【魔王#4】魔王戦争開幕…悲しい現実
この物語は――
異界を支配する“魔王”の息子が、父をぶっ壊す話である。
……いや、語弊があった。正確には、“父のやり方”を、だ。
妾の子として生まれ、人間とのハーフというだけで差別され、
魔王の城で、学園で、才能すら否定され続けた少年。
だが、彼の中には誰よりも鋭く強い剣があった。
それは“誇り”と“自由”という名の意志。
これは、そんな少年が、
逃げ出した先の学園で仲間と出会い、
差別も格差も越えて、
世界そのものに“選び直し”を迫る物語。
血なんかに負けるか。
環境に屈するかよ。
僕のやり方で――
魔王すら、超えてみせる。
絶体絶命のその瞬間。
血に染まったロットの足元を、風が駆け抜けた。
「――銀河の果てまで吹き飛ぶネ!!」
それはまるで爆音。
突如、倉庫の天井を突き破るかのように飛来した影が
――拳を放った。
その拳は、風圧だけで地面をひび割れさせ、空気を叩き割りながらウルの目前へと迫る。
「……!」
ウルが反応する。
両腕を交差し、防御の構えを取る。
「これはまずいね…」
「剛龍拳!!」
ドゴォッ!!!
次の瞬間、衝撃音とともに倉庫が揺れた。
足場が割れ、鉄パイプがガラガラと崩れ落ちる。
だが――
「悲しいくらいの威力だね……」
黒煙の中から聞こえるのは、いつものダウナーな声。
そしてそこには、片膝をつきながらも衝撃を耐え切ったウルの姿があった。腕には薄く血が滲んでいる。
「剛龍拳…日本だったからマーク外してた。」
「次は火星まで吹き飛ばすネ」
「全然銀河の果てじゃないね…」
(龍人族…さらに剛龍拳。異界武術の中でも頂点クラス…)
ウルの顔から余裕が消える…
かつて異界の龍から人間の姿に進化した種族。
《龍人族》は《ゲート》が開き地球と交流する中、文化も人間性も食べ物も似ている中国に種族ごと移住した種族。
風に靡くチャイナ服を翻し、拳を振り切ったロンが静かに着地する。
瞳には怒りの炎、背後にはボロボロのロット――そして、共に現れた影。
「ウル……お久しぶりです」
柔らかな声音に、確かな怒気を孕んだ青年が、ロンの隣に立つ。
「相変わらず性根が腐り切ってますね」
瀟洒な制服の襟を正し、剣をゆるく握る彼の名は――魔城歩鳥。
異界最大の支配者・魔王の血を引く男にして、その運命に抗う者。
ウルは無表情で、歩鳥の顔をじっと見つめた。
「……魔王に反逆するなんて、愚かすぎ…」
「ええ、でもおかげさまで地球は私にとって実に“自由”ですから」
歩鳥が微笑む。だがその目には、一切の油断も、慈悲もない。
ロットの血を見て――怒りは、既に限界を超えていた。
「あなたは、私の仲間を傷つけました。ならば、ここで清算させてもらいましょう」
スラリ、と剣を抜く音が響く。
「ロン、行きますよ」
「了解ネ。怒らせたツケ、たっぷり払ってもらうヨ!」
ロンが気を高め、拳を握る。
歩鳥が静かに、剣を肩に構える。
――そして、魔法少女ロットは薄れゆく意識の中で呟いた。
「主人公……来た……」
次の瞬間…
ギリッ、と空間を裂くような音が倉庫内に響いた。
――それは魔王の息子にして、異界の頂点の剣を振るう者、魔城歩鳥の剣戟。
軽く振るわれただけで、刃は風を纏い、地を断ち、周囲の温度さえも凍りつかせる。
その剣筋には、もはや“隙”という概念が存在しなかった。
「みじん切りじゃなくて、もはや大根おろしみたくしますね。」
「……これはちょびっとまずいかなぁ。」
ウルは吐息混じりに呟いた。
足を滑らせるように宙を舞い、ナイフで歩鳥の剣を受ける――が、ギリギリ。
その反動でナイフが弾け、青白い火花が散る。
「悲しいね、父親の血ってやつは……どうしてこうも厄介なんだろう」
カチリ、と銃を構える音。
その瞬間、歩鳥の影が消えた。
「遅いですよ、ウルさん」
背後から歩鳥の声。振り向くより早く、斬撃が背を裂いた。
だが――その一撃を、ウルは瞬時に後方宙返りでかわす。
「……さすが。けど、止められるとは思わないで」
そして、次の瞬間。
「私の方がちょっぴり上かな」
ウルの銃からまるで時間の流れが歪むほどの早撃ち。
歩鳥はそれを、剣の柄で弾く。弾かれた弾丸が燃料タンクを貫く、ドン!!という爆風が倉庫内に響きわたり、視界が煙に包まれる。
「さあ、ここからは“私達”の番です!」
煙を割って現れたのは――
「銀河の果てまで吹き飛ぶネ!!」
中華拳法の達人、ロンだった。
全身の気を込めた発勁が、煙を切り裂き、ウルの懐へと叩き込まれる。
「太陽系を超えていくアルヨ!!」
「……ッ!」
両腕を交差し、ガード姿勢を取るウル。
…だが、完全には防ぎきれなかった。
ドゴォッ!!!
衝撃を受けたウルは壁際まで後退し、口元から鮮血が垂れ落ちる。
「真正面から受け止めるのは…やっぱり難しいかな」
「では、終わりにしましょう。」
歩鳥が、再びウルの背に立っていた。
その剣が――音もなく、地を這う蛇のようにうねりながら突き出される。
「……本当に、魔王の息子らしくなってきた」
それを、ギリギリでウルはナイフで受ける。だが、刃の重さが違う。
「あなたの血と混ぜれば紅葉おろしになりますね。」
「真正面なら負けない…いや……“負けられない”かな」
両者の刃から火花が散る。
「地球は我々の土地なんですよ。」
「疑われるのが悪い…反逆者。」
究極レベルの斬り合い…しかし
(なんだ…私の知ってる歩鳥じゃない…強い…)
一撃ごとに、ウルの腕が痺れ、神経が焼ける。
剣技の精度、スピード、意図の読み合い――すべてにおいて、歩鳥が上回っていた。
「…ここまで成長してるなんて、想定外。」
ウルは歯を食いしばり、再び銃を構える。
しかし、視線の先にはロットの魔法陣が。
「主人公は、何度でも立ち上がるんだから!」
今や復活したロットが、空間操作で銃口の先に再び“罠”を仕込んでいた。
撃てば、撃つほど、逆に撃たれる。
「……仕方ない、ね。今回は退くよ。だけど――」
ウルは宙に弾丸を投げ込む。その瞬間、爆発的な閃光と音が倉庫内を支配する。
「……次に会う時は、誰かが死ぬよ」
煙の中、ウルの気配が消えていく。
気づけば、戦いは幕を下ろしていた。
だが――それはまだ、戦いの“はじまり”に過ぎなかった。