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じりじりと迫る声で蝉が鳴き交わす。
包帯は蒸れ、少女はおかしな具合に頭を振り、それでも満足しないとしきりに叩き始めた。
嗅いだ者を弛緩させる鼻をつく臭い、それでいてどことなく甘い臭いが漂い、包帯は濃い黄色の染みを作っていく。
元々、少女の体からもむき出しの臭いがしていたので、女は無理やり川へと連れていき、布を片手に待ち構えた。
薄い皮膚を覆う発疹は顔だけではない。首や胸、つまりは全身が赤く腫れあがっている。垢が重なり合っているうえに、発疹が割れた所がぬらりと濡れていた。
少女は最後まで包帯を取ることをためらった。
しかしすでに幼子らしからぬ肌の様を見た女は怖くもない。何度も体を擦り、水をかけていく。
なんてことない。体の発疹と同じものがその顔にもあるだけだ。
ただ腫れた傷は目を半分ほど塞いでいた。くしゃくしゃ頭の一部分は、線が引かれたように髪が根こそぎなかった。血が滲み、またもやぬらりと濡れていた。血と膿がかさぶたとなっては崩れ、またかさぶたとなって拭いきれない痕を残していた。
奇妙なのは少女が何度も包帯を身につけたがったことだ。仕方ないので女は清潔な布を裂いて巻いてやった。そのようだから、絡まった髪を切り揃えることを承知させるのはなかなか容易ではなかった。
手先の器用なことには引けをとらない。女はたちまち服を作ってみせた。飾りも柄もない質素な服だが、淡い桃のスカートの端をつまみ、少女はいかにも嬉しそうに跳ね回った。
少女は小鳥に関心を示し、長い間その前に居座った。女は籠を卓の上に置いた。そこからなら少女が手を伸ばせるからだ。
飽くことなく見つめている少女は、食事のとき小鳥も目に入る場所にいられるようねだった。おかげで女と少女が差し向かいで座り、その間に小鳥がいる籠が置かれるという、なんとも奇妙な図が出来上がった。二人と一羽は共に食事をした。
少女が小鳥を、無心からであっても痛めつけると考えるのは全くの見当違いに終わった。少女はこれ以上ないほど小鳥を慎重に扱い、その指は震えているほどだった。
少女は籠をなんとか抱え、窓際まで運んだ。出すことは禁じられていたので椅子の上に乗せ、少女と小鳥は並んで空を見上げた。この時、小鳥はいつになく激しく動き回った。少女の方は空ではなく別のものを見ていた。
「海」
少女は幾度となく女に言った。
この家に馴染んできた頃のことだった。
「海が見たいの」
未だ顔の半分を隠そうとすることを止めないままに、だが他はかなり素直で控えめな子供なのだ。
少女は空を見ていたわけではなく、どんな様子かも知らない彼方に思いを馳せ、その言葉の響きに限りない憧れを抱いていたのだった。海と口にすると、少女はそれが甘美な音の連なりであるかのように瞳を潤ませた。
「海、海」
そう言いながら少女は小鳥を窓際へと誘う。海は空と同じように青いという女の言葉を聞き、さらに外を眺めている時間が増えたのだ。とはいえ、女も海を知らない。
どこから嗅ぎつけてくるものやら、女の家に少女が住み着いたことを村人たちは囁くようになっていた。少女のことを彼らは知っていた。あんな病持ちの子供と一緒に暮らすなんて、いよいよあの女は変人だと。いや狂人なのだ。亭主に逃げられて頭がおかしくなったに違いない。
止めた方がいいよ。思いきって親切心を働かせたのだろう、百姓女が声をかけてきた。
「あれは皮膚がすっかりやられちまってるよ。あれに近寄るとうつるわよ。早く追っ払わないと、あんたも同じ病気になるから」
女は数度瞬きをしただけだった。
女が狂人であるという噂は、どうやら本当らしかった。
少女は頑なに包帯を外すのを拒んでいた。




