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【魔王#3】いきなり激突…主人公な魔法少女

この物語は――

異界を支配する“魔王”の息子が、父をぶっ壊す話である。

……いや、語弊があった。正確には、“父のやり方”を、だ。


妾の子として生まれ、人間とのハーフというだけで差別され、

魔王の城で、学園で、才能すら否定され続けた少年。

だが、彼の中には誰よりも鋭く強い剣があった。

それは“誇り”と“自由”という名の意志。


これは、そんな少年が、

逃げ出した先の学園で仲間と出会い、

差別も格差も越えて、

世界そのものに“選び直し”を迫る物語。


血なんかに負けるか。

環境に屈するかよ。

僕のやり方で――


魔王すら、超えてみせる。


瀬礼文学園。

日本でも屈指の名門校であり、政財界の子息や異界の名家が集う“特別な”学園。

そのなかで、魔王の息子――“魔城歩鳥まじょう ほとり”は、特異な存在だった。


彼の噂は校舎中に広がっている。


「あれが…」「魔王の……でも妾の子なんでしょ?」

「でも、成績は常に2位だって……」


日々囁かれる視線のなか、歩鳥は微笑みを絶やさず、静かにその言葉を受け流していた。


しかし――

その日、“小さな事件”が、ひとつ、学園を揺らがせる。


_________



マーケティング部の活動の休憩時間。

歩鳥はロンと並んで昇降口に向かっていた。


「素晴らしい夕焼けですね。こういう色合いを見ると……僕は少し、安心します」


「アル! 詩人みたいなこと言うネ!」


ロンは笑って、ポケットに手を突っ込む。


だがその直後――


「ちょっと魔城くん、職員室に来てもらえる?」


後ろからかけられた声に、歩鳥は静かに振り返る。


学園の風紀委員――**綾小路あやのこうじ**だった。


「……どうしましたか?」


「君、今日の6限の前……1年生の女子ロッカーにいたって話、本当?」


歩鳥は目を細めた。


「1年生のロッカー、ですか? それは少し…」


「しかも、そのロッカーから数点の私物が“紛失”したと報告があってね。防犯カメラは…ちょうど死角だった」


空気が、凍りつく。


ロンが険しい顔になる。


「歩鳥がそんなこと、するワケないアル!」


しかし、風紀委員の表情は崩れない。


「まだ確定ではない。でも、君にだけ聞きたい。…なぜそこにいたのか」


歩鳥は静かに口を開いた。


「――いえ。僕はその時間、自分の教室で次の部活動の準備をしていましたよ。証言してくれる方も、いるはずです」


その声は落ち着いていた。

だが、どこかに“違和感”があった。


歩鳥のロッカーには、知らないハンカチや、小さな飾りが「いつの間にか」混じっていたという話も広がっている。


――意図的に、何者かが仕組んだ“罠”。


歩鳥はただ、空を見上げた。


「……どうやら、もうすでに刺客が送られてますね。」


囁くように呟いたその声は、教室の隅にまで届くはずもなく、ただ、ロンだけがその背に焦りを感じていた。


「歩鳥、最近…狙われてるネ? このままじゃ……」


「ええ。気づいています。

――“影”が、僕の周囲で動いている。」


「まぁとりあえず、部室に戻りましょう。」


歩鳥の表情は崩れなかった。



_________



倉庫街――

夕暮れの色が薄れ、夜の帳が降りる静かな時間。瀬礼文学園の外れに位置するその裏路地は、学園行事の準備物資が運び込まれる臨時倉庫として利用されていた。

本来なら誰もいないはずのその空間。だが――そこには既に、“死”の気配が漂っていた。


薄暗い倉庫の屋根。影のように佇むひとつの少女の姿。

制服に黒いコートを羽織り、無表情に見下ろしているのは――悪魔族の暗殺者、《ウル》。


彼女は無言のまま、小さなタクティカルナイフを指先で弄び、片手に持つチャカを静かに点検する。


「悲しいね……何も知らずに、集まってくる」


無機質な声が風に紛れて消えた。


その頃、学園の一角。

マーケティング部の仮設活動室では、歩鳥とロンがいつもと変わらぬ調子で準備を進めていた――ように見えた。


「先の一件、手口から考察するとおそらく送られてきたのは、魔王軍の暗殺部隊の若きエース。悪魔族の《ウル》です」


歩鳥は静かに言葉を紡いだ。


その目に宿るのは、恐れではなかった。

ただ――冷たい、確信。


「……魔王は本気で、私を殺しにきているようです」


ロンが机の上に拳を叩きつける。


「全て吹き飛ばすアル! 魔王だろうが刺客だろうが、ロンは負けないヨ!」


しかしその瞬間、警告音が鳴った。

歩鳥が設置した監視カメラの端末に、唐突に“砂嵐”が走る。


「……どうやら、倉庫を狙ってきたようです。」


歩鳥はすぐさまモニターに指を滑らせ、もう一つのカメラへ切り替える。

だが、次の映像にも奇妙なノイズが走り、数秒後には完全にブラックアウト。


「……機器妨害。これは確実に、プロの仕事です。」


歩鳥の声は静かだが、言葉の端に鋭い“熱”が滲んでいた。


ロンが眉を寄せる。


「近くにロットがいるアルよ! あの子、イベントの装飾に使う道具を取りに倉庫に行ってた!」


「……ロットなら、対抗できるかもしれません。」


歩鳥は腰から取り出した端末へ通信を切り替えた。


「ロット、聞こえますか?」


『……ん? あ、ほとり!? 今ちょうど倉庫で――えっ、なにこれ!? なにこの圧!? 空気が重っ!』


「ロット、そこには魔王軍の戦闘者がいます。今から僕とロンも向かいますが、できれば悪事を働く前に倒してください。」


『うえぇぇ!? なんでそんなヤバいの来るの!? あたし魔法少女なのに!? 魔法少女だから生き延びたいんだけど!?』


「……安心してください、必ず助けに行きます」


歩鳥は静かに端末を収めた。


そして立ち上がり、制服の裾を整えると、ロンと目を合わせた。


「行きましょう。彼女は仲間です。僕は、もう誰一人、見捨てたくない」


「……了解アル! 行こう、歩鳥!」


夕闇のなか、二人の足音が鳴る。


_________



倉庫の鉄扉が、鈍い音を立てて開かれる。

そこには一人、制服の上にピンク色のマントを羽織った――槍を構える“魔法少女”の姿。


ロット。


その細身に似合わぬ鋭利な魔槍を手に、明らかに“異質”な存在を前にしたにも関わらず、彼女の口からこぼれたのは、呆れとも、諦めともつかない一言だった。


「……またやっちまったね。これも主人公で魔法少女の運命か……」


その場にいた誰よりも軽い言葉。

だが、その背後にある“覚悟”を、ウルは感じ取っていた。


「……悲しいね。そんな言葉で、死が軽くなるならいいけど」


倉庫の天井から、まるで音もなく降り立つウル。

チャカ(拳銃)を構え、ナイフを逆手に握るその動きに、隙はない。


「貴女が……魔法少女、ロット?」


「そーよ、主人公よ。可愛くてうっかり屋でちょっとポンコツで……でも世界を救う側の人間だから」


ロットの肩の力は抜けていた。だが、魔槍の穂先は寸分のブレもなく、ウルを捉えている。


「ここで歩鳥が死ぬのを、黙って見てるほどヒマじゃないの」


「……殺すのは、貴女じゃない。彼だよ。私は……その途中で、ただ邪魔を排除するだけ」


「へぇ、やっぱり悪魔族って情が薄いね。悲しいね、って言っておいて、誰よりも悲しまなそう」


ロットが踏み出す。

足元に魔法陣が浮かび、槍の穂先がほんの一瞬、光を帯びる。


その瞬間、バトルは始まった。


「――行くよっ! 魔法少女・全力モード!」


「……悲しいね、始まっちゃった」


ウルが回避するよりも早く、魔槍が床を穿ち、鉄の火花を撒き散らす。

だがウルもまた一歩も退かず、刃と銃弾でロットの猛攻を迎え撃つ。


「……まずは幹部を一人、削らせてもらうよ」


倉庫の床に響く、低く冷たい声。

闇に紛れるように現れたウルは、凄まじスピードでチャカの銃口をロットに向けていた。


対する魔法少女ロットは、そんな脅し文句に屈する気配もない。

マントを翻し、魔槍を構え、満面の笑みでこう言い放った。


「私は嬉しい! 何故なら主人公だから!」


銃声が響く。

ウルの放った弾丸は、確実にロットの胴を狙った――はずだった。


だが次の瞬間には、ロットの姿は空中にあった。

床に跳ね、壁を蹴り、まるで跳ねる蝶のような動きで弾丸を掻い潜る。


「当たらないよ。私は、こう見えて魔法少女だから!」


言葉と共に放たれた魔槍の一閃。

穂先が、ウルの頬をかすめる――ほんの、紙一重。


ウルが目を細める。


「……やっぱり、間合いが読めないね。達人の槍ってやつは」


間合いを外すため、ウルはすぐさま後退。

しかし、ロットは逃さない。


「行っくよぉ!! 必殺・突撃魔法槍斬りっ!」


名状しがたい技名と共に繰り出された突きの連撃。

魔法と槍術を掛け合わせた変則的な太刀筋――そのどれもが、殺気を帯びていた。


ウルは辛くも距離を保ち、ナイフを抜く。


「悲しいね。結局、近づくしかないんだ」


ウルの身体が“霞”のように揺れたかと思えば、ロットの槍をナイフで受け流すと、するりと懐へ入り込む。


そして――


「ここからは、少々しんどいよ」


ナイフが、掌が、踵が。

流れるような動きで、ロットへ向けて練撃を繰り出す。


「くっ、なんで魔王軍ってこういう攻撃してくるのーっ!」


ロットは叫びながらも、その目は鋭く、確実にウルの軌道を追っている。

それでも――ウルは異界のトップ暗殺者。その一撃一撃が、命を奪うために鍛えられた“実戦”の技。


魔法少女であるロットは、それを受け止めながらも、一歩、また一歩と押し込まれていく。


「悲しいね……君が本当に“主人公”なら、ここで死ぬわけにはいかないはずだけど」


「うっさいっ!! 主人公は!ここからが!本領発揮なのっ!!」


次の瞬間!


「これで――終わりにするっ!」


ロットが叫ぶ。

その手には、魔力を帯びた槍。そしてその足元には、淡く紫光を放つ魔法陣。

槍を構えたまま、ロットはそれを魔法陣の中心へ――突き刺した。


瞬間、空気が“裏返った”。


ズン――と音がした気がする。

ウルの背後、何もなかったはずの空間に魔法陣が浮かび上がり、そこから“逆側”にいたはずのロットの槍が――現れた。


「なっ――!?」


ウルが跳ねるようにその場から退避。

だが、完全には避けきれない。


槍の穂先が、ウルの頬を裂いた。


赤い筋が一閃、空中に舞う。


「……悲しいね。油断、した」


しかし――ウルの動きは止まらなかった。

刹那、チャカを振り上げ、信じられない速度でトリガーを引く。


バン、バババンッ!


高速の三連射。すべてがロットの眉間を貫く精度で飛ぶ――!


「甘いっ!」


ロットが叫ぶ。

その前に、またしても魔法陣が展開される。今度は、彼女の目の前。


弾丸はその魔法陣に吸い込まれ――


「逆流します!」


――ウルの目の前に、突如出現した魔法陣から、吸い込まれたはずの弾丸が飛び出した!


「これはヤバい…」


ウルが、反射的に身を反らす。

一発、二発、三発。すべて掠めてはいたが、最後の一発が右腕をかすめていた。


「……これは、厄介だね……空間の転位……魔法と槍の組み合わせ、なるほど――魔法少女、名乗るだけのことはある」


しかし――その言葉の次の瞬間。

ウルの体から、殺気が“実体化”したかのような、得体の知れない圧力が迸った。


「だからこそ……」


ウルが低く、囁くように言った。


「……今、殺す」


ドッ、と空気が爆ぜる。

ウルの影が五つに分かれたように錯覚する一瞬――そしてロットの周囲に、無数のナイフが雨のように迫る!


「っ……くううううっ!」


ロットは魔槍を旋回させ、弾き、払う。

魔法の盾を展開し、空間のゆがみで軌道をずらし――ギリギリのところでしのぐ。


だが。


長い槍でナイフを防ぐのは限界がある。


「はい、おしまい。」


刃がロットの足元から跳ね上がる。

地を這っていたウルの影から、もう一本のナイフが突き上がるように飛び出した!


ロット必死に体を捻る。


しかし、胸に深く一閃――


「……が、ぁあっ……!」


血が舞い、背がのけぞる。


「悲しいね、これが実力差だよ」


ウルが囁きながら、ゆっくりと歩を進める。

まだ動ける。だが、ロットの体は深く裂かれていた。


「私……が……」


ロットは、よろめきながらも槍を杖にして立ち上がる。


「ここで倒れたら……主人公じゃ、ないもん……!」


この戦いはさらに混沌と化していく…

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