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竜娘が巡る終末世界  作者: 春の日びより
第一章 人のいない世界
13/87

13 街を襲いしモノ

街へ侵入



「……そろそろ行こうかな」

 食べ終わったマスの残骸をアライグマに残して、沸騰させて冷ました水を瓶に移し終えた私は、乾いた毛皮の衣装を身につけて川辺を離れることにした。

 洗った毛皮はちょっとだけゴワゴワしたけど、一回揉んだらマシになった。まあ着ているうちに元に戻るでしょ。私は皮袋を肩に背負い、角槍を持ってまた歩き出した。


 目的地は研究所からも見えたあのビルのある場所だ。

 あそこにはきっと街があるはず。もしかしたらまだ人間がいるかもしれない。もし居なくても何処へ行ったのか分かるかもしれないし、それ以上になんの災害が起きて人が居なくなったのか、そのヒントがあるかと思った。

 でも、ビルのある街へ向かうには、川を渡らないといけない。

 よく考えたら、どうせ洗濯して濡れるのならそのまま渡ってしまえば……でもダメかも。そもそも私って泳げるのか分からない。

 たぶん、橋があるでしょう、と楽観的に考え、そのまま川辺の土手を進むことにした。


「…………」

 それにしても……人が居なくてこれだけ自然があるのに、動物が少なすぎる気がする。

 これまでに見たのはある程度大きなものはジンベエとアライグマだけで、あとは小鳥や魚程度でカラスさえ見てない。もっと繁殖していてもおかしくないのに、一定以上の大きさの動物をほとんど目撃しないのは不自然に思えた。

「……外敵がいる?」


 少し歩くと木々の隙間から橋らしき物が見えた。

 さすがに鉄とコンクリートはそう簡単に壊れない。少し小走りに橋まで向かうと、橋の上には乗り捨てられた数台の乗用車と、柵と土嚢で作られたバリケードのようなものに塞がれていた。

 土嚢はすでに雑草まみれで袋も朽ちていたけど、バリケードを越えてみると警察のものらしい車両がやっぱり乗り捨てられていた。

「……何もないか」

 開け放たれたドアの中を覗くと中には何もなかった。正確に言えば何かは残っていたのだと思うけど、風雨に曝されてネズミか何かに荒らされたのか、ボロボロで使えそうな物は何も残っていなかった。

 せめて、ロープくらいあるかと思ったんだけどなぁ……。あるにはあったけど、埋もれていたものを引っ張ったら普通に千切れちゃった。


 警察はここで何かを食い止めようとしていた。でも、バリケードが壊れていなかったので、食い止めるのを諦めたか、ここを放棄しないといけないことが起きたのだろう。

 私はその〝答え〟に察しは付いている……。

 その答え合わせをするように橋を渡り、また木々に埋もれた民家を横目に進んでいると、背の低いビルやマンションらしき建物が増えてきた。

「……やっぱり」


 雑草に覆われた道路の真ん中に、動物の骨があった。

「まさか……ライオン? 虎?」

 一目で分かるほど巨大な骨……。実際にはライオンか虎か分からないけど、頭から臀部まで十メートル以上ある。近くに転がる機動隊らしき車両が横倒しになって、内部にまで貫通するほどの爪の痕が刻まれていた。

 ……これが街を襲ったのか。

 でも、どうしてこの国に大型の肉食獣がいるの? これだけの巨体だから海を渡ってきたのか、それともどこかから逃げ出した?


 素足で踏んだ、アスファルトに積もった落ち葉が土になった地面に違和感を覚えて、土をどかしてみると、何かに抉られたように穴が開いていた。

 よく見ると機動隊らしき車両も一台ではなく、何台も壊されていたその近くに人骨らしきものを見つけて、少しだけ目を伏せる。

 機動隊だけじゃなくて自衛隊もいたのかもしれない。道路には沢山の重火器による穴が開いていて、一般人を逃がすために沢山の人が亡くなったのかもしれない。

 この落ち葉と雑草の下にどれだけの人が眠っているのだろう。それをすべて見つけることはできないけど、少しの間目を閉じて静かに手を合わせた。


 あらためてよく見れば、巨大な動物の骨も一体だけじゃない。

「これは……鹿?」

 その中の一つに、あの研究所で戦った鹿よりも大きな、歪に枝分かれした角を持つ巨大な鹿の骨もあった。私の角槍は枝分かれしていないのでやはり若い個体だったのか。大きな個体はこうやって街を襲いにきて人と戦ったのかも……。

 大きさが桁違いなので骨を見ただけじゃ分からないけど、それでもはっきりと分かったのは、角のある牛くらいか。

「あれ……?」

 その角も、角槍や牙ナイフのように何かに使えるかと思ったけど、触れてみると爪で簡単に削れるほどに風化していた。

「普通の骨より……脆い?」

 ここまで脆いと、すでに崩れている骨もあるのかも? そうなると想像よりも沢山の巨大動物に襲われたのかもしれない。

 でも……私が持つ角槍や牙ナイフは鋼よりも硬いままなのに、何が違うんだろ?


 そのまま街のほうへ歩いていると、壊されたビルやマンションがさらに多くなった。

 低層階は壊れた部分から木の枝や根が入り込んで、中には入れないほど埋まっていたので、そこがお店だったのか事務所だったのかも分からない。

「大きな建物……」

 その中に階高はそれほどでもないけど、マンションと木々に埋もれた少し目立つ建物があった。もしかして商業ビルかな?

 お店が沢山集まったビル。飲食店があったとしても食べ物は土に戻っていると思うけど……。

「……缶詰くらいは残ってるかも」


 そんな淡い期待を抱いて中を覗くことにした。やっぱり低層部分は壊されて瓦礫と樹木に埋もれていたけど、大きな木を登って枝からビルに入ってみると、そこは色味のない部屋に沢山のベッドらしき物が並んでいるだけだった。

 とりあえず見ただけじゃ分からない。木の枝に浸食されて壊れかけていた窓枠を蹴り壊して、そこから中に入る。パッと見てどの部屋も同じで、途中で機械のような物もあった。下に降りてみるとそこがなんの建物か理解できた。

「病院かぁ……」

 壊されて汚れていると〝知識〟と合わなくて理解が遅れる。

 ベンチが沢山置いている一階のカウンターらしき物の向こうに、沢山の薬があるのを見て、ようやくここが病院だと理解した。

 多少古くても錠剤なら使えるのかな? でも私は怪我をしても大量に食べれば治るし、毒素も勝手に排出されるから薬とかいらないんだよなぁ……。そもそも名称だけだとなんの薬か分からないけどね。


 予想と違ったことに時間を使って少しだけテンションが下がった。でも、気分を入れ替えようと暗い階段を上がり、角槍で屋上の扉をこじ開けた。

「う~~~んっ!」

 お日様と風を浴びて思いっきり背筋を伸ばす。

 目的地まであとどのくらいだろう……と思って見回すと、下だと樹木が多くて実感はなかったけど、あの高層ビルのすぐ近くまで来ていたことが分かった。

 道路がまともだったら歩いて数分くらいの距離か。木々に埋もれた建物を避けながらだと五倍くらいは掛かるかも。

 ある程度の高さに登ったことで、木々から頭を出している建物が意外と多いことにも気づく。

 三階建て以下の建物は屋上以外全部緑に埋まっている感じだけど、高層ビルの向こうに十階建てくらいの建物が沢山見えたので、そこが街の中心なのだと思う。

 よく見ればあきらかに病院よりカラフルな色合いの建物がある。きっとあれが商業ビルなのだろうと少しだけ気分を持ち直した、そのとき――

「……え?」


 ――……オゥ……ホホッホゥ……――


 聞こえてきた〝何か〟が吠える声。

 それが聞こえると沢山の〝声〟が呼応するように吠え始め、見上げた高層ビルの裏側から、黒い物体が姿を見せる。あれって……。

「……猿……? え、ちょっと待って」

 あきらかにサイズがおかしくない? 猿ともなんとも言えない人型の〝何か〟の周りに、ビルの壊れた窓からツタを這うように集まり始めた〝蟻〟のようなものが、もし、本来の猿のサイズだとしたら、あの黒い猿は……通常の数十倍以上の大きさがある。

 しかも……。

「ぅひっ」

 信じられない光景に思わず喉から変な声が漏れる。そのせいか、最初の黒い猿がこちらを見たような気がして――

『――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

その威嚇するような叫び声を背に受けながら、私は一目散にビルの上から飛び降りた。


 建物と木の陰に隠れるように身を隠しながら来た道を全速力で駆け抜ける。

 背後から追ってくる強い〝気配〟はない。それでも私は荷物を抱えて廃墟となった街を駆け抜けて、一時間ほど走り、川まで戻ったところでようやく荒い息を吐いてへたり込んだ。

「はぁはぁ…はぁ……信じらんない……」

 姿が見えるまでまるで気配を感じなかった。ううん、たぶん沢山いた普通の猿の気配に紛れて気がつかなかった。

 いいや、そんなことはどうでもいい。だって……。


「巨大猿が、四体(・・)もいるってどういうこと!?」



四体の巨大猿から逃げるように街から離れた竜娘は新たな目的地を定める。


次回『川沿いの生活』

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― 新着の感想 ―
猿………猿かあ………。 そう聞くと、所持品を盗まれそう、としか思えなかったが。でも数十倍となるとキングコングレベルか? どこに隠れていたんだろう?
[良い点] 新情報!風化した骨! 最初の巨大鹿と巨大生物の骨達で能力とかに違いがあったのか気になります! この世界の歴史がどうなっているのかワクワクします! 群れで巨大生物×4はヤバい! [一言] 更…
[気になる点] 戦闘機や軍用ヘリとか軍事兵器があっても滅ぶ世界……もっと色々ヤバいのが居るのかな? [一言] 終末世界を旅する物語なのに、えっちな服を着てると思うと胸が熱くなりますw
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