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5 「行くわよっ!案内しなさいっ!」

屈辱に戦慄くサールエルを放置してしばし。ネイルを塗った指を、ディアはうっとりと見つめる。


「きれいねえ……。このネイルが引き立つように、ドレスはシックにしましょうか。濃紺に銀の刺繍の入ったドレスを持ってきてくれる?……で、サル爺、何時まで其処に突っ立っているつもり?わたくしは着替えをするの。それ、覗き見でもするつもり?ならサル爺じゃなくて変態痴漢スケベジジイって呼ぶわよ?」

「ぐ……」


他人に頭を下げることなく長年過ごしてきたであろうサールエルが、ディアに対して礼を尽くしてくる……などとはディアも思ってはいない。


(だけど、サル爺ごときにマウント取られるわけにはいかないのよね。少なくともレオン陛下との関係が良好になるまでは、このお爺ちゃんを上手く使っていくことが重要になるだろうし。サル爺呼ばわりするのも、お爺ちゃんはわたくしの下だと理解してもらうため。お年寄りに対して不敬なのはわかってる。でも手持ちのカードが少ないんだから、引っ掛かった者は徹底して使わないとね)


今この帝国でディアに価値を見いだしているのがサールエルだけなのだ。

だからこそこのサールエルを足掛かりにしてレオン陛下との親密な関係を作り上げていかなくてはならないのだが。


(サル爺のご機嫌取ってすりよったところで師匠の知識だけを取られて終わりよ。この手の偉そうな態度の相手にはこちらが上だと理解させないとね。だからこそ『怒らせて、敵を乱せ作戦』よ。感情を逆撫でで、真っ向から勝負してわたくしが勝てば、こーいう知識重視に見せて脳筋タイプはあっさり下に付くはず)


屈辱に、顔をな真っ赤にしているサールエルを、ディアは意図して見下げる。


「さあ、とっとと出ていって。わたくしのほうは貴方に用はないの。ああ、そうね。わたくしはとっても親切だから、言ってあげるけど。……貴方がわたくしに要求があると言うのなら、それに相応しい礼節を持った態度で臨みなさいな。そうすれば聞いて上げることくらいはしてあげるわよ?」


ギリギリと、音が鳴るくらいに歯軋りをしてから、サールエルは頭を下げた。


「……………………カーライル師の、知識を、お教え頂きたい」

「いいわよ」


あっさりと首肯したディアをサールエルはポカンとした目で見る。

まさか承諾されるとは思わなかったのだ。


ディアはモナにペンと紙を持ってくるように指示をした。


「ええと、まずはハイ・ポーションで良いかしら……」


サラサラと、ペンを動かす音だけが部屋に響く。

サールエルは目を見開いて、そのディアの書く文字を見つめる。


「そ、それがカーライル師のハイ・ポーション……!そんな作り方があったとは……っ!」

「この程度なら作製にそれほどの魔力は必要ないの。だからサルにでも作れるわ」


サールエルはひくりと口もとをひきつらせたが、ただ「ああ……」と言うだけにとどめた。

ディアに突っ掛かるよりも、ハイ・ポーションの作り方のほうに心が向いているらしい。

ディアは、自身の誘導通りにサールエルが動きつつあることに、内心ニヤリとしながらも、そんなことはおくびにも出さず淡々と言う。


「このレシピ、あげるから作ってみると良いわ。出来たハイ・ポーションは先の戦争の負傷者で効果を試してみて。さすがに切り落とされた腕の再生とかはこれじゃ無理だけど、動かなくなった手足くらいならそれなりに動かせるようになるから」

「……このエリクシールならば?手足の再生も可能か?」


先ほどの、謁見の間で鑑定させたエリクシールをサールエルが取り出した。


「もちろん出来るわよ。それ謁見の間であげたやつでしょ。疑うのなら誰かに使ってみたら?」


サールエルは取り出したエリクシールと今ディアが書いたメモを交互に見る。


「この一瓶で、手が生えるのか?毒に犯され腕が腐り落ちた。そんな腕でも再生は可能なのか?」

「……問いかけが具体的ね。誰かそういう状態の人でもいるの」

「レオン陛下の……」

「ええっ?陛下?」


ディアは焦った。

謁見の間で会ったとき、いきなり怒鳴られたけれど、毒に苛まれたレオンの、余裕の無さからのものであったのならば。更にもしも命に関わるようなものであるのならば。


(ネイルとかのんびり塗ってる場合じゃなかったのっ!?)


「いや、陛下ではない。陛下の叔父の……」

「ああ……、えっと、オーなんとか様……だったかしら?」

「知っているのか?」

「うちの国の前王の葬儀に参列してくださったでしょ。レオン陛下と陛下の叔父様は。名前までは覚えてないけど、黒髪に顎髭の、なかなかダンディな外見の方でしたわね」

「そうじゃ、オースティン様という……」

「ああ、そんなお名前だったわね。その方、どこかお悪いの?」

「先の戦で腕を負傷された。毒の矢で射られた右腕は切り落としたのだが、その処置も遅く、今はその毒が全身に回り、右肩も腐ってきている……」


ディアの顔色がさっと変わった。


「サル爺っ!さっさとそのエリクシール、オースティン様とやらに飲ませてっ!」

「これで治るのか?」

「直接看ないと分からないけど、それだけではたぶん無理ね。まず解毒しないと」

「……死するまでの時間を引き伸ばして、苦しませるだけでは……」

「治すわよっ!このわたくしがっ!カーライル師の弟子の名に懸けてっ!だからわたくしが行くまでそのエリクシールで保たせなさいっ!その程度の足しにはなるわよっ!」


ぎりっと、ディアはサールエルを睨みつける。


「のんびりしてないでよっ!さっさと陛下のもとに行って、わたくしがオースティン様の治療をする許可取ってきて頂戴っ!モナっ!オースティン様の部屋まで案内してっ!陛下の許可取れたらすぐ治療に入るっ!他国の人間のわたくしが勝手にオースティン様の治療をすることは無理でしょうっ!?」


云いながら、ディアは衣装部屋に走る。


バサリとドレスを脱ぎ、一番動きやすい簡素なワンピースに着替え、髪も後ろでひとつに纏める。次いで、一冊の書籍を手にする。


そしてまた、走る。


「行くわよっ!案内しなさいっ!」




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