彼は何者7 タクトside
僕に浅見が最初に組み込んだ感情は『好き』と『嫌い』『嬉しい』『辛い』。
肌も人肌の温度を保ち、センサーが組み込まれ『痛い』『くすぐったい』などの感覚も感じる。それまでのアンドロイドに不必要と言われた『表情』が一番難しかったらしい。
まるで生まれたての赤ん坊のような僕はその後、僕の作成を依頼した原嶋杏香さまの下で感情を学習していった。
杏香さまは最初は優しかった。優しい言葉をかけてくれて可愛がってくれた。だから『好き』だった。僕も彼女が喜んでくれるのが『嬉しく』て命令に従っていた。
杏香さまが仕事の時やソピアにいる時以外は片時も離れず、夜も一緒にベッドに入った。僕はアンドロイドだから眠る事はなかったけれど、杏香さまは僕をくすぐったり撫でたりして反応することが面白かったようだ。
「これはキス。キスは『嬉しい』よ、タクト。」
と言って何度もキスをしたり抱きしめたりしてきた。逆に抱きしめるように言われて杏香さまが寝ている間抱きしめたりしていた。
様々なことを学習した頃、僕は杏香さまと外に出かけるようになった。
「タクト、アンドロイドだってバレないようにしなきゃダメよ。ちゃんとしなきゃ痛いことをするわよ。」
それは鞭で叩くことを意味している。赤く腫れることも血が出ることも、ましてや強度のある人工の皮膚でできた肌が破れることもないが『痛い』ことは分かる。『痛い』のは『嫌い』だ。
そうやって杏香さまは僕を甘言と恐怖で教育していった。
出かけた先はパーティーであったりバカンスであったり。杏香さまは僕を恋人として周りに紹介した。
杏香さまが嬉しそうだと僕も『嬉しい』。望まれれば教えられた通りに振る舞う。
しかしあるパーティーに出席した時のこと。
「タクト、あの子。」
杏香さまの視線の先には若い女性がいた。僕の方を赤い顔をして見ている。
「あの子、きっとタクトのことが気になるのね。」
僕は首を傾げた。当時の僕は恋愛感情というものはまだ知らなかったからだ。
「気に入らないわ。私のタクトに色目をつかうなんて。」
杏香さまは赤い爪にクリスタルがキラキラ光るほっそりした手で持ったワインを飲んだ。
「タクト、あの子に話しかけてきなさい。優しくね。……そうね、挨拶をして名前を聞いて趣味とか好きなものとか話題にして。その後、また指示を出すわ。」
「はい、わかりました。」
僕は言われた通り、その女性に話しかけ、その後も指示通り動いて仲良くなった。
*
「いい頃合いね。最後の指示を出すわ。ちゃんとしなきゃ痛いことをするわよ?」
杏香さまはとても楽しそうに笑った。……杏香さまが喜ぶなら、それはきっと正しいこと。




