浅見side2
原嶋杏香が用意してくれていたのは素晴らしい研究室と工房だった。そこは彼女がソピアの他に拠点としているリゾート地の外れにあった。
『決心してくれて嬉しいわ。忘れ物はない?』
『ああ。』
アンドロイドの心臓部であるチップなどの精密機器と設計図と部品のデータが入ったメモリ。それから私物が少し。
『それは良かったわ。私が顧客一号になってあげる。だからまずは私の希望通りのアンドロイドを作ってね。』
依頼書を見た俺は絶句した。
『……確かに俺が作りたいアンドロイドと……。でもこれは……。』
彼女が希望したのは、完璧な容姿をと感情を持った「恋人用アンドロイド」だった。
『アクセサリーを作って欲しいだけよ。作れないって言うならあなたを警察に通報するしかないわ。……浅見さんは自分の意思で機密情報を持って特区を逃亡したのだから。』
『そ、それは原嶋さんが……!』
『知らないわよ。』
俺はぐらりと倒れそうになった。
『私はたまたまこのリゾート地でソピアで知り合ったあなたを見かけて、私の自慢の工房を見てもらいたかっただけよ。それにほら、あなたのことを捜索する通知が来ている。』
見せられたタブレットの画面には、俺の顔写真と共に見かけたらすぐに通報するようにと記載されていた。
そして背後に動きがある。俺の背後には研究室に通じるドアがある。その前に警備用アンドロイドが二体立った。
『あなたは天才かもしれないけれど、その頭の中身は研究室の中のコンピュータとメモリの中にもあるわ。……別にあなたじゃなくてもいいのよ。例えば海外の研究者とかね。』
『な……っ!』
原嶋杏香は赤い指先を自分の頬に滑らせながら考える風に視線を下げた。
『そうね。私としたらそちらの方が都合がいいかも。高く売れるだろうし。』
そして顔を上げて妖艶に笑った。
『あなたと一緒に渡せばいいのよね。例えば半身不随になった浅見さんとか?』
データを持ち出したのは俺だ。彼女は俺が海外に売ったことにして莫大な金額をも得ようとしている。
この女が恋人用アンドロイドを欲する理由。それは多分裏ルートでの販売も視野に入れているのだろう。
当時の俺は追い詰められどうしていいのか分からず、彼女の依頼を受けてしまった。
そうして半年かけて原嶋杏香と俺の理想を注ぎ込んだタクトを作り上げた。
3Dプリンタで造形された骨格に、これも3Dプリンタで作った人工の皮膚を被せた。
目を開けたタクトを見て、俺は震えるような感動を覚えた。
それからOSと細かなプログラムを入れた。
まだ語彙と感情が乏しいながら話し始めたタクトを「助けたい」と思った。
待っていろ、いつかきっとここを抜け出してお前を助けてやる。
しかし俺はそこに軟禁されることになったのだ。




