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街中での決闘

 

 群衆に囲まれながら、二人の間には一時の静寂が流れた。次に、最初に動いたのはユーリの方だった。勢いよく胸に打ち込むが、シリウスは片手で防いでしまう。その後も攻撃を行うが、彼は一歩もこゆるぎもすることもなく、すべて打ち返していた。

(クソッ!!やっぱりコイツ、一撃が重いな!!)

一見、ユーリが劣勢かと思われたが、すぐにその契機が訪れた。

「――――あっ!?」

ユーリが打ち込んでから、また着地しようとしたとき、砂の地面をホールドできなかったのか、片足を滑らせてしまった。それはユーリにとって致命的な隙だったのだが・・・・。


――――――――シャラン


彼の胸元から、金色でできた精緻な十字架ロザリオが現れた。十字架の中心には、赤い石がはめ込まれた小さいけれど、美しい十字架だった。それを見た瞬間―――――。シリウスの時が止まる。


「―――――な」


あきらかに彼の視線は十字架に注がれており、信じられないものをみたという表情をしていた。しかし、その時間はユーリが隙を突いて打ち込むには十分な時間であった。


「――――――せぇいッッ!!」


すれ違いざまに、ユーリがシリウスの肩にしたたかな一本をいれた。シリウスは細い体には似合わないユーリの一撃に、木刀を取り落としそうになった。


「一本!!」


と、審判役をかってでたティテュスが宣言した。周りの群衆はいきなり現れた小柄な少年の勝利にどよめきが走った。

「お、おい・・・・あの、小僧、シリウス様を負かしたぞ」

「信じられないわ・・・今までシリウス様に勝てる人間なんていなかったのに・・・」

民衆のどよめきをよそに、シリウスは黙って今も十字架を注視したままだ。

「お前・・・・」

シリウスが言葉を発しようとした瞬間、

「ああ―――――ッ!?兄さんを待たせすぎちゃった!!急いで帰らなくちゃ!じゃ、もういいだろ??それじゃ!!」

といって踵をかえして、軽やかに去って行ってしまった。

残されたのは、百戦錬磨の主が負けたという信じられないものをみて顔を硬直させている、レオナルドとティテュスと、その主だけだった。


「・・・ティテュス」

「・・・・・は」


「部下に今の少年のあとをつけさせろ。そして必ず居場所を突き止めさせろ。必ず、必ずだ」

「・・・・御意」

(あの人に、兄だと?)

半ばいぶかし気に思いながら、シリウスは左腕につけた金色の腕輪を見つめた。それもまた精緻な意匠をした美しい腕輪で、真ん中にはさっきの少年の持っていた赤い石と酷似した石がとりつけられていた。


一方、さっきの屋台にもどったユーリは急いで串肉やらパンやら果物を買い込むと、兄が待っている宿屋へ戻ってきた。

「おそかったねぇ。どうしたんだい?」

「いやー、ははは。なんか喧嘩の仲裁してたら、知らない貴族様に絡まれちゃって・・・」

「・・・喧嘩かい?」

兄が心配げに尋ねてくるので、ユーリは心配させまいと

「だ、大丈夫だったから!なんか因縁つけられたけど、こう、僕の剣でバシーンとやり返しておいたから!」

そういって、買ってきたパンをぱくぱく食べてごまかしていた。


そして、宿屋で一泊したのち、二人は不動産屋に行っていた。実は、このバルストロメイの首都アレキサンドリアに、自分たちの家を購入したのである。もともと、放浪の旅が多かった二人だったが、こつこつとお金をため、いよいよあこがれの自分たちの家を購入することになったのだ。だが、しかし・・・・


「お客さ――――ん。困るよ―――。期日までにこっちに来てもらわないと!家の明け渡しができないだろぉ?」

不動産屋は非常に不機嫌だった。それもそのはず、明け渡しの約束の期日より、二人の兄弟が首都に着いたのが一週間も過ぎていたのだった。


「す、すみません・・・でもお金は払ってるので!」

と、ユーリが食い下がるも、不動産屋は無情に突っぱねてきた。

「確かに金は預かってたけど。アンタらが望んだ物件、人気物件だったんだよ。だからもう別の奴に売っちまった。悪ぃな」

「ええ!?話が違うじゃないですか!」

「そうはいっても。期日までに来なかったアンタらの責任だろ?金は返すから、とっとと出て行ってくれ」

とうざったそうに、追い返されてしまった。


都市の首都で、途方に暮れる二人・・・・。

「どうしよう、兄さん。このままじゃ僕ら、また野宿だよ・・・・」

「それは、構わないんだけど。困ったねぇ。どうしようか・・・」

半ばもう諦めながら、思わぬアクシデントに見舞われ、二人はただため息をついていた。


――――その時。


「返せぇ――――!!この、ひったくり――――!!」

と甲高い女性の悲鳴が聞こえた。どうやら、さっきから女性から離れてこちらに走ってくる男が、女性のモノらしき財布を片手に走ってきた。

「―――――!!」

反応するのは、ユーリの方が早かった。こちらに走ってくる泥棒に素早く足払いをかけて転ばせると、華麗に財布をキャッチして見せた。

「おねーさん。大丈夫?財布ってこれであってる?」

先ほどから息をきらして走ってきた、裕福な身なりの女性がユーリの元へやってきた。ウェーブがかった茶色の髪を女物のリボンでまとめてしばっている女性だった。

「あ・・・ありがとう。アンタ強いんだねぇ」

「いーから、いーから。中身盗まれてないか確認して」

「あ、ああ。よかった。なんとか全部中身は無事みたい。よかったぁ。店の売り上げが入ってたんだよぉ」

「よかったね――――。それじゃ!」

「待ちなよ!なんかお礼をさせておくれ!」

「ええ、いいよー。僕ら、それどころじゃないんだ。とにかく早く今日寝る場所、探さなきゃいけないからさ」

「なんだって?アンタたち、宿無しなのかい?」

「あ――――、ははは。まあ、そうなんだ」

「な――――んだ!じゃあアタシのところへおいでよ!アタシはアルマ。ここらじゃ、ちょっと名の知れた娼館のオーナーをやってるからさ。うちなら広いから住む場所には困らないよ!仕事さえしてくれれば、三食つけたっていい!」

「え――――!?マジでぇ!?いいのかなぁ?どうする?兄さん?」

「どうせここで待ってても、時間が暮れるだけだ。今日はこの方の館にご厄介になろう」

「決まりだね!!じゃあ行こうか!」

思わぬところから、今日の寝床を見つけた二人は、アルマとよばれた女性に従って娼館へ向かった。


一方、そのころ。

シリウスの館にて。控えめにドアを叩く音を聞くと、館の主が答えた。

「―――――シリウス様。先ほどの少年の行く先がわかりました」

「――――どこだ?」

「アルマが営む娼館へ落ち着いたようです」

「わかった」

「・・・・どちらへ行かれるのです?」

「アルマのところへ行く」

「恐れながら、あの少年は何なのですか?シリウス様が気にかけるほどの人物とは思えませんが・・・・」

「・・・お前には関係ない」

「は。出過ぎた真似をいたしまいた。申し訳ございません」

殊勝に謝ってくるティテュスをおいて、シリウスは外出用のローブを羽織ると、いそいそと出かけて行った。



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