表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月明りのステージで  作者: いちぽっち
1/1

1 日常

自分で書いてるだけだと飽きるので、記録がてら投稿します。

推敲あまりしていないので、読みづらい部分があるかもしれません。駄文ですがよろしくお願いします。

「やぁサーロス!」

「どうも、ジャポおじさん!やぁマダム!調子どう?」

「サーロス!えぇ、あなたに会えたおかげでばっちり!」


ペンタグラモ王国の中心地、繁華街をサーロスは闊歩している。

彼は、繁華街の有名人である。彼が放つ煌びやかな雰囲気は、どうやら人々を魅了するらしい。彼の朗らかでまっすぐな性格と、堀りの深い顔立ちもまた、主に少女たちからの人気の秘訣かもしれない。


サーロスはある一軒の青果店に目を付けた。赤々としたリンゴが並んでいる。

彼は店先でせわしなさそうにしている中年男性に、銀貨をパスした。


「やぁ、おじさん。リンゴいっこ。」

「サーロス!はいよ、毎度あり。」


サーロスは果実を丸ごと頬張る。果実の間から黄色い透明の蜜があふれ出し、彼の指に滴り落ちる。


何気ない日常、それが今日はいつもより少々忙しない。その理由は、世間知らずなサーロスでもわかり切っている。

町中に張られた鮮やかな色のポスター。そこには、【セレーネ姫 成人祭】と記されている。


ペンタグラモ王国の姫、セレーネ姫は、王妃無き今唯一の王位継承者である。

それゆえ、彼女は注目されているのだが――彼女が注目される理由は、それだけではない。


「さぁ!月の涙、今日は成人祭の記念でセール中!王公認の正規品だよ!」


道端の簡易テントで、若い衛兵が大量の小瓶を並べている。彼の腹から出た大きな声を聴いて、住民が続々と集まってくる。

セレーネ姫は、生まれた時から「月の祝福」と呼ばれる魔法が与えられている。その正体は、魔法で傷や病を癒すというもの。その特殊な力もまた、彼女が注目を集める理由である。


レンガ造りの街を進むと、王城がある島に続く大きな白い橋が見えてくる。橋は封鎖されているが、そこには珍しく大勢の人が集っている。

まぁ、無理もないか、とサーロスは思う。

姫の成人祭は島で三日三晩続く。祭り好きな国民性故、待ちきれないのであろう。


それに、祭りでは姫が民に顔を晒す。

今まで儀式や公務で王の顔を見たことは数知れないが、姫は控えめな性格なのかあまり表舞台には出てこない。しかし、その美貌はまるで月明かりのようだといわれている。

そんな美しい姫を一目拝もうと、国中の青年が祭りに期待しているようだ。実際、橋の周りに集まっているそのほとんどが、サーロスより少々年上の男衆だ。


「サーロス。」


彼を呼ぶ声に、サーロスは振り返る。小太りで低身長の青年が、腕を組んで立っている。


「あぁ、フィロ。お前も姫を見に来たのか?」

「まさか。僕は母さんに頼まれてお前の監視に来たんだよ。」

「勘弁してくれよ。」


サーロスは苦笑を浮かべる。

物心ついたころから、サーロスはフィロの家で過ごしている。実の両親は失踪したらしい。

サーロスとフィロは、兄弟のようなものだ。しかし、フィロの両親とサーロスはどうにも馬が合わないようだ。


「まぁ、監視なんて建前さ。一緒に祭りを回ろう、それだけ。」

「もちろん!お前以外に、一緒に回る相手なんていないさ。」

「君、モテるだろ。一緒に回る相手がいないのは僕の方なんだがな。」


フィロは自嘲的に笑った。


「そんなことあるもんか!君には、ほら、その……親がいるし。」


フィロがサーロスのことを睨む。

サーロスはへへ、と乾いた愛想笑いをした。


と、同時に、ごうんと大きな音がした。見ると、橋の門が開いたようだ。

うら若き男たちが駆け出し、それに次いで商人たち、祭り好きの女たちの順で入っていく。

フィロはつかつかと歩みを進めた。


「君はいつもそうだよなぁ。」

「悪かったって!」


フィロが足を止めて、サーロスの方を見た。

サーロスはばつが悪そうに顔を歪め、そしてくしゃっとした笑みを浮かべた。「許してくれ」の意であろう。

フィロはあきれたように目を回したが、少々口角を上げ、サーロスの背を叩いた。

二人は、王城に向かって歩き始めた。


サーロスはご機嫌な様子で鼻歌を歌った。それを、フィロが勢いよく彼の口をふさいで止めた。


「なんだよ?!」

「君、家ならいいけどここは王城だぞ?!こんなところでも歌おうとするなんて!」

「いいじゃないか、鼻歌くらい。」

「よくない。禁止なものは禁止だ。王の命令に背くことはできない。」


サーロスは不満そうに口を結んだ。

ペンタグラモ王国では、18年前、姫が生まれた――つまり、王妃が逝去したころから禁止されている。

亡くなった王妃を思い出させてしまうからだ、などと噂されているが、その理由はいまだに不明である。


「でもさぁ、音楽がない祭りなんて面白いか?」

「絵画も、演劇も、踊りもあるじゃないか。」

「もちろんそれも素晴らしいと思うけどさぁ……。」


サーロスは、音楽への執着を捨てきれずにいた。

十年前、フィロ一家と共に西方の国に赴いた際、ギターを弾いて街中で楽しげに歌う人々を、彼は忘れられないのだ。そして、彼の両親が残していったという、あの独特な木の箱が何に使うものなのか、そこで初めて知ったのである。


もしも、音楽が許されたなら。

あの、力強く、優しく、心を慰め突き動かす音を、俺が奏でられたなら。


鼓動がどっ、と音を立てて早くなるのを感じる。

舞台の上で光をめいっぱい浴びてギターを弾く、そんな自分を想像しただけで、幸せと興奮に包まれる。

そんなサーロスの様子を見て、フィロはあきれたように溜息をついた。


「捕まっても、僕は知らないからな。」


サーロスはなんで助けてくれないんだ、と軽口を叩く。


真っ白な城が見えてきた。城下で騒ぐ民衆の声が聞こえる。

サーロスは、宝物を隠す子供のように、その夢を胸の内に仕舞いこんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ