の反応を見て楽しんでいるように見える。

 僕はそんな二人の間に入ることができない。というか、僕のことを忘れているんじゃないだろうか。

 と、そこで今が昼休みだったということを思い出した。急にこんなところに連れてこられたのですっかり忘れていた。

「佳織」

 僕はとりあえず佳織の名前を呼んでみる。

「うん?なになに?」

 佳織は茜を触るのをやめて僕の方を振り向く。茜は少しほっとしたような様子だった。

「佳織は雄輝のところに行かなくていいの?いつも一緒に食べてるはずだよね」

「大丈夫、大丈夫。そろそろ来るはずだから」

 そろそろ来る、というのはここにという意味なのだろうか。そう思っていると足音が聞こえてきた。


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