タクトとリーア1
「リーア。」
昨日と同じ場所で黄金比が手を振っています。
私はタクトに食料の入った袋を渡しました。
「ありがとう。」
「……浅見さんが食べるのですか。」
「そうだよ、僕は食べないよ。」
タクトなら食べるかもしれないと学習しそうでした。
「で、用事はなんですか。ご主人さまへのアポですか。」
「うん? リーアに会いたかったんだよ。話がしたかったんだ。」
「それが理由で私の予定を書き換えたんですか。」
「そうだよ。食料を手に入れたかったのもあったけど。」
タクトは楽しそうに袋の中を見ています。
「僕ね、友達って浅見だけなんだよ。ほかのヒューマンは『怖い』し。」
「怖い。ご主人さまとおぼっちゃまは怖くありません。」
「そうだろうね、専門家だし。でも人間は『怖い』よ。だからリーアと仲良くなりたい。たくさん話をしたい。」
タクトはじっと私の目を見ます。その紺色の瞳の奥に二次元コードが見えます。咄嗟に見てはいけないと判断して目を逸らしました。
でももう見てしまった。瞬きをすれば書き込んでしまいます。
「この街は綺麗だね。統一感があって清潔で。」
「ここしか知らないので。」
「そうか。僕がいたのはセレブが集うリゾート地だったから『明』があれば『暗』もあってごちゃごちゃしていた。夜はキラキラして綺麗な場所でも昼間見たらゴミだらけ、とかね。……学習するにはよかったんだろうけど、ヒューマンの怖さがよくわかったよ。」
タクトが風で揺れる頭上の新緑のカエデを見上げました。赤紫色の小さな花が咲いています。
「怖かったけど学習してよかったなって思うんだ。この先僕のデータが有効活用されたら『嬉しい』しね。」
そして私の方を見ました。
「そう思えるようになったのはリーアと出会えたからだよ。僕はひとりぼっちのだと思っていたから、リーアの存在がとても『嬉しい』。」
明るい笑顔のタクトを前に私は少しフリーズしました。タクトの言うことがよくわからない。でも瞬きをしてしまい、タクトの言葉が徐々に私の中に蓄積されました。
「……タクト、私のデータは月に一度センターに送られます。次のデータ送信は二週間後です。昨日までのデータはお屋敷のサーバーに保存されています。データが送られたらあなた方の存在が中央センターに知られますよ。」
タクトが目を見開き、そしてふっと笑いました。
「ありがとう。その前に行動しなきゃね。」




