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最期の日

 ほどなくして、第二子である拓海たくみが産まれた。

 和馬はみちるに似ていたけれど、拓海はどちらかといえば俺に似ていた。

 「ほら和馬、弟の拓海よ」

 「たくみー!こんにちは、よろしくな!」

 俺とみちると和馬。みんなで拓海の誕生を楽しみにしていた。

 けれど四人でいられた時間は本当にわずかだった。

 

 「和馬、明日遠足だろ? お弁当は俺が作るよ」

 「いいの?ありがとう」

 「和馬、お弁当何が食べたい?」

 「んー。からあげと、コロッケ」

 「わかった。じゃあ明日は俺が作ってやるからな」

 「パパ、大丈夫なの?」

 「大丈夫だ!任せておけ」

 拓海はまだ二カ月で、みちるはよく眠れず疲れていた。

 俺は少しでもみちるを助けるために、残業は断り早めに帰るようにしていた。

 

 だけど。ずっと続くと思っていた幸せもここで終わりだった。


 遠足の当日、俺は午前中から会議でずっと携帯を置いたまま会議室に籠っていた。

 「失礼します! 松田さん、ちょっと…」

 血相を変えて飛び込んできた後輩の様子に、何も聞かずに席を立った。

 なんだか、嫌な予感がした。

 「さっき奥様から連絡があって、息子さんが事故にあったみたいで」

 「え・・・」

 「すごく取り乱していて詳しくは聞けなかったんですが、病院に運ばれたようなのでこのまま向かってください。みなさんには僕から説明しておきますので」

 「…わかった。ありがとう」

 頭から血が引いていくのがわかった。

 とりあえず携帯とカバンだけ持って、そのままタクシーに乗った。

 病院まではかなり距離があったけれど、とても電車に乗れるような状態じゃなかった。

 

 息子って和馬か? それとも拓海?

 二人とも事故にあったのか?

 みちるは?電話をかけてきたということは、無事なのか?


 どうしよう…。震える手を組んで、祈るように額にあてた。

 何もできない。どうすればいいかわからない。みちるに電話をかけても繋がらなかった。

 何も情報もない中で病院に到着して、俺はそのままICUに通された。

 「友也!! 友也、和馬が・・・」

 和馬はかろうじて、息をしているだけの状態だった。

 「よ、幼稚園の遠足で…、河原の側を通った時……、か、和馬が知らない人に連れていかれて、そのまま川に…。せ、せんせいがすぐに助けようとしたけど殴られたりしたみたいで…、救出が遅れて…」

 唇を震わせながら、うつろな目でみちるが話始めた。

 俺のスーツを掴んで、やっと立っている状態で。

 「みずを、たくさん飲んでて…。息をしてなくて……。頭も、ぶつけてて」

 

 その後、医師からも説明があったけれどよく覚えていない。

 ただ、覚悟はしておくようにと。


 そしてその言葉通り、和馬は次の日に息を引き取った。

 まだ、5歳だった。

 

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