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4 「目指せ溺愛っ!レオン様から愛されまくるっ!」

『そうしてディアニャンは、頑張って魔道を覚えて、このプシーを使い魔にして、初恋の王子様に再会を果たしたという訳にゃんねー、やれやれ』

「ちょっとプシー、わたくしのことを変な名前で呼ばないで頂戴」

『にゃいにゃいさー。で、今後はどうするにゃ?』

「んー、流石のわたくしも相手の出方待ち……かしらね」

『あにゃにゃ?ディアらしくにゃいにゃー。奇襲夜討ち朝駆けはどうしたのにゃー?』

「奇襲?レオン様のベッドに潜り込んで、体を使って愛を請えと?うーん、それもありだけどー」

『あり、にゃんか……』

「でも、出来れば……わたくしから迫るのもいいけど、レオン様の方から愛されたいわね」

『ハードル高っ!』


うん、とディアは一つ頷いて、拳を握った。


「そうよっ!ハードルは高ければ高いほど燃えるというものだわっ!目指せ溺愛っ!レオン様から愛されまくるっ!これを目標としましょうっ!」


プシーは知っていた。ディアは諦めない。やれやれと尻尾を振ったところでドアを叩く音がした。


ドンドンドンドンドンっ!


あまりに大きな音に驚きに、ディアはがばっと身を起こした。プシーがすっとディアの影に潜る。


ドンドンドンドンドンっ!


また、ドアが叩かれた。


『うー、うるさいにゃん……』


プシーが影の中から呟いた。


「さっさと出てこい小娘っ!」


扉の向こうから、怒りを含んだしわがれた声が聞こえてきた。


「あら、この声は先程謁見の間にいたサールエルとかいうお爺ちゃんね。サル爺とお呼びしましょうか」

『……サルにジジイ……?ディア、喧嘩売るにゃんか?』


ドンドンドンドンドンっ!


暢気に話していると、ドアを叩く音だけでなく、今度は「お止めくださいサールエル様っ!姫君はお休みになっているのですっ!」とサールエルを止めようとするモナの声が、続いて「邪魔をするな小娘っ!」と怒鳴るサールエルの声と「きゃあっ!」という短い叫び、それに誰かが倒れた音がした。


モナか誰かがサールエルに突き飛ばされたのかもしれない。


ディアはベッドからひらりと飛び降りると、ドアを開けた。


「乙女に対して狼藉を働く不埒者はどなたかしら?」


じろりと睨んだディアに、サールエルも睨み返してきた。


「ワシを待たせるとは随分といいご身分だなっ!」

「わたくしが何時どこで何をしようとわたくしの自由です。それに待たせるとはどういうことです?わたくし、貴方とお約束などしていませんが。棺桶に片足を突っ込んでいるお爺様は既にボケていらっしゃるのかしら?そうでないというのなら、王女に対する礼儀というものをおぼえなさい」


高圧的に見られるように、ディアは敢えて腕を腰に当ててサールエルを冷たく見る。


サールエルは三白眼の目をくわっと見開いた。


「誰が棺桶に片足突っ込んでるジジイだっ!ワシはまだまだバリバリ現役の最強魔道師じゃっ!」

「あら、神官様ではなく魔道師サマでしたのね。それでわたくしになんのご用かしら?礼儀知らずのお爺様?」


サールエルが勢い込んでディアの部屋にやって来た理由など、わかってはいたが、ディアは敢えて尋ねる。


「お前の持つカーライル師の知識、それを全てワシに寄越せっ!」


従って、ディアはにっこりと微笑んだ。


「わたくしとてお師匠様の素晴らしき叡知を一人占めする気はありませんわ」

「で、では……」


期待にサールエルの顔が輝く。


「ですが、約束もなく、いきなり乙女の部屋に押し掛けてくる常識知らずに伝えることは何もございませんのよ」


ディアはサールエルを無視して、座り込んでいるモナに手を差し伸べた。


「モナ、大丈夫?立てる?」

「あ、は、はいっ!もうしわけ……うう……っ!」


モナは立ち上がろうとしたところで、顔を顰め、右足を押さえた。


「痛む?捻ったかしら?」


ディアは、敢えてポケットから何かを取り出す動作をして……、そうして『空間収納』から取り出した小瓶をモナに手渡した。


「あのね、これ、わたくしが作ったポーションよ。飲んで頂戴。そんな怪我くらいすぐに治るはず」

「あ、ありがとうございますディア様」


モナがゴクリと、ポーションを飲み干した。そして一瞬だけ、モナの体が光り輝いた。


「え、え、えええええええっ?」


叫びを上げたのはマリエだった。


「何でいきなり髪が艶々になってる上に、お肌もつるんつるんになっているのっ!?」


マリエの声に、モナが自分で自分の頬に触れ、その柔らかさに目を見開く。


「もっちもち……ですね……」

「あ、あら?傷の回復薬と美容液を間違えたかしら?足の痛みはどう?」

「……ええと、足は……まだ痛いです」

「ごめんさいね、ちょっと待ってて。ポーションくらいすぐ作れるから。えっと、わたくしの荷物で赤茶色の、このくらいの革の鞄あったわよね」


ディアが、このくらい、と手振りで示す。


「あ、はいっ!ご衣裳部屋のほうに……取って参りますっ!」


アゼリアがパッと身をひるがえして衣裳部屋に向かう。


「マリエ、コップに水を入れたものを持ってきてくれない?」

「かしこまりました。直ぐに」


マリエも、一礼して足早に部屋を出て行った。


「モナ、床は冷えるから。手を貸すからこっちの椅子に座って」

「い、いえ、姫君にお手を煩わせるわけにはまいりません。一人で立てま……、いっ!」

「無理よ。強くぶつけた上に足まで捻ったのでしょう?ホント野蛮なサル爺ね」

「誰が野蛮でサルかっ!」


ディアはじろりとサールエルを睨む。


「女性に怪我を負わせて、それを謝りもしない男なんて人間以下。サルで充分よ」


アゼリアが衣裳部屋から鞄を抱えて出てきた。


「姫君、こちらで」

「ありがとう。テーブルに置いてくれる?」


カバンからいくつかのものを取り出していくディア。


「ええとグロウストーンがあったわね。それから乾燥させたネザーウォートでしょ。それから……」

「何だそれは。そんなものでポーションを作るのか」

「……見たければ、見れば?無知なサル爺は知らないでしょうけど、コレ、お師匠様の秘伝のレシピよ」


手早くポーションを作り、それをモナに飲ませる。


「あ……痛くないです……」


すっと立ち上がり、くるりと一回転までして見せるモナ。


「良かったわ。これ、お師匠様のレシピだから、効き目早いのよ」

「あ、ありがとうございますっ!」


モナが頭を下げるのと同時に、サールエルが叫んだ。


「それを儂に教えんかっ!」


「教えろって言われてもねえ……」


血気盛んに押し掛けてきたサールエル。

ディアはあからさまに面倒気な顔をサールエルに向けた。


「あのね、サルおじいちゃん」

「誰がサルだ、小娘がっ!わしは偉大なるサールエル様じゃ!このヴェルディス帝国の魔術師筆頭であるぞっ!敬い頭を垂れんかっ!」


顔を真っ赤にして、口から唾も撒き散らすサールエル。


ディアはそんなサールエルを「ふふん」と鼻で笑う。


「ああそう、偉大なるおじーちゃんで、この国のえっらーい魔道師様?ふーん?それがなんだと言うの?ねえ、聞くけど、わたくしの師匠であるカーライル師と貴方とどちらが偉大なのかしら?」

「そ、それは……」


尊大な態度には尊大に返す。ぐっと言葉に詰まったサールエルに、ディアは冷笑を向ける。


「我が師の知識を得ようとするのならば、師に対する敬意くらい示したらどう?ねえ、お爺ちゃん、このわたくしが誰なのかご存じよねえ。カーライル師の最後にして唯一の弟子。師の知識の全てを有しているたった一人の者。そのわたくしに対して貴方は『小娘』と言ったのよね」

「ぐ……っ」

「しかも『敬い頭を垂れんか』ねえ……。わたくしの知識とサル爺の知識、比べてみる?わたくしの方が圧倒的に質も量も上なの。さっき燃やした師匠の覚書、わたくしは全て覚えているし、書かれている秘薬も作ることが出来る。サル爺が目から血を流すほどに欲する知識はここにあるの」


ディアはわざとらしく自身の頭を指でつついてみせた。

そうして口角を上げ、艶やかな笑みを浮かべてみせた。


「まあ、ね。『偉大なるサールエル魔道士サマ』には『小娘』ごときの知識なんて不要で御座いましょう?師匠の知識は謙虚且つ素質のある者を見いだして、その者に授けるつもりでしてよ。つ・ま・り、ね、尊大なサルごときに教えるような、安い知識なんて、わたくしにはないの。ふふっ、顔を洗って出直してきたら?」


一刀両断、切り捨てる。


そうしてディアは侍女三人組に笑いかけた。


「ねえ、爪を整えてくれるかしら?ネイルもお願いしたいのだけれど」

「は、はい。畏まりました。ええと、お色は何がよろしいでしょうか?」


答えたのはマリエだった。

「そうね、レオン陛下の髪のお色に似た感じにしたいのよ」

「でしたらこちらの金色とこの赤を混ぜてみましょうか」

「あら、素敵!爪の色に合わせてドレスも着替えようかしら!」


歯を食い縛り、わなわなと震えながら立ち尽くしているサールエルを、マリエたちはちらりと見る。

が、サールエルには声はかけずに、ディアが命じた通りにネイルの準備をした。




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