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みちると和馬

 和馬が産まれてから、慌ただしい日々が始まった。

 数時間おきの授乳はみちるを酷く疲弊させ、笑顔が消える日もあった。

 「お帰り、友也」

 「大丈夫? 少し寝てきなよ、和馬の世話は俺がやるから」

 「いいの?ありがとう」

 「好きなだけ寝ておいで。ご飯買ってきたから起きたら食べよう」

 「うん、ありがとう。じゃあ、おやすみ」

 なるべく早く帰るようにはしていたけれど、昼も夜も和馬の世話でみちるは疲れ切っていた。

 夜間も交代することを申し出たけれど、みちるは頑なに首を縦に振らなかった。

 たとえ次の日が休みでも、夜間は自分でやると決めていたみたいだ。

 「和馬、ただいま。お父さんだよ」

 俺が見ているときは寝てる時が多かったけれど、夕方は特によく泣くとみちるが言っていた。

 育児は想像以上に大変で、可愛さよりも苦労の方が勝っていた。

 でもそれも半年ほどで、夜にまとめて寝るようになってからは可愛さだけが残った。

 「おかえり、友也!ご飯できてるよ」

 「ありがとう。毎日作らなくてもいいから。作れないときは何か買ってくるから」

 「わかってるよ。でも大丈夫だから」

 みちるにも笑顔が戻り、みちるによく似た和馬もたくさんの笑顔を見せてくれるようになった。

 「和馬、少し大きくなったね。また洋服買いに行こうか」

 「そうだね。なんかすぐ小さくなっちゃうね」

 「もし良かったらみちるが一人で行ってきてもいいよ。俺が和馬見てるから、気分転換に一人で出かけてきたら?」

 「うーん…。それは嬉しいけど、三人で行きたいかな」

 「そうなの?」

 「うん。一人よりも、二人よりも、三人がいい」

 「じゃあ、みんなで一緒にいこうか」

 「うん!」

 夫婦二人だった時は、いつも一緒にいたわけじゃない。一人で出かける時もあったし、二人で出かける時もあった。けれど和馬が産まれてからは、みちるは三人で出かけることを選ぶようになった。

 

 和馬と友也がいて嬉しい。いつもそう言って笑っていた。


 和馬はみちるとよく似ていた。目元口元、笑った顔もみちるにそっくりだった。

 言葉を話し始めるようになると、一緒にいるせいか、遺伝のせいか、口調まで似るようになった。

 「なんか和馬、みちるそっくりだな」

 「それ幼稚園のママ友にもよく言われる」

 「だろうね」

 和馬は少しだけ他の子より大きくて、活発で、頭はそんなに良くないけどお喋りでよく笑う子だった。幼稚園に入るようになるとみちるにも余裕が出てきて、再就職の話も出るようになった。

 だけど俺は、できればもう一人子供が欲しかった。

 「みちる、仕事したい?」

 「まあ、時間もあるし。ちょっとブランクあるけどしたいかな」

 「子供は?」

 「和馬? 和馬は大丈夫だよ」

 「そうじゃなくて、もう一人。俺はできればもう一人欲しい」

 あの時のみちるの驚いた顔が忘れられない。

 「そんな風に思っていたの?」

 「なんで?変?」

 「変じゃないけど…。子供は一人でいいのかと思ってた」

 「みちるは?」

 「本当は、もう一人欲しかった」

 なんだ。もっと早く言えば良かった。そう言ってみちるは泣いた。

 俺ももう少し早く、切り出せばよかった。

 「友也、ありがとう。私、友也と結婚して本当に良かった」

 「俺のほうこそ、ありがとう」

 

 

 抱きしめて涙をぬぐったら、みちるはまた笑った。


 みちる、和馬を産んでくれたありがとう。

 幸せな毎日をありがとう。

 

 みちる…


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