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竜娘が巡る終末世界  作者: 春の日びより
第三章 生きていく世界
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76 廃墟の街



「今の東京ってどうなっているの?」

「私も一度しか行ったことないし、前の東京を知らないから違いが分からないけど、とにかく大きかったわ」


 巨大電波塔から長距離通信に必要な機材を奪取するため、私たちは廃墟となった東京へと向かっている。その中で私は、ジェニファーたち対巨獣部隊の子どもたちと一緒に、装甲トラックに乗り込んでいた。

 トラックと言っても幌ではなく壁に囲われているし、窓がないだけでちゃんと簡易的な座席もある。装備も積んでいるから多少手狭だけど乗り心地も悪くない。……悪くはないのだけど、道路は罅割れているか土に埋もれているので結構揺れる。

 そんな道で速度を出せるわけもなく、巨大動物の襲撃も警戒しないといけないから、変異前なら半日もかからなかった距離でも、到着には二日ほどかかると運転手の兵士さんが言っていた。


 まぁ、私がトラックに乗っている意味はあまりない。ハチベエは普通に喜んで外を走っていて、柴犬っぽい見た目から、変異前の柴犬を知る兵士のおじさんたちに受けが良いらしく、窓から投げられるジャーキーのようなオヤツに飛びついていた。

 だから私も一度トラックに乗っているのに飽きて、ハチベエと一緒に走ってみたのだけど、途中で特殊部隊の隊長に呼び止められて、運転手の注意力が散漫になるし、目の毒だからやめてくれと懇願された。

 目の毒ってどういうこと!?

 ちゃんと隠しているでしょ!


 それはともかく話を戻すと、現在の東京は予想通り巨大な廃墟になっているみたい。

 私も以前の東京は〝知識〟でしか知らないけど、婆ちゃんの所にあった東北の都会のように、大部分が巨大樹木に呑み込まれて高いビルだけが飛び出している状況だと思う。ただジェニファーが『大きい』と言うのは、それだけ背の高い建物が多いということかな?

 逆にそれ以外の住宅地のような地域は森に呑み込まれて、物資はほぼ全滅しているんだって。


「私たちが前に来たときは、〝でんしぶひん〟? って言うのを取りに来たの。〝すまほ〟とかいう小さいものを何千個も集めて帰ったわ」

「そういうのも集めるんだね」

 石油化学コンビナートでも電子製品の量産はできないか。燃料が精製できて、発電できるだけでも充分にチート拠点だけど。

「でも、お酒やタバコも沢山回収させられたのは、ヤエコみたいな人がいっぱい居たのかしら」

「……そうだね」


 やっぱり嗜好品を求めちゃうか。将来的に酒造や煙草の生産が出来るようになったとしても、その手の嗜好品は貴重になるだろうし、廃墟に残っているものも、飲食可能なものはもっと貴重になるんだろうね。

 確か、前の特殊部隊の隊長は高級缶詰とか食べていたんだっけ? 今までそんなのまったく見たことなかったけど、デパートとかなら残っていたのかな?

 ああ、婆ちゃんところの檀家さんの家にあった缶詰は高級品っぽかったな。さすがにキャビアとかはなかったけど……チョウザメとか巨大化していたらもう食べられないのかも。


「――ん?」

「ツバキ、どうしたの?」

 外の見えないトラックの中で突然どこかへ顔を向けた私に、ジェニファーや他の子どもたちが怪訝な顔をする。

「巨大生物だね。〝気配〟が近づいてきているよ」

「――っ」

 特に緊張感もなく呟いた私の言葉に子どもたちが腰を浮かし、ジェニファーが飛びつくように通信機へ声を張り上げた。

「こちら、対巨獣部隊ジェニファーっ、ツバキが巨獣の存在を察知しました!」

『――了解した。数は分かるか?――』

「ツバキ――一体です!」

 振り返った彼女に私が指を一本立てると、即座に報告する。

 わぁ……ジェニファー、ホントに軍人さんみたいだ。

『――対巨獣部隊は動けるか?――』

「はい、もちろん――」


「別にジェニファーたちが出なくても私とハチベエで倒してくるよ」

 たぶんハチベエだけでもギリギリ倒せそうな気もするけど……まだ危ないかな? そう考えて角槍を持って立ち上がろうとした私の手をジェニファーが掴む。

「新装備の確認を兼ねて私たちが出る。――隊長! 我々が出ます!」

『――分かった。こちらは周囲を警戒する――』


 すぐに全車両に停車命令がきて、武器を構えた子どもたちがトラックから飛び出していった。

 うん、まぁ大丈夫かな。あの装備なら直撃しても大きな怪我はしないと思うし……でも、やっぱり私も見に行こう。

 そう決めて私もトラックから出ると、特に教えなくても私が顔を向けた向きから方向を割り出したジェニファーが、年嵩の子どもたちを中心に右斜め前に陣を敷いていた。

「……来た」

 私がそれ(・・)を感じた瞬間、子どもたちが向かった方向の森から、木の葉を吹き飛ばすように黒い影が飛び出してきた。

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 飛び出してきたのは、全高で五メートルもある……牛? ううん、普通の牛じゃない。たぶん水牛? 私の〝知識〟にある牛と違って全身が筋肉質で、角が片方折れていた。

 牛自体が他の巨大生物に狙われがちだけど、全身にある傷や〝気配〟が、過酷な戦闘を潜り抜けてきた強力な個体であることを表していた。そのせいか見るからに気性が荒く、草食獣でありながらわざわざ襲ってきたのは人間にも恨みがあるのだろう。

 ……また動物園案件か。それともサファリパークかな。


「撃て!!」

『ブモォオオオオオオオオッ!!』

 対巨獣部隊も、銃を持つのはジェニファーだけではなくなった。熊撃ちにでも使うような大口径のライフルを軽々と振り回した数名の子どもたちが、突進してくる巨大水牛の頭部を狙い撃ち、その動きを止める。

「槍隊!」

 ジェニファーの声に体格の良い子どもたちが鋼の槍を持って飛び込み、脚を切りつける。

 普通の人間なら大人が使っても傷を付けるのが精一杯のはずだけど、身体能力の高い子どもたちの一撃は深手を負わせ、巨大水牛は傷ついた右前脚からよろめいた。


 ――ダダァンッ!!

 それを見計らったようにジェニファーが大口径の狙撃ライフルを連射する。

 一発目の銃弾は頭蓋に弾かれるが、その衝撃で顔を上げた巨大水牛の口内に二発目の銃弾が撃ち込まれ、大量の血を吐き出した。

 でも――


『ブルゥ……』

 銃弾が脳まで届かなかったのか、それとも巨大生物の生命力か、まだ生きていた巨大水牛とジェニファーが睨み合い、彼女が軽く肩を動かした瞬間、それを合図としたように忍び寄っていた第二陣の槍隊が一斉に飛び込んで、巨大生物の首を突き刺した。


 ――ズズン。

 ついに白目を剥いた巨大水牛が崩れ落ちる。

「ジェニファーっ」

「分かってる!」

 ダァンッ!!

『ブモォオオオオオオオオ……』

 声を掛けた私に叫び帰したジェニファーが銃弾を放つと、死んだ振りをしていた水牛の頭部を撃ち、身体を大きく震わせた水牛はようやくその命の灯火を消した。


 知能が高い。それ以上に執念が強い。これだから巨大生物は油断ならない。

 そのぶん、味方になれば心強いのだけど……ね? ハチベエ。

『わふん!』

 子どもたちが危機になったらすぐに飛び出す準備をしていたハチベエが、嬉しそうに大きく尻尾を振っていた。

 ……随分と嬉しそう。ふむ……今夜は牛肉か。


 一日目はそうして過ぎていき、二日目に入ると住宅やビルが多くなったことで、周囲からの襲撃に備えて進む速度は遅くなった。

 時期も少し悪かったかもしれない。夏は過ぎたけどその間に背の高い雑草が生い茂り、秋となって落ち葉が増えてきたことで余計に動きづらくなっているように感じる。

「到着は明日の昼頃だって」

 休憩時間のミーティングから戻ってきたジェニファーがそう教えてくれた。遅れてはいるけど思ったよりも問題なく到着できるらしい。


 東京に近づけば森に呑み込まれたビル群ばかりとなって、もっと進みが遅くなるかと思っていたらそうでもなかった。

 東京の街は高架や高速道路など森よりも高い位置に道路があり、落ち葉もほとんど無いことで思ったよりも進めている。でも……。

「ジェニファー?」

 順調に進んでいるはずなのにジェニファーの顔が少し険しくなっている。同じように怪訝そうな顔をしている子どももいて、私が声を掛けると彼女は不安を零すように小さく呟いた。

「……巨獣が襲ってこない」


 これまではこの辺りに着くまで最低でも五から六頭の巨大生物が襲ってきたらしい。特に東京を縄張りとしている巨大ライオンの群に見つかれば、数によっては撤退を考えなくてはいけなかったそうだ。

 特に群の長である巨大雄ライオンは危険らしい。地域を管理する別の雄ライオンはいるが、それほどの脅威ではない。でも群の長は他の個体よりも一回りも大きく、何人もの兵士を殺してきた。

 前回の避難所への襲撃で他の巨大生物が脅えたように襲ってきたのも、その群の長が関わっているかもしれないとジェニファーたちは話し合う。

 巨大雄ライオンか……巨大ゴリラの長も雌たちより一回り大きく、他の個体を従えるだけの力を持っていた。巨大雄ライオンがこの一帯を支配するほどの力を持っているのなら、私が相手をしないといけないだろう。

 でも――

「ツバキ?」

「ううん、なんでもないよ」

 避難所の襲撃時に聞こえてきたという〝雷鳴〟はなんだったのか……。それが心の奥に棘のように引っかかっていた。


 目的地である巨大電波塔の近くまで高架道路が続いていた。途中で一泊し、早朝から移動し始めた私は微かな違和感を覚えた。

「暗い……」

 まだ秋なので朝でも明るいはずだが、いつまで経っても外は薄暗いままだった。

「本当だ……雲がある」

 窓がないため後方から外を確認したジェニファーが教えてくれる。子どもたちは雨になるなら装備の変更をするべきかと話し合っていたが、私の胸騒ぎは治まらなかった。

 そのとき――


 ドォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 突如、落雷のような音が響いて年下の子どもたちが小さな悲鳴をあげる。

『――ウ~~~ッ』

 外からハチベエの唸り声が聞こえ、胸騒ぎから即座にトラックから飛び出した私の瞳に、見上げるほど巨大な電波塔と……その手前のビルの上で、巨大雄ライオンらしき死骸を貪る、雷光を纏う巨大な肉食獣の姿が映った。



雷鳴と共に現れた巨大生物。

その正体とは!?



いつも誤字報告ありがとうございます。


年妻年始の新刊の表紙を活動報告に上げております。

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― 新着の感想 ―
思った以上に馴染んでる花椿とハチベエ。 色々と人間を求めて(?)いた花椿は兎も角、ハチベエはそれでいいのか? 巨大生物としてのプライドはないのか!? お母さんは呆れているぞ! ジンベエの血が濃いわあ……
雷を纏うって…いよいよ異世界系のモンスターとか魔獣みたいなやつ出てきた
少女終末旅行みたいな、とタイトルをみた時は思いましたが、まさかの冒険活劇とは、、、(宇宙戦艦ヤマト、TVシリーズとか、風の谷のナウシカとか)いや、ナゾが謎を呼び、面白いです
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