タクトとリーア2
なぜそんな情報を口に出したのか、自分が起こした行動の不可解さにフリーズしていると、私の頬にタクトの唇が押し当てられました。皮膚を押された時に感じる感触はわかります。
ゆっくりとタクトの顔を見上げるとにっこりと笑顔が向けられました。
「これはね『キス』。キスは『嬉しい』んだって。リーア、『嬉しい』?」
私が首を傾げると、タクトが声を上げて笑いました。
「わかんないか、そうだよね。僕もよくわからなかったから。」
アンドロイドが声を上げて笑っている。この笑い声は知っています。ご主人さまがおぼっちゃまのことを聞いて笑う時と同じ色を帯びています。
「でもわかった。僕は『嬉しい』よ。うん、キスは『嬉しい』って初めて理解したかも。」
『感情』があり学習を重ねると、そんな笑い方や表情もできるようになるらしいです。
「さてと、この食料を浅見に持っていかないとね。また明日ね、リーア。」
さっきのキスの後、タクトの目を見てしまったことを思い出しました。
*
「昨日リーアから聞いたデータ送信のことを浅見に話したよ。まだぐずぐずしているけど、動き出すとは思う。改めてありがとう、リーア。」
タクトの顔を見ないようにまっすぐ前の噴水を見つめます。
「それから食料も。あれで三日は大丈夫だって言っていた。」
「そうですか。」
「こっちを見ないね。警戒している?」
「……。」
私が返事をしないとタクトも黙り込みました。
五月になって公園の桜の花がハナミズキの花に代わり、木々の葉っぱの緑も少し濃くなってきました。最近はおぼっちゃまを起こして窓を開けても文句を言われることがなくなりました。
「僕はリーアとたくさん話をしたいと思っていたけど、こうやって黙って風を『感じる』のもいいね。こんなに穏やかな世界があるんだね。」
突然、目の前に紙が出されました。
明日も十三時からリーアはタクトと会う。
……見てしまった。
「ははっ、成功した?」
「お屋敷の管理システムにログが残ります。普段、外に出ない私が毎日外に出ていると誤作動と判断されて修理されます。」
「それは困ったね。僕と会った記錄が消されたら大変だ。……でもそれは教授が帰ってきてチェックを入れた時かデータが中央センターに送られた後だろう? 大丈夫だ、リーア。君は僕のことを忘れない。」
私はゆっくりと瞼を閉じ、先ほど見た紙の内容を書き込みました。




