【魔王#1】反逆の狼煙
この物語は――
異界を支配する“魔王”の息子が、父をぶっ壊す話である。
……いや、語弊があった。正確には、“父のやり方”を、だ。
妾の子として生まれ、人間とのハーフというだけで差別され、
魔王の城で、学園で、才能すら否定され続けた少年。
だが、彼の中には誰よりも鋭く強い剣があった。
それは“誇り”と“自由”という名の意志。
これは、そんな少年が、
逃げ出した先の学園で仲間と出会い、
差別も格差も越えて、
世界そのものに“選び直し”を迫る物語。
血なんかに負けるか。
環境に屈するかよ。
僕のやり方で――
魔王すら、超えてみせる。
「僕の名前は――魔城歩鳥と申します。
魔王の息子です。ええ、妾の子として生まれました。そして……人間とのハーフでもあります」
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その日、僕は静かに校門をくぐった。
東京都、瀬礼市。
異界と人間の文化がつまりファンタジーのような世界観が混じり合うこの街にある、日本最高峰の学園――瀬礼文学園。
異界人も人間も、才能を持つ者なら等しく集まるこの学園で、僕は“普通の生徒”として暮らしている。
もっとも、“普通”という言葉が、僕にどれだけ縁遠いものかは、彼らの目が教えてくれる。
「見た?」「本物だよ、あれ……」「魔王の……」
「でも妾の子らしいよ」
「人間とのハーフって……マジ?」
「でも、めちゃくちゃ整ってない……?」
教室、廊下、校庭。
どこを歩いても、僕の背中には視線が突き刺さる。
その多くが、恐れ、偏見、あるいは憧れ――そして、好奇心。
魔王。
異界に君臨し、大陸の大半を支配する圧倒的存在。
その血を引くというだけで、僕はこの学園の空気を変えてしまう。
「……素晴らしい。空気というものは、これほど簡単に揺れるのですね」
魔王城にいた頃、僕は誰よりも優秀でした。
成績も戦闘能力も、兄弟姉妹を凌駕していました。
それでも、評価されることはなかった。
僕が“妾の子”だから。
僕の母が“人間”だから。
魔族たちは、血を重んじ、階級を重視し、異物を拒む。
魔王でさえ、僕を認めようとはしなかった。
あれほど努力したのに。
あれほど成果を示したのに。
あれほど、父に認められたかったのに――
「……でも、もうやめたんです。縛られるのは、苦しいですから」
だから僕は、逃げてきました。
魔王の城から、魔族の学園から、あの世界から――すべてを捨てて。
この“瀬礼文学園”という、新しい檻へ。
「歩鳥、遅いヨ!」
唐突に、陽気な声が背中から響いた。
振り返ると、そこには一人の少女――
チャイナ服を制服の上から着る豪快さ、紅玉のような瞳でニコニコと笑う少女、**龍 神美**が立っていた。
「ごめんなさい、ロン。途中で風に巻き上げられた木の葉が素敵で、つい見惚れてしまいました」
「センチメンタルな理由ネ!よし、許すアル!」
彼女は拳法家で、“剛龍拳”という流派の若き達人だ。
中華料理が得意で、性格は豪快で、時に少年のようでもある。
そんな彼女が、なぜ僕に力を貸すのか。
それは――僕の生い立ちを聞いて、
「気に入ったネ!」と、即決で協力を申し出てきたからだ。
「この学園で差別する奴ら、全部ブン殴ってやるアルよ!」
「でもできれば……会話で解決したいですね」
「拳で話すアル!」
……このあたり、意見が噛み合うことは少ない。けれど、不思議と呼吸は合う。
「歩鳥、あの話、考えてる?」
「……ええ。異界と人間の“平等”の話、ですね」
僕たちは、いま“異界派”として活動している。
人間も異界人も、差別されない社会を目指すための学生集団。
まだまだ少数派だが、僕はここから世界を変えたいと思っている。
けれど、そうはさせまいとする勢力もある。
人間優位派。異界優位派。
そして――異界の根源、魔王軍。
「ロン、そろそろ教室に戻りましょうか。朝の空気は……もう十分堪能できました」
「そうネ!今日も授業サボって体育館裏で鍛錬するアルか!」
「……やめてくださいね?」
笑いながら、僕たちは歩き出す。
この先に、何が待ち受けていようと。
僕はもう、逃げることはない。
才能を否定され続けたあの日々。
人間とのハーフであるというだけで、憎まれた日々。
父から逃げ、母を失い、ようやく得た“自由”。
「素晴らしい……ようやく、選べる道が見えてきた」
ロンを見ながら微笑み、学園の喧騒の中を静かに進む。
この場所で、もう一度証明しよう。
血でも、家柄でもない――
“意志”こそが、人の価値だと。
そして、世界を変える。
この手で。