第3音 初演奏
人が目覚めるとき、それはどのような時だろうか。多くは朝の陽ざしだろう、他には誰かに声をかけてもらい起こしてもらうこともあるだろう。
つまるところ、自分で起きるか、何かの刺激により起きるのかの二択だ、私はそう考える。
そして今朝の私の目覚めはおそらく後者なのだろう、ただし、創造と大きく違うのは人から起こされたのではなく、小動物に起こされたことだ。
そしてその小動物、いやもはや小動物といっていいものだろうか。なにせその動物は喋るのだ。
「そう、喋るのだ・・・」
そうつぶやく青年に対して、小動物、もとい喋る小さな生き物は無邪気に話しかけてくる。
『旦那!昨日の旦那のあれ!あれをもっと!』
そう、さっきからこれの繰り返しだ。まるで状況にさっぱり追いついていない。
この喋る生き物、見た目がリスに近いからリスでいいか。このリスの話を要約するに昨日の私の演奏・・・とは呼べないものだが、ピアノの音にいたく感動してまたピアノを聞かせてくれと催促しているわけだ。
「ピアノを弾くのは構わないが、弾ける曲もなければピアノもなくなってしまったのだが」
ああ、この曲がピッタリだな
脳裏に浮かんでくる、かつての自分が作曲した曲のメロディーが。
神は私の記憶を制限するといった、確かに今までに自分が作曲した曲がすべて思い出せない。おそらくそういう意味で制限ということなのだろう。
「今はそんなことはどうでもいいか。
よろしい、では一曲披露させてもらおうか」
手元にはなかったはずの腱板があり、その姿があまりに堂に入っている。
彼が引いた曲、それは『ピアノソナタ 第14番 月光 第二楽章』
ピアノソナタ第14番月光は三楽章から構成される彼の代表作ともいえる作品であり、彼自身の苦悩や喜び、そして前進する決意が表現されている曲になっている。
そしてこの第二楽章は陽気で明るい雰囲気を醸し出すこの曲は新たな出会いに最適な曲であった。
私は、音楽を通じて人々に感動を与えたい。それこそが私の使命であり、目的である。かつての私が言った言葉だそうだ。神から見せてもらった未来にはそう記録されていた。
だが、この奇妙な光景を前にしていうのであれば
「私は、音楽を通じてすべての生物に感動を与えたい。それこそが私の使命であり、目的である。だな」
なにせ、今私の目の前にいるリスは人と同じように感動しそして、泣いているのだからな。
『あんたの名前を教えてくれッ!』
ひとしきり涙を流し感傷に浸った後にリスが言った。
そうか、私の名前か
「ルートヴィヒ・・・・・いや、未来では家名の方が有名になっていたな。では私もそれに倣って、私の名はベートーヴェンだ!」
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