彼は何者6
浅見暁人。
私のご主人さまである斎木さまの研究室から突然いなくなった天才。
浅見さんは大学院を出て中央センターに勤務する二十六才。細身で銀縁の眼鏡をかけた理知的で鋭い目元が印象的な男性です。整った顔をしているのですが、いつもぼさぼさの髪で、よれよれの服の上に白衣を羽織っていて、よく紫衣さんに怒られていました。
私が多野さんによって制作され、動作確認や最低限の学習をしていた間の記録しかありませんが、彼は寡黙で私に近づいてくることはありませんでした。
その彼が二年前に中央センターから突如いなくなりました。彼自身が機密みたいなものなので秘密裡に大捜索が行われましたが見つからず、今でも捜索は続いているはずです。待遇に不満があり出奔したのだろうというのが大方の予想でしたが、依然として見つからなかったのは、どうやらそのセレブが隠していたようです。
浅見さんはアンドロイドの可能性と有用性を周囲に説いていました。しかし過去の反省から浅見さんの理想とするアンドロイドを作成することは許されなかったのです。
「浅見は、その女性の理想を込めた『僕』を作り上げた。禁じられた『感情』も組み込んで。」
「感情……。」
私はゆっくり繰り返しました。タクトは頷いて続けました。
「浅見も依頼者の資金で自分の技術全てを注ぎ込んだ『僕』を作るのが楽しかったみたい。それまでソピアでは許されてなかったからね。
でもたった一人で僕みたいなアンドロイドを作り上げるなんて、浅見はほんとに天才だよね。
でもそれが僕にとっても依頼者にとっても誤算だった。
……僕は耐えられなくなって逃げ出したんだ。」
タクトは『感情』と『知能』、そして優れた演算能力を手に入れたが故に人間の様々な面を知ることになったのです。




