ベテランの出番
(……また、あいつだ)
ランチタイムの後の厨房。後片付けをするマダムの傍らには、新人のあいつ。
俺は、あてがわれた薄暗い部屋の隅でひとり、ためいきをつく。
そりゃ確かに、若いヤツは元気だ。
どんなにヘビーな仕事の後だって、ひとっ風呂浴びればたちまち元の通り。
肌ツヤからして、俺とは違う。
以前は俺もあの厨房で、マダムとご主人の下、朝から晩までフル回転で働いてた。毎日のように、メインの皿を任されていたもんだ。
それが今じゃ、扉一枚隔てたこの部屋で、お呼びを待つ日々……。
そのとき、扉の隙間から光が差し込んできた。
「!」
期待に満ちた俺の目に映る、マダムの姿。
マダムが俺に、そっと手を差し伸べた。
明るい厨房の照明の下、俺はマダムに導かれるまま、懐かしい持ち場についた。
ああ、夢にまで見たこの場所。
腕が鳴る。さあ今夜は、どんな料理を作ってやろうか。
ちょうどそのタイミングで、入り口のドアが開く音が聞こえた。
あの足音はご主人だ。
マダム、ご主人。お二人とも、俺を忘れずにいてくださって、ありがとうございます。誓って、損はさせませんぜ。
「サトル、おかえりなさーい」
「ただいまユキ。
はいこれ、”ムッシュ・L“のケーキ。
そしてこちらは、今夜のディナーの食材でございますよー、お誕生日様」
「やったあ!」
「さてと、じゃあ作るか。
リクエストは、ブラックタイガーとホタテのフライだったよね?」
「うん。
あ、揚げ物するとテフロン加工傷んじゃうから、フライパンは古い方使ってね」
「それって、シンクの下に置いてるやつ?」
「そうそれ。
さっき、コンロの上に出しといた」
【 了 】