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翌朝はまだ仄暗いうちから動き出して、一口二口水を含んだのみで再び歩いた。
後ずさりとも前進ともいえぬ、同じ所を巡る奇妙な感覚に駆られたまま川の意に従う。
だが前日のようにはいかなかった。体が痺れ、背中の重みがことさら酷く感じられたので、仕方なく荷を下ろし無理やり食物を口に入れた。冷たい水で流し込み、しばらくすると具合は良くなった。
背や腰を相変わらず圧迫し続ける袋の中身は、すでに太い骨の感触を帯びて、固く規則正しく女を打つ。腰紐をきつく結びすぎたのか。口を結んだ紐だけを持って引きずって歩こうとした。最初は良かったが、次第に重みが直接手に響くようになった。それに引きずられるうちに底が擦れて、手でもはみ出してきたらと思うと、まだ担いでいた方がましというものである。
それだけではない。
袋の口はナイフでもないと解けないくらいにきつく結んである。女は勿論これを開ける謂われはなかったが、もし少しでも綻びがあったら一体どんな臭気が漂い出すのか。
ジュニパーの花や山百合を詰められるだけ詰めたため、こうやって何も感じることなく歩けるのかもしれなかった。
背に負いたくないのに、二つを結びつける腰紐がある。重たいのに投げ出せない。疑念に飲み込まれそうで苦しいのに、なおも進み続ける。
狂女。狂女。
夜の訪れは、単に世界を闇に染めるだけではなかった。
女は夜が嫌いなわけではない。夜歩きはたまにしていたし、夜目もきいた。
隠そう、目に触れないようにしようとすればするほど、恐怖は倍加するものである。
胎児のように丸まる少女が、袋の中でどのような変態を遂げているのか、発疹がまだ生きていて体を溶かしていっているのではないか。薄い皮膚を破った骨が自分の背を突くのだ。絡んだ髪の奥に、溶けて濡れた目玉が煌めく…。
袋がバランスを失って倒れただけで、臆病風に吹かれた者の尻を叩くには十分なのである。
見ていたくなく、かといって目を離せば何らかの変化が起こるのではないかと、むしろ期待にも似た心の鼓動にたぶらかされて女はまんじりともできない。
山の冷えが刻々と厳しさを増し、ケット代わりの外套では防ぎきれぬ震えは、しかし寒さばかりとは言い切れなかった。
女は在りし日の少女の面影を思い出そうとしていた。ほんの僅かな一時にどれだけ少女は笑い、動き回ったか。つぶらな目をくりくりと見開いたか。鼻歌を歌いながら小鳥と見上げていた空は。脳裏に浮かべようとするのは、ひたすら明るく楽しげな姿だ。
だがどの姿にも、夕焼けの名残のような影がある。微笑みは、実は悲しげな眉の裏返しだった。丸くおどけた目は涙を隠すためではなかったか。少女は空ではなく、空の先を見つめていた。死の予感を、海に置き換えていた。
女に向けた愛情の影は尽きることない恐怖か。或いは悲哀か、焦燥か、羨望か。
女は考え直し、再び無邪気な少女の笑顔を思い浮かべる。




