嘘から出た○○
俺は今日、学校で小さな嘘をついた。
本当にちっぽけで、見栄を張っただけの可哀想な嘘。
「彼女が居るんだ」
案の定、誰一人として信じてはくれなかったが。
それは分かってた。俺は、あまり女子に好かれるような容姿をしていない。
だから、この話はここで終わった。
学校での長い授業を終え、俺は一人暮らし中のボロアパートに帰ってきた。
古い扉を開き、靴を脱ごうとしたんだが……
「何の冗談だよ」
俺の眼前には、綺麗な金髪の少女が眠っていた。
一度玄関を後にして、扉の表記を見る。
うん、俺の名前。俺の配属された部屋。間違えちゃいない。
何だこの状況は。
そして、誰なんだ、この少女は。
「お、おーい」
少女の目と、俺の目が合う。
深くて底の見えない海のように深い、碧眼。見ているだけで吸い込まれそうだ。
ボロアパートに似合わない、美少女が俺の部屋に何故居るんだ。
すると、少女の口が動いた。
「貴方が、私の彼氏?」
日本語だった。へえ、外国人じゃないってことなのか?
そうじゃない。何て言ったよ、今。
彼氏? そんなわけあるか。彼女居ない歴イコール年齢の高校男児だぞ?
「違うの? 私は、貴方の彼女なのに」
畜生、綺麗な声だな。何言ってるんだよ。
電波なのか? この少女は。美少女なだけに、勿体ない。
俺の、彼女って言ってんのか? あんなのは、俺の嘘に決まってるだろ。
そんな俺の気持ちにも気付かず、少女は微笑みながら俺に言った。
「とりあえず、よろしくね。私が、貴方の彼女だから」
訳も分かっていないまま、彼女との奇妙な生活が始まった。
朝、突如俺の家に訪れて朝飯を作ってくれてたりする。コンビニが多かった俺の胃には、刺激が強かったみたいだ。
美味しかったから、とりあえず全部食べた。
そうすると、彼女が微笑んでくれる。見惚れてしまうくらい、綺麗だった。
最初は理解不能だったが、同じ時間を過ごしていくうちに、俺は彼女に惹かれていった。
何度か、デートもした。本当に付き合っているんだという実感が湧いてきた。
だから、俺は学校で友達に打ち明けたんだ。
「彼女が居るんだ」
俺達のデートを見ていた奴等が居たのか、意外と信じてもらう事が出来た。
家に帰って、皆に信じてもらう事が出来たと、彼女に伝えたかった。
学校の授業なんて、右から左に抜けていった。いつも通りだったようも気がするけど。
授業が終わり、友達とも一緒に帰らず、家に直帰した。
いつも、彼女は俺の帰りを家で待っていてくれた。
だけど、そこに可愛い彼女の姿はない。
どこに居るんだろう。喧嘩したわけでもない。用事でも、出来たんだろうか。
俺の視界の端に、紙が置いてあるのが見えた。
俺は、こんなところに紙を置いた記憶はないんだが……
その紙には、丁寧な文字が綴られていた。
『私はあなたの嘘で出来ていたの。だから、貴方が私という彼女が居るという事を言ってしまったから、消えてしまうの。ごめんなさい』
言うのが遅いんだよ。
そんな事知らなかった。君が消えてしまうだなんて。知っていたら、言わなかったのに。
部屋が静まり返っている。一人っていうのは、寂しいものだったんだな。思い出したよ。
だから、俺は明日学校でこう言うことにするよ。
「彼女が居るんだ」




