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【魔王#5】全てを巻き込む巨大な渦

この物語は――

異界を支配する“魔王”の息子が、父をぶっ壊す話である。

……いや、語弊があった。正確には、“父のやり方”を、だ。


妾の子として生まれ、人間とのハーフというだけで差別され、

魔王の城で、学園で、才能すら否定され続けた少年。

だが、彼の中には誰よりも鋭く強い剣があった。

それは“誇り”と“自由”という名の意志。


これは、そんな少年が、

逃げ出した先の学園で仲間と出会い、

差別も格差も越えて、

世界そのものに“選び直し”を迫る物語。


血なんかに負けるか。

環境に屈するかよ。

僕のやり方で――


魔王すら、超えてみせる。

昼下がりの学園寮――

そこには、いつもより静かすぎる空気が流れていた。


魔城歩鳥は、ロンと共にロットの治療をしていた。

ベッドに横たわる彼女の顔は蒼白で、しかし、眠っている顔には戦士の気高さが宿っていた。


「……本当によくやってくれました、ロットさん」


歩鳥はタオルを絞りながら、柔らかな声でそう告げた。

彼の声音はいつも通り穏やかだ。けれど、その目の奥には冷たい焔が揺れている。


「これから、どうするアルか?」


ベッド脇で包帯を巻いていたロンが、眉をひそめて問う。

歩鳥は少しだけ空を見上げるようにして、そして小さく微笑んだ。


「魔王が、異界派の壊滅を掲げた。……それは、私を試すということです。ならば……」


静かに立ち上がり、背筋を伸ばす。その眼差しは、もう過去を見てはいない。


「全て、迎え撃ちます。魔王軍を、異界の精鋭を……そのすべてを。この手で討ち滅ぼせば、私の名は異界と地球の両方に轟くでしょう」


彼はそう語った。まるで運命そのものに向けた宣戦布告のように。


そうして迎えた、翌日。

学園では休日明けのざわつきが戻ってきていたが、歩鳥にとっては違った。


放課後、学園の端にあるマーケティング部の一室――

そこに、数名の異界派のメンバーが集められていた。


「いよいよ、本格的に戦いが始まります」


そう口火を切った歩鳥の姿は、ひときわ神聖で、そして恐ろしかった。

微笑をたたえたまま、彼は戦略を語る。


現在、瀬礼文学園に魔王軍の精鋭が送り込まれている。

ウル…異界でついている異名は《悲観のウル》

他にも戦闘者が送られて動き出せば、この瀬礼市は火の海になる。


「我々が守るべきは、ただの生徒会議ではありません。これは、瀬礼文学園という“世界の縮図”における、自由と平等の証明です」


静かな語り口だが、集まった仲間たちの胸には確かに火が灯る。


だが――


同じ時間、学園内の別の場所では、すでに影が動き始めていた。


誰もが気づかない間に、教室に一人の生徒がいた。

不自然に自然な存在。初日にも関わらず、なぜか皆が「前からいた」と記憶している。


悪魔族の少女――ウル。


制服姿に短い髪、控えめな笑み。

だがその眼は、かつて異界で数百の命を奪った者の眼だった。


「人間…特に日本人は優しいね、皆、騙されてる。」


静かにノートをめくるウルの姿には誰も疑問を抱かない。


それこそが、“潜入”という暗殺者の最上技術だった。


そしてウルが次に目をつけたのは――御影穂花。


御影財閥と呼ばれる日本屈指の財閥の令嬢。

異界派とは異なるが、強大な影響力を持ち、しかも現在学園で人間でありながらも中立を保っている。


さらにその御影財閥が従える闇の忍者。

《風雷一族》

異界人を暗殺することも容易い強力な一族。



「ねぇ、御影穂花さん。……ちょっと、話がしたいな」


その声は、廊下に消えていく。

影は、確実に広がっていた。


そして、またひとつ――戦争の火種が投げ込まれようとしている。


_________



放課後の学園。

日が傾き始めた夕暮れ時、瀬礼文学園の正門を出た御影穂花は、いつものように家に帰るための静かな道を歩いていた。

その隣には、御影財閥に使える忍びの一族

――風雷一族の忍、《蒼風》。

彼はいつも通り、ただ護るように付き添っていた。


「蒼風…送り迎えありがとう、今日は体育があって疲れたよ。」


「帰ったら婆やに頼んで美味しい茶菓子でも食べましょう。」


二人が何気ない会話をしながら人気のない道に入った。


その時だった。


「……ねえ。穂花さん、でしたっけ?」


微笑みと共に、少女が現れた。


制服姿の、小柄な少女。

ショートカットに、青く光る二本のツノ。

その姿に見覚えはなかった。

だが蒼風の背中には、即座に冷たい汗が走った。


「……下がってください、穂花様」


低く、短く告げる。

その声に、穂花が戸惑う間もなく、蒼風はすでに前に出ていた。


少女は――悪魔族ウル


「悲しいね。気づいちゃったか」


その瞬間、空気が裂けた。


蒼風の体が霞んだかと思えば、すでに斬撃が交わされていた。


しかし――追いつかない。


蒼風の見切りも、回避も、体術もすべてを超えて、ウルのタクティカルナイフは、空間を裂いていた。


「っ、化け物か……!」


右腕を斬られ、蒼風が後方へ下がる。

血が舞い、穂花が「やめて!」と叫ぶも、空気にかき消される。


「もうちょっと楽しませてよ。ね、忍者さん」


微笑みながら、ウルの手にあったナイフが銃に変わった。


黒いチャカの銃口が、風のように揺らめく。


「逃げてください、御影様!」


蒼風の声と同時に、何かが爆ぜた。

爆風と共に、チャカの弾丸が空気を裂く。

それを交わす。


「舐めるなよ…薄汚い悪魔!!」


間合いに踏み込んだ蒼風の忍者刀が、ウルの頬をかすめる。


「おお、痛い。忍者の刃は硬いね。でも……それだけ?」


刹那、ウルの動きが変わる。


蒼風が防御を取るよりも早く、

ナイフが、五手、六手と連続で突き立てられ――


「ぐっ、は……っ」


腹に一撃。肩に一撃。

次の瞬間、ウルの膝蹴りが顔面を捕らえた。


体が浮いた。


地面に叩きつけられた蒼風は、地べたに這いつくばる。


「もう終わりかな」


静かにウルが近づく。


その手にあるナイフが、死を意味する刃だった。


「やめて……!お願い!」


穂花が叫んだ。


だが、ウルの目にそれは何の意味もなかった。


「これはお仕事。歩鳥を殺す準備の一つ。あなたの周囲を、壊していくだけ」


ナイフが振り下ろされたその瞬間――


「……ッ!」


それを止めたのは、穂花の体当たりだった。

非力な少女のその力が、ほんのわずか、ウルの手元を狂わせた。


「――ああ。殺す順番、変えるべきかな?」


ウルの眼が、冷たく穂花に向けられた。


「穂花様…もう少しだけお待ちください…この蛮族を地獄に送ります…」


立ち上がった蒼風の目に諦めの気持ちは感じられない。


「風雷一族の忍びと財閥の令嬢…これから起こす事件の布石なんだよ。」


ウルの目はまるで氷刃のように冷たく鋭い。


「御影家を守る事こそ、存在意義なのだ!」


ウルは再び、瀬礼文学園で動き始める。


そしてこの一件が瀬礼文学園を舞台にした大戦争に繋がってしまうなんて…まだ誰も知らない。

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