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竜娘が巡る終末世界  作者: 春の日びより
第三章 生きていく世界
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78 変容する世界



 その〝獣〟は変容した世界から生まれた。

 長らく〝二本脚〟の檻に囚われていた虎たちは解放され、各地を放浪し、同じ境遇の仲間を増やし、いつしか巨大な群となった。

 その中で長の子の一人として生まれた〝獣〟はその異様故に孤立した。

 その〝獣〟は黒かった。そして一本の〝角〟があった。

 本来、虎は群れない。虎たちが群を作ったのは、他の巨大生物に対抗する力が必要だったこと、そして長い間同じ檻に囚われ、擬似的な群を為すことに慣れていたからだ。

 だが、変容したこの世界で生まれた〝獣〟は生まれながらに強者であり、群れを為す意味を知らず、大人たち弱者のように同胞を必要としなかった。

 生まれて半年もするとその体躯は大人を超え、永遠を生きるが如し生命力を放ち、雷を操るその〝獣〟は凶暴であり、暴君であった。

 それを危険視した群が襲いかかるが、〝獣〟はそれをことごとく返り討ちにして食い殺した。


〝獣〟は自分が異端であると同時に特別であると考える。

 群の巨大虎たちは、最期までこの世界に満ちる〝不思議な力〟を感じ取れることはなかったが、〝獣〟はそれによって世界が変質し、自分のような存在が生まれたのだと本能的に察していた。

 自分は異端ではあるが、突然変異ではない。変容した世界で〝獣〟のような強大な存在が生まれるのは必然であり、いずれこの世界は〝獣〟のような存在が支配していくのだろう。


 この変容した世界は強者が支配する。これまでのように数が支配するのではなく、個の力が支配する素晴らしい世界がやってくる。

 だが〝獣〟は、強者が自分だけではないと察していた。自分と同様に世界各地に生まれ始めている強者たち。〝獣〟は雷を操ることで特殊な電波を飛ばし、北から強大な力を持つ存在が近づいてくるのを知る。

 北から来るその強者は、不思議な力によって巨大化した生物とも、自分のような巨大生物から進化した個体とも違う、強烈な〝気配〟を放っていた。

〝獣〟はその個体を自分が乗り越えるべき壁だと考える。それを倒し、その心臓を食らうことによって自分はさらに高位の存在へと至れるはずだ。

 それに……。

『ガァ……』

〝獣〟は西の空へ向けた目をわずかに細める。

 遠い……遙か遠くから近づいてくる、もう一つの強大な〝気配〟を感じて……。


   ***


「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 全身から炎を噴き上げ、広げた翼の鱗から〝熱〟をジェット機のように噴き出しながら雷獣へと突撃する。

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 雷獣の角から紫電が瞬き、私を迎撃するため稲妻が放たれる。

「たぁあああっ!!」

 雷撃の速さは躱せない。だから私はそれを避けることなく、〝熱〟を込めた角槍の先端で受け止めた。

 ――バチンッ!!

 強烈な衝撃と雷光が視界を埋め尽くす。でも、その一瞬あとに〝気配〟を感じ、尻尾を振った反動で体勢を変えた瞬間、雷光を囮として迫っていた雷獣の爪が通り過ぎる。

「このぉお!」

 通り過ぎる瞬間を狙って雷獣の顔面に向けて鞭のように尻尾を振るう。だが雷獣もそれを見て咄嗟に角で受け止めた。

 バチッ!!


 炎と雷がぶつかり合い、互いに弾かれる。でも足場であるビルの上に着地しなければならない雷獣と違って、私には空を飛ぶ翼がある。

 翼を広げて強引に宙に留まった私は、マンションの屋上へ着地しようとする雷獣へ翼の先端を向け、炎を噴き上げた。

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 鱗の隙間から噴き出す〝熱〟を集中させ、噴き出すときに破損した鱗の破片を、圧縮した炎と共に撃ち放つ。

 炎の連弾。威力は〝竜の息〟に及ばないし、射程も劣る。でもそれを差し置いても上回る連射力と攻撃範囲がある。でも――


『ガァ――』

 ニヤリと嗤うように口元を歪めた雷獣は、着地し、私の砲撃が着弾する瞬間に隣のビルに飛び移り、私がそれを追って撃ち放っていく炎弾を、八艘飛びのようにビルの屋上を跳び回りながら避けてみせた。

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 雷獣が咆吼し、広範囲に稲妻を放って炎弾を迎撃する。

 放たれた稲妻と私が撃ち砕いたビルの破片が周囲に飛び散り、下で戦っていたジェニファーたちの悲鳴が微かに聞こえてきた。


「ジェニファー!? 無事!?」

「――大丈夫! ツバキはそっちに集中して!!」

 思わず叫んだ私の声に、巨大雌ライオンと戦っていたジェニファーが叫び返す。

 とりあえず人間たちが無事だと分かりホッとする。

 下にはハチベエもいるし、雷獣に支配された巨大生物たちの戦意は人間たちほど高くない。

 それよりもここを戦場にするのはまずい。巨大電波塔に近すぎるし、戦場にするには背の低い建物しかなく人間たちに被害が及ぶ。

 今はまだ無事だけど、私の炎や雷獣の雷は、戦い続ければ容易にこの辺りを火の海に変えてしまう危険があった。

 それならどうする!? だったら――


「――ぁああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 私が声を張り上げると雷獣が警戒して身構える。私はそれでもお構いなしに声を張り上げ、〝竜の息〟の閃光を撃ち放つ。

 でも、速度を優先してわずかに的を外れた閃光を、雷獣は小馬鹿にするように鼻で笑い、余裕で跳び避ける。しかし――

「終わりじゃない!」

 私は〝竜の息〟を持続させ、跳び避けた雷獣を追うように横薙ぎに振るい、そのまま雷獣へ叩きつけた。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 ――バァアンッ!!

 それに気づいた雷獣が角から雷を放ち、〝竜の息〟を迎撃する。

 ぶつかり合った威力が至近距離にいた雷獣を吹き飛ばし、私は雷獣が見せたそのわずかな隙を狙って翼から炎を噴き上げ、全力の体当たりをぶつけた。


 ドゴォオンッ!!

 突き出した角槍は雷獣の爪で塞がれるが、私は構わず雷獣ごと空を舞い、通ってきた高架橋を飛び越えた。そこにあるものは――

『ガァアアアアアッ!!』

「落ちろぉおおおおおおおっ!!」

 ドッボォオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 盛大な水飛沫を上げて大きな河へ突っ込んだ。


 雷獣は他の巨大生物と比べても知能が高いと感じた。それでいて戦闘経験も多く、非常に厄介な敵だが、その知能の高さが仇になる。

 以前戦った巨大猿もそうだが、知能が高くなると野生の本能に従うよりも、人間のような思考をするようになる。

 人間的な思考をするからこそ私の的を外した攻撃を鼻で笑い、戦闘経験が多いからこそ最小限で避けた。私がその方向へ誘導したことを慢心から気づかずに。


 河があるのは移動のときから気づいていた。近くに小川があったことでそれを思い出した私は、私に有利なその場所を戦場に選んだ。

 水は私の弱点にはならない。私が使うのは〝炎〟ではなく〝熱〟だからだ。

 全身から〝熱〟を発して水面を一瞬で気化させた私は、河から飛び出そうとする雷獣に高温の水蒸気を叩き込む。

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 もちろんこんなものは雷獣のダメージにはならない。でも、生物なら肺を高温で焼かれるのは辛いでしょ?


「ハァアッ!!」

 ――バキンッ!

 河から翼の噴射で飛び出した私は、目に付いた川縁にある建物の巨大オブジェを引き千切り、全力で投げつけた。

 ただの鉄やコンクリートでも、質量は威力に変わる。視界を塞がれた水蒸気の中で、迫り来る巨大物体の風切り音が聞こえた雷獣は、咄嗟に稲妻で迎撃しようとするが――

 ドゴォオン!!

『ガァアアアアアアアッ!?』

 雷は水面で拡散し、巨大オブジェの直撃を受けた雷獣は堪らず後退すると、背後にあった橋の上に飛び上がる。


 私の〝熱〟も水で多少効率は下がるが、威力が落ちるほどではない。でも、雷獣の雷は水中にある不純物によって拡散し、全身が濡れてしまったことで稲妻として放てなくなった。

 これなら勝機はある! 雷獣の全身が乾く前に決着をつけようと飛び出した私の前で、雷獣の角が再び雷光を放った。

『ガァ――』

 雷獣の電撃が全身の水を伝い、河の水面に拡散する。でも――

「なっ……」

 突然、雷獣の放つ雷光の波長が変わり、瞬く間に水に濡れた全身が乾いていった。

 これって……。

「電気分解……?」

 こいつ、雷の熱じゃなくて、電気を使って水を水素と酸素に分解してしまった。


「なんて厄介な……」

『ガァアア』

 唖然として呟く私に雷獣がニヤリと笑い、先ほど受けた鬱憤を晴らすように巨大な雷撃を撃ち放った。



雷獣との戦い。

ツバキちゃんの闘い方はほとんどバ⚪︎ファルクですw


いつも誤字報告ありがとうございます。

来年もよろしくお願いします。

よいお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
おいおい。 電気分解しちゃったら、周囲が可燃性爆発物になってしまうぞ!? そうでなくても濃い酸素は猛毒だし…………。ニヤリとしてる場合じゃない!! 逃げてーーっ!
雷獣つおい!本能とか勘なんだろうけど電気分解を使うとは! 雷獣は戦闘経験自体はそれなりにあっても、同格以上の相手との経験はなさそうだなぁ 西……次の敵ないしは目的地候補かぁ
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