1 日常
自分で書いてるだけだと飽きるので、記録がてら投稿します。
推敲あまりしていないので、読みづらい部分があるかもしれません。駄文ですがよろしくお願いします。
「やぁサーロス!」
「どうも、ジャポおじさん!やぁマダム!調子どう?」
「サーロス!えぇ、あなたに会えたおかげでばっちり!」
ペンタグラモ王国の中心地、繁華街をサーロスは闊歩している。
彼は、繁華街の有名人である。彼が放つ煌びやかな雰囲気は、どうやら人々を魅了するらしい。彼の朗らかでまっすぐな性格と、堀りの深い顔立ちもまた、主に少女たちからの人気の秘訣かもしれない。
サーロスはある一軒の青果店に目を付けた。赤々としたリンゴが並んでいる。
彼は店先でせわしなさそうにしている中年男性に、銀貨をパスした。
「やぁ、おじさん。リンゴいっこ。」
「サーロス!はいよ、毎度あり。」
サーロスは果実を丸ごと頬張る。果実の間から黄色い透明の蜜があふれ出し、彼の指に滴り落ちる。
何気ない日常、それが今日はいつもより少々忙しない。その理由は、世間知らずなサーロスでもわかり切っている。
町中に張られた鮮やかな色のポスター。そこには、【セレーネ姫 成人祭】と記されている。
ペンタグラモ王国の姫、セレーネ姫は、王妃無き今唯一の王位継承者である。
それゆえ、彼女は注目されているのだが――彼女が注目される理由は、それだけではない。
「さぁ!月の涙、今日は成人祭の記念でセール中!王公認の正規品だよ!」
道端の簡易テントで、若い衛兵が大量の小瓶を並べている。彼の腹から出た大きな声を聴いて、住民が続々と集まってくる。
セレーネ姫は、生まれた時から「月の祝福」と呼ばれる魔法が与えられている。その正体は、魔法で傷や病を癒すというもの。その特殊な力もまた、彼女が注目を集める理由である。
レンガ造りの街を進むと、王城がある島に続く大きな白い橋が見えてくる。橋は封鎖されているが、そこには珍しく大勢の人が集っている。
まぁ、無理もないか、とサーロスは思う。
姫の成人祭は島で三日三晩続く。祭り好きな国民性故、待ちきれないのであろう。
それに、祭りでは姫が民に顔を晒す。
今まで儀式や公務で王の顔を見たことは数知れないが、姫は控えめな性格なのかあまり表舞台には出てこない。しかし、その美貌はまるで月明かりのようだといわれている。
そんな美しい姫を一目拝もうと、国中の青年が祭りに期待しているようだ。実際、橋の周りに集まっているそのほとんどが、サーロスより少々年上の男衆だ。
「サーロス。」
彼を呼ぶ声に、サーロスは振り返る。小太りで低身長の青年が、腕を組んで立っている。
「あぁ、フィロ。お前も姫を見に来たのか?」
「まさか。僕は母さんに頼まれてお前の監視に来たんだよ。」
「勘弁してくれよ。」
サーロスは苦笑を浮かべる。
物心ついたころから、サーロスはフィロの家で過ごしている。実の両親は失踪したらしい。
サーロスとフィロは、兄弟のようなものだ。しかし、フィロの両親とサーロスはどうにも馬が合わないようだ。
「まぁ、監視なんて建前さ。一緒に祭りを回ろう、それだけ。」
「もちろん!お前以外に、一緒に回る相手なんていないさ。」
「君、モテるだろ。一緒に回る相手がいないのは僕の方なんだがな。」
フィロは自嘲的に笑った。
「そんなことあるもんか!君には、ほら、その……親がいるし。」
フィロがサーロスのことを睨む。
サーロスはへへ、と乾いた愛想笑いをした。
と、同時に、ごうんと大きな音がした。見ると、橋の門が開いたようだ。
うら若き男たちが駆け出し、それに次いで商人たち、祭り好きの女たちの順で入っていく。
フィロはつかつかと歩みを進めた。
「君はいつもそうだよなぁ。」
「悪かったって!」
フィロが足を止めて、サーロスの方を見た。
サーロスはばつが悪そうに顔を歪め、そしてくしゃっとした笑みを浮かべた。「許してくれ」の意であろう。
フィロはあきれたように目を回したが、少々口角を上げ、サーロスの背を叩いた。
二人は、王城に向かって歩き始めた。
サーロスはご機嫌な様子で鼻歌を歌った。それを、フィロが勢いよく彼の口をふさいで止めた。
「なんだよ?!」
「君、家ならいいけどここは王城だぞ?!こんなところでも歌おうとするなんて!」
「いいじゃないか、鼻歌くらい。」
「よくない。禁止なものは禁止だ。王の命令に背くことはできない。」
サーロスは不満そうに口を結んだ。
ペンタグラモ王国では、18年前、姫が生まれた――つまり、王妃が逝去したころから禁止されている。
亡くなった王妃を思い出させてしまうからだ、などと噂されているが、その理由はいまだに不明である。
「でもさぁ、音楽がない祭りなんて面白いか?」
「絵画も、演劇も、踊りもあるじゃないか。」
「もちろんそれも素晴らしいと思うけどさぁ……。」
サーロスは、音楽への執着を捨てきれずにいた。
十年前、フィロ一家と共に西方の国に赴いた際、ギターを弾いて街中で楽しげに歌う人々を、彼は忘れられないのだ。そして、彼の両親が残していったという、あの独特な木の箱が何に使うものなのか、そこで初めて知ったのである。
もしも、音楽が許されたなら。
あの、力強く、優しく、心を慰め突き動かす音を、俺が奏でられたなら。
鼓動がどっ、と音を立てて早くなるのを感じる。
舞台の上で光をめいっぱい浴びてギターを弾く、そんな自分を想像しただけで、幸せと興奮に包まれる。
そんなサーロスの様子を見て、フィロはあきれたように溜息をついた。
「捕まっても、僕は知らないからな。」
サーロスはなんで助けてくれないんだ、と軽口を叩く。
真っ白な城が見えてきた。城下で騒ぐ民衆の声が聞こえる。
サーロスは、宝物を隠す子供のように、その夢を胸の内に仕舞いこんだ。