ワンマンライブ
『相変わらず下手くそね。君はおっちょこちょいだからね。』
不器用な僕を見兼ねていつも弦を張り直してくれる先輩。彼女に近づきたくてギターを初めた。彼女は年齢が2つ上の大学4回生。不純な気持ちだけど先輩と初めて合って直ぐ様、恋に落ちた。先輩に誉められたくて難しいコードを覚えるのも苦ではなかった。
あれから10年。僕は必死に練習してプロになった。初のワンマンライブ。1万人は入るであろう大きなホールに先輩を招待した。
僕が張った弦の音色を先輩に聴いて欲しい。先輩に教わったのは弦の張り方だけじゃ無い。誰かに想いを伝える大切さを何より教わった。だからこの想い先輩に伝えたい。
満員になった会場は僕のファンで埋め尽くされていた。先輩の席は最前列のど真ん中を用意した。もうすぐLIVEが始まるのに先輩の席は埋まらない。
LIVE中盤))先輩の席は埋まらない。
LIVE終盤))先輩の席は埋まらない。
満員の会場で見つめる先輩の席だけが空席だった。
LIVEが終わりスマホを見ると何十件もの着信が残っていた。『いい音色だったね』先輩からLINEも送られていた。
僕は慌てて控え室の外に先輩を探しに飛び出した。きっと何処かで僕の演奏を聴いてくれてたんだ。僕は嬉しくなって更にスピードを上げた。会場出口に先輩は体育座りで蹲っていた。
声を掛けた瞬間、そこにはいつもと違う、いや明らかに怒ってる彼女がいた。
『人を誘っといてチケット送らないなんてどうゆう神経?チケット買おうにも完売だし、ずーっと外で音漏れ聴かされてたんだから!おっちょこちょいにも程がある。」
僕は先輩に想いを伝え急ぐばかり、チケットを送り忘れていた。
『家帰ったら私の為にワンマンやってよね。』
『はい」
そこにはいつもの優しい先輩がいた。