★1 森の中
よろしくお願いします。
4月9日
いいカンジだな~
窓から心地いい風が入ってくる。俺の席は一番後ろの窓際だ。
運動場が見え、その端には桜の大木がこれでもかと
花を咲かせ、時折強い風が吹くと、花びらが舞っている。
今は3年になって初めての古文の時間だ。
前の席の友道結菜が方丈記を朗読している。
声までキラめいているな。
結菜のセミロングの漆黒の髪が強い風に少しなびいた。
結菜の朗読が終わり、次を結菜の隣の富士谷が読み始めた。
あっという間だったな。
先生が解説を始めた。おお、この先生の声も最高だな、癒される。
方丈記なんかじゃなく、愛だの恋だの解説してほしい。
窓の外を見ながら、そんなことを考えていたら、
説明しながら歩いていた先生に、俺の机がトントンと小さくたたかれた。
よそ見を反省し視線を教室に戻すと、教室の真ん中が白く光っていた。
生徒が騒ぎ出したが、その光はどんどん大きくなっていき、
教室中をつつんだと思ったら、真っ白い所に、一人で立っていた・・・
俺のスマホが震えたので、見てみると「斥候」と大きく表示されていた。
なんだこれ?タップすると「これでよろしいですか?」と出た。
一旦戻って、今度はスクロールしてみた。
「斥候」「戦士」「射手」「僧侶」「魔術師」と出た。
「斥候」だけ光っている!オススメっていうことか?
異世界に転移するのか、マジか!帰るという選択肢がない!
中学校までは自分のことを特別だと思っていて、
予定どおり県内一の公立進学校へ進んだけど、高校に入ったらいたって普通だった・・・
武闘派じゃないから絶対勇者なんかじゃないし、「戦士」じゃないよね。
「魔術師」になってバンバン魔法を使うっていうのは魅力的だけど・・・
超魅力的だけどな~
オススメの「斥候」にしておくか。
どんな所に行くかわからないし、やばい奴とは出会う前に逃げだそう。
「斥候」に決定すると、次の瞬間、森の中だった。
周りにはだれもいない。植物に詳しくないが、日本の森の中と同じだ。
季節は春だろうか?
俺のリュックとスポーツバッグが落ちている。よかった、弁当と水筒が入っている。
スマホを持っているけど、やっぱり圏外だ。
教科書も入っているのはいやがらせか?ジャージも入っていて、家を出た時のままだな。
どんなシステムだ、これ?
おっと、能力を確認しないと。
目の前に能力が浮かんできた。
出たのは、「名前:大林ヒロト」「年齢:17歳」「職業:泥棒」「能力:窃盗」
だけか・・・
なんで泥棒なんだよ!斥候だったじゃねーか!
詐欺だ!
俺は泥棒じゃねーよ!
スキル?魔法?が「窃盗」一つだけって、どんな罰ゲームなの?
転移させたお詫びに、もっと凄い能力をくれるのが普通だろ!
いやいやいやいや、身体能力が超凄くなっているんだな、きっとそうだ!
全力で動いてみたら、前よりかなり動ける!
けど、常識の範囲内でした、残念!
なんなんだ、確かに俺の父親は2ヶ月前に万引きで捕まったさ!
だけど、俺は他人の物を盗んだことなんてねーよ!
対馬か、舛水か、それとも富士谷の嫌がらせか?
ひとしきり怒りを爆発させた!
ふー、ふー、まずは、ちゃんと自分の能力を確認しないと。
「窃盗」・・・おっと意識するだけでわかるよ!
お宝や財布を盗むんじゃなくて、スキルを盗むのか…
でもテレビで見る有名人の肩書は、怪盗とか、大泥棒とか、
義賊とかで、俺は「泥棒」・・・これってやっぱり大したことないのか?くそっ!
いやいやいや、スキルを盗みまくって最強へ!に違いない!
盗み方は?うん、戦闘中は左胸にタッチすればスキルを盗めるのか!
これは凄いぞ!一気に逆転だ!でもそんなこと俺に出来るのか?
戦闘中でなければ、3秒左胸にタッチすれば、こちらはスキルをコピー出来るのか。
うん、仲のいい人にタッチして、相手がそのスキル無くなったら友達じゃなくなっちゃうよね!
で、盗むスキルを選べたらいいけど、それは分からないな・・・
やってみるしかないっと。
シミュレーションしてみよう!
剣を持ったゴブリン6匹現れた!はい、死んだ!
いやいやいやいや、村人に出会った!
世話になって、仲良くなって、左胸3秒触らせて!
・・・そんなこと俺に出来るのか?無理じゃない?いや、やるしかない!
まずは人里を探すことにした。
このままでは死んでしまう。
太陽から判断すると、南は山がつらなっているようだ、どっちに行くかな。
西がいい気がする。行ってみよう。
割と平坦な土地で、木々はうっそうと茂っているが、下草はそんなになく、歩きやすかった。
木漏れ日の森を1時間ほど進んだところで弁当を食べることにした。
お腹は減っているが、後々のことを考え半分残した。
また西へ1時間ほど進んでいくと、何か実がなっている木があった。
リンゴか、4月だぞ、この気候は!
実を1個とって食べてみた。それほど甘くはないが、充分おいしい。
おいしそうな実を20個取って、リュックに放り込んだ。
代わりに教科書を捨てた。
この場所、覚えておけるかな?
さらに1時間ほど進んだ。
太陽の進み具体は日本の時間と変わりがないようだ。
そろそろ寝る場所を探さないと。安全な場所ってどこだ?
何かがこちらに走ってくる感じだ、それも複数。どうする?
木の陰から覗いてみた。
女の子が逃げていた!友道結菜だ!
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