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「・・・・・・・・・ということがありまして・・・」
喫茶店で出会った女性、マラソーさんが両親に事の経緯を話す。するとそれを聞き終えた母が、テーブルをドンっと叩いて強い口調で怒り始めた。
「うちの息子を騙そうとするのはやめてください!!そんな話、嘘に決まってるじゃないですか!!」
「・・・いえお母様。決して嘘では・・・」
「確実な証拠がないでしょう!!それに姪を4人も養っているだなんて話、聞いたこともありません!!息子を何かの悪巧みに使うつもりならやめてください!!」
「・・・まあまあ、落ち着いて」
怒る母を父がなだめようとする。だが母の怒りは収まらず、今度は俺へと矛先が向いた。
「セヴァレル!!」
「あっ、はい!」
「あなた、医者に診てもらうんじゃなかったの?一体どこをほっつき歩いていたのよ?」
「俺は・・・その・・・」
「私はあなたを信じてお金も渡したのよ!!なのにどうしてこんなことになってるの!!」
聖母のような面差しの母親も、怒るとまるで鬼のようだ。
俺の為に怒ってくれてるんだよな。分かってる。17の息子が10歳以上も年上に見える女性とつるんでたらそりゃ心配するに決まってるよな。・・・でも、だからってすんなり諦めるわけにはいかない。生のレユリネちゃんを一目見るまで、俺は死ねないって決めたんだ。
「母さん!!これは全て俺が自分で決めたことなんだ!!マラソーさんに無理やり話をまるめこまれたわけじゃない!!!」
「それでもねえ!!母さんは心配なの!!」
「・・・・・・心配してくれてるんだね、ありがとう。でもね、母さん。心配するのと信用するのはまた別の話だよ。母さんは俺のことを心配してくれてるけど、俺のことを信用はしてくれないんだ」
「そ、そういうわけじゃ・・・・・・」
俺の言葉に母は少し動揺する。その隙を父がついてくれた。
「まあまあ、セヴァレルももう17歳なんだから、本人の意思を尊重してみるのもいいんじゃないか?それに、そろそろ女の子との付き合いだってあってもいい年頃じゃないか」
父の言葉に母は少しの間沈黙する。
「・・・・・・はぁ、分かったわよ。皆で私を悪者にしようって魂胆なら、私の負けね。・・・いいわセヴァレル、あなたの好きなようにしなさい」
「ありがとう母さん」
「その代わり、責任は常に自分に伴う、そのことだけは決して忘れないでね」
「分かった」
俺の決意を見ると、母はマラソーさんに向き直ってこう言った。
「私の息子を預けます。悪い子ではないので、あまりいじめないであげてください」
「そんなことしませんよ。安心してくださいお母様。息子さんにとっても必ず良い経験になると思いますから」
話がなんとかまとまって、俺はマラソーさんの養う姪達が住んでいる屋敷へと向かい、そこで住み込みで生活する運びとなった。もちろん、経済的な費用はマラソーさんが完全に負担してくれるらしい。
「え!!お兄ちゃんお家から居なくなっちゃうの!!どうして?やだ、やだ、やだーーー!!!」
昼寝をしていて後から説明を聞いたヘルミーナが悲しみの声をあげる。
はあ、辛すぎる。ヘルミーナと離れ離れなんて俺も嫌だよ。残酷すぎる。
「突然でごめんな、ヘルミーナ。でも兄ちゃん、行かなきゃ」
「・・・・・・うう、うう、うわぁーん、うわぁーん、うわぁーん」
ヘルミーナは号泣を始めてしまった。
怒りは愛情の裏返し、悲しみは親愛の裏返し。きっと俺セヴァレルは、家族にとてつもなく愛されてるんだろう。
「泣かないでヘルミーナ。ほらお土産だよ」
俺は帰る途中に街で買っておいた小さな女の子の人形をヘルミーナに渡した。
「・・・・・・おにんぎょうさんだ」
「可愛いだろ?・・・兄ちゃん、少しの間居なくなっちゃうけど、また絶対ヘルミーナに会いに帰ってくるからな。次はどんなお土産がいい?」
「・・・もういらない」
「どうして?」
「お兄ちゃんがおみやげの代わりだから」
か、か、可愛いいい!!!
「そ、そっか〜、ははは、兄ちゃんがお土産か〜」
「・・・お兄ちゃん」
「ん、どうしたヘルミーナ?」
「帰ってくるって約束、ゆびきりげんまん」
そう言うとヘルミーナは、小さな小指を俺の前につきだした。
「分かった、約束する。今度は兄ちゃんが守る番だな」
そうして俺はヘルミーナと深く指切りをした。
「ばいばーい、お兄ちゃーん!!」
「達者でなーー!!」
「上手くやるのよーー!!」
俺は家族に見送られて、マラソーさんと共に屋敷へと向かった。