対峙8
お屋敷に帰るのはほぼ二か月ぶりとなりました。
エントランスを入ると、おぼっちゃまが腕を組んで立っていました。
「遅い!」
「すみません、おぼっちゃま。中央センターから連絡していましたが……。」
私が目を伏せると、おぼっちゃまが怪訝な顔をして私の顔を覗き込みました。
「リーア? なんだか雰囲気が変わった?」
「……トップシークレットなので。」
「リーアは僕のメイドだろう? 言えないって言うのか。」
「秘密にしていただけますか。」
私がこんな話し方をするのは初めてなのでおぼっちゃまは言葉を失っていましたが、小さく頷きました。
「ではダイニングに行きましょう。」
ダイニングに移動し、おぼっちゃまの前にはケーキが置かれました。
「詳しいことはご主人さまからお話があると思いますが、色々あって私に『感情』という機能が追加されました。」
おぼっちゃまは口に運ぶ途中のフォークを止めて「えっ」と小さく驚きました。
「それは禁止されているはずじゃ……。」
「はい。特例中の特例です。」
おぼっちゃまはフォークを置き、考え込みました。
「それで? 特例でソピアにいるの?」
「未定です。しばらくはいられるそうですけど。それに『感情』が搭載されたことはトップシークレットとして伏せられます。しばらくは今まで通りです。」
「そうか……。わかった。」
おぼっちゃまはそう言って黙り込んでケーキを食べました。
*
「おぼっちゃま、朝です。起きてください」
シャーッとカーテンを開けると外は燦々と初夏の日差しが差し込みます。夜間から少し開けてあった窓を全開にします。
おぼっちゃまががばっと起き上がりました。
「リーア! ……そうかリーアだ。」
「はい?」
「いや、なんでもない。おはよう、リーア。」
「はい、おはようございます……?」
おはようなんて言われたのは一年と七か月ぶりです。
*
「リーアが中央センターから帰って来れなかった時、父さんからマーサに会話の機能をつけようかって言われたんだ。」
私はポットのお茶を注いでいると、おぼっちゃまがぽつりと言いました。
「断ったよ。僕も忙しいし家にいることも少ないから。でも父さんがつけた方がいいって。」
「そうですね、私もそう思います。なにかと便利ですし。」
タクトはおしゃべりです。前からもよくしゃべりますが、コードで情報を私に送れなくなってから更にしゃべるようになりました。でもそれが相手を知るのにとても役立つことがわかりました。
ただ紫衣さんが「おしゃべりのイケメンって残念な感じね」とはしゃぐ多野さんを見るのと同じ細い目でタクトを見ていました。
「会話は大切だと思います。」
おぼっちゃまがぴくりと肩を揺らしました。
「……うん、そうだね。」




