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竜娘が巡る終末世界  作者: 春の日びより
第三章 生きていく世界
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74 新しい装備



「ツバキっ、私たちも行くわ!」

 東京にある巨大電波塔から機材を奪取する。そんな計画に参加することを決めた私に、ジェニファーがそう言って、対巨獣部隊の子どもたちもそれに頷く。

「でも……危険だよ?」

「もちろん、分かっている」


 巨大電波塔に向かう部隊は、生き残りの特殊部隊員と志願兵によって行われる。

 新しい特殊部隊の隊長となった人は良識的な人……というわけでもないけど、それでも子どもたちを使うことに罪悪感を覚えていた、普通の人だった。

 だからその人は、これまで冷遇される子どもたちに何もできなかったことから、ジェニファーたちに作戦への参加要請をしなかった。

 その理由は、いまだにこの避難所の上層部は私の存在を扱いかねているから。そんな私がジェニファーたちの傍にいることで、子どもたちが危険な任務に駆り出されることは減ったのだけど、それでも彼女たちは作戦に参加すると言う。


 その理由の一つは、ジェニファーたちの自己評価の低さかもしれない。

 これまでずっと大人から冷遇されて、戦うことしか価値がない存在だと思い込まされてきた子どもたちは、必要とされなくなることを恐れている。

 だいぶ改善されてはいるんだけどね。あとは知識を得て大人になれば解決するのだけど、やっぱり一番は〝私〟の存在か。

 大人に冷遇されて、唯一気遣ってくれた人が、人ではない私だった。

 だからジェニファーたちは幼子が親に縋るように、人間の大人よりも、私の役に立ちたいと願っている。


「うん……いいよ。でも、ちゃんとご飯を食べて、お勉強もするんだよ?」

「うん! 分かった!」

 子どもたちが心配でも、ここで断れば子どもたちの心がまた不安定になりかねない。まぁ、私が頑張って守ってあげればいいのだけど。

 あとは癒し枠のハチベエに任せよう。

『わふん……』

 相変わらず子どもたちに纏わり付かれているハチベエがジト目を向ける。

 まぁいいじゃない。町に戻ってきた普通の子どもたちも羨ましそうに見ているよ。だいぶ一般人との垣根は低くなっているけど、まだ一緒に暮らせるほどじゃないか。


 そうして私とハチベエ、ジェニファーたちが参加することになった電波塔の強襲作戦だけど、すぐに出発できるわけじゃなかった。

 まず特殊部隊の装備の半分以上が壊されていて、修理に二週間は掛かるらしい。その他にも特殊部隊の補充や志願兵の選別、電波塔の機材を選別して取り外す技術者の移動と食料の用意など、実質的には秋になる一ヶ月後に始まるみたい。

 麦や米の収穫で人手もいるから仕方ない。私がアキやリンの所に種籾を置いてきた話を食料担当者にしたら、東北の品種を非常に惜しがっていて、そのうちジェニファーたちを派遣して交流を考えているらしい。


 それと用意が必要なのはジェニファーたちも一緒だ。食料などは一般兵と同じものを配給してもらえるそうだけど、装備が問題だ。

 耐衝撃に特化した子ども用の戦闘服。化学繊維なので素材は問題ないが、子どもは成長が早いのですぐに着られなくなるし、今までは小さい子にお下がりをしていたらしいけど、それだと耐久性に問題があると、装備を作る担当者が言ってくれた。


「やぁやぁ、君が竜の()だね。よろしくよろしく」

「はぁ……」

 そんな軽い感じで現れたのは、三十路も越えた一人の女性技術者だった。

 なんというか、着古した作業着に汚れた白衣を纏い、長い髪の毛を梳かしもせずに、くわえ煙草が臭いという、なんとも味のある人だ。

「知っている人?」

「……知らない」

 ジェニファーたちの装備を用意していた部署の人だけど、彼女を知らないと言う。私の後ろに隠れて仔猫のように警戒するジェニファーに、その女性はニカッと笑う。

「やぁ、自己紹介がまだだったね。私はヤエコと呼んでくれ。君が知っているのはおっさんだと思うけど、あの人は子どもたちの装備更新を渋っていたから、交代になったよ」


 なんでも前任者は良い工具を使った製造品は特殊部隊に回して、特殊部隊の元隊長から外で回収してきた高級缶詰などを受け取っていたらしい。

 そこに前隊長が戦死したことで内部告発があり、私が来たことで日和った上層部と穏健派が子どもたちの装備を新調するために担当者を変えた。

 それがこの女性……ヤエコになったのは、子ども相手には女性のほうがいいだろうという安直な決定だったそうだ。


「とりあえず、新装備があるから主だった子どもたちはついてきて。ツバキちゃんも」

「私も?」

「君にも新装備が必要だよ!」

 新装備……? 私に? 皮か革以外着られないのに?

「それを作るためにも是非協力してほしい」

 そう言ってさっさと歩き出したヤエコを、私と主だったこどもたち……九歳より上の年嵩の子どもたちが慌てて追いかける。

「まず、ツバキちゃんの毛皮の服はうちにあるよ」

「なんで!?」


 銃弾を受けても穴が開かない毛皮。それが巨大生物の毛皮ということは判明したけど、巨大鹿の毛皮は子どもたちの槍でも貫けるので、そこまで強度はない。

 それで調査の結果、血液が浸透してその性質を変えてしまったと仮定したそうだ。

「私の血?」

「そう!」


 それで私の血を使えば強い防具を作れるのではないかと、病院の生体研究班に血液のサンプルを頼んだけど、私の肌には注射器が通らなかった。

 それで考えたのが、私と同じ、世界変異の後に生まれた、変異した新人類――こどもたちの血を使うことで革を強化できるのではと考え、定期検査のときに採取された血液を使い、実験したそうだ。

「勝手に……」

「ごめんね!」


 ジト目で睨むジェニファーにヤエコが手を合わせて謝るが……誠意が見えない。

 そうして実験することで製作した革は、私の毛皮の衣装ほどではないけど、強い耐久性を発揮したらしい。でも……

「誰も着れなかったんだよね」

「は?」


 子どもたちの血液を希釈しものに漬け込んだ革製品は、身につけると不快、もしくは非常に落ち着かない気分になるらしい。

 それでは慎重な行動を強いられる軍人の防具にはとても使えない。濃度や漬け込み時間を変えても改善されず、希釈しすぎれば効果がなくなる。

 念のために私の毛皮の衣装もヤエコが試してみたらしいが、具合が悪くなって動けなくなったそうだ。

「……結局、服は返してくれるの?」

「もう少し研究はしたいけど、それよりも新しい防具を作るって言ったでしょ?」


 そこに繋がるのか……。

 私がそれを普通に身に着けていたことから、その使った血液を持つ本人しか使えないのではないかとヤエコは仮定した。

 子どもたちを連れてきたのは、試作した防具を本人が身に着けて違和感がないか確かめるためだった。

「だからツバキちゃんも血をちょうだい」

「え~~……」


 そして研究所に着いて血液を使った本人に装備してもらう。

「やっぱり私なのね……」

「部隊長さんだからね」

 使われたのはジェニファーの血液だった。それで身に着けたジェニファーは思いっきり顔を顰めていたが、それは不快感ではなかった。

「すごく着やすい……不本意だけど」

「勝手に血を使われたからねぇ」


 それはまぁ仕方ない。他にも数名分の試作品があり、本人が身に着けたり、交換したりして装着感を話し合っていた。

「仕方ないか……」

 あまり気持ちの良いものではないけど、ジェニファーたちだけにさせるのは気が引けるし、私も少しだけ興味はある。

 爪で手の平に傷を付けて小さな薬瓶に血を入れる。

「これでいいの?」

「沢山あったほうが良いけど、これで充分よ」

 本当に少量でいいらしい。成功すればジェニファーたちの生存率も上がるし、私の防御力も上がるかも? まぁ一番強いのは私の鱗なんだけど。


 そうして私と対巨獣部隊の子どもたちで血液を提供し、それから二週間後、ようやくヤエコから防具が完成したと連絡が届いた。



花椿の新しい装備の形状は!?(性能は二の次)



いつも誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
なんだ、この滲み出る様なマッド臭…………。 役には立つけど倫理観をどっかに置いてきた感じのキャラに見えるなあ…………。 そのうち、花椿の血肉を子どもたちに投与する、くらいは普通にやりそうだ。
こんな世界じゃ倫理観よりも生存率を上げる方法のが重要だろうけど、それはそれとして滲み出るマッド感ww 花椿ちゃんの新装備がどんなのになるか楽しみです!
自分以外のだと気持ち悪いって個人個人の魔力的なモノがありそう。 でも椿の血を研究のために勝手に採取しようとして出来なくて、今また研究のために着るもの返さず新しいの作るから血を頂戴ってなんだか複雑ぅ…。…
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