表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/19

蓼食う虫も好き好き

 あの大会の日から、なんとなくローランドの様子がおかしい。


 最近、よくカフェでのお昼に誘われる。前日に約束させられるので、用事もないのに断るのも難しい。


「約束通り、優勝賞金がなくなるまで、おごってやるよ」


 ローランドはそう言うけれど、特別クラスの優等生という立場からすれば、殿下の側にいるべきだ。今までいつもそうだったんだから、急に別行動になるのはおかしい。


 絶対にあれから殿下と何かあったんだ。カイルならきっと何か知っているはず。


 私はなんとかカイルと連絡を取ろうとした。


  ローランドの手前、男子棟の騎士科を訪ねるわけにはいかないし、カイルは部活動には参加していない。

  カイルのいるところにはローランドもいるし、いないときは私のところにローランドがいる。


 私はアレク先輩に一縷の望みを賭けた。


 先輩に伝言を頼むのは気が引けるが、他にツテはない。申し訳ないけれど、またお弁当のお礼で手を打ってもらおう。


 そして今日は快晴だ。ヘザーに一人でカフェの行ってもらい、私は庭園の丘にアレク先輩がいることを祈った。


「やあ!久しぶりだね。どうしてたの?」


 やった!アレク先輩がいた!ラッキー!


「先輩!一生のお願いがあるんです!お弁当を十日分で、なんとか聞いてもらえませんか?手作りお菓子もつけますから!」


 会ったそうそうに拝み倒す勢いの私に、アレク先輩はきちんと事情を説明するように諭した。

 だから私は、同性愛の部分だけを外して、かいつまんだ事情を話したのだった。


「つまり、殿下とローランドが仲違いしているようなので、カイルに会って詳しい話を聞きたい……ということだよね?」

「はい。カイルなら色々知っていると思うので。先輩も何か知ってますか?」


 アレク先輩はちょっと空を見るような仕草をしたが、すぐに私のほうを向いてハッキリと言った。


「あれは殿下が悪かったね。彼が間違えた。ローランドが怒るのは当然だよ」

「え?先輩も大会に来てたんですか?ごめんなさい、全然気が付かなかった」


  おかしいな。先輩みたいな超絶美形がいたら、周囲の状態で分かったはずなのに。どう考えても、女性に囲まれるでしょ。出会いのチャンス的に。


「いいよ。君はローランドの応援に行ったんだからね」

「一応、会場をぐるっと見回したんです。でも見つからなかったので、来てないのかと思って。先輩のところから、私たち見えました?」

「よく見える場所だったから」

「ああ!VIP席!そっか、殿下のお供だったんですね」

「まあ、そんなとこだね。試合もよく見えたよ」


 なるほど。さもありなん。VIP席なら見つけられなかったはずだ!


 それにしても、先輩、ちゃんと殿下お側ゲット作戦を頑張ってくれてるんだ。よしよし!いい傾向だ。


「あの、殿下はどうしてあんなことをしたんですか?」

「うーん。好きな子にいいところを見せたかったんじゃないかな?」

「ええっ!殿下には好いた方がいらっしゃるのですか?」

「…なんで、いきなり敬語?」


 あまりの衝撃にたまに被る猫がいきなり出現したのを、あっさりと先輩に指摘された。


「すみません。ちょっと興奮しちゃって。殿下と恋愛という組み合わせが、想定外だったと言うか。ちょっとショックが大きかったので」

「彼も普通に恋愛に興味あると思うけど。そうか、君は殿下が好きだったんだっけ」

「ち、違います!私が殿下を好きとか、滅相もないです!そりゃ、弓を射つ眼鏡男子、すごく素敵でしたよ?正直きゅんきゅんしましたけど、それは観賞用に愛でて惑うという感じで!」

「観賞用に、愛でて惑う……」


 まずい。墓穴を掘ったか?いやいや、でも誤解は解いておかないと!

 アレク先輩は天然な善人なので、うっかり『殿下との仲を取り持ってあげよう』とか考えられたら大変だ!


「とにかく!カイルにローランドが殿下と仲直りできるように、協力してもらいたいんです!」

「それは分かったけど、なんでカイルなの?僕…じゃなくても、それこそ殿下本人に言えば…… 」


 はい?アレク先輩はいいとしても、殿下に直訴は無理でしょ?貴族最下位の男爵家令嬢が、どうやって王族に話しかけろと?


 やはり先輩は天然だ。ちょっと常識がズレてる感がある。いや、逆にストレートすぎるのか?純粋すぎる……。


「いやいやいや。ローランドはカイルじゃないとダメなんです。カイルならなんとかしてくれるから!」

「ふうん。いやにカイルの評価が高いね。気になるなあ。その信頼の理由を教えてくれたら、カイルを呼び出してあげるよ」


 ひ、卑怯!アレク先輩、めっちゃ意地悪です!


 うううううう。ど、どうしよう。えーと、カイルの気持ちは言えないけど、ローランドの気持ちに関しては口止めされてない……よね?つまり、そっち側からなら話してもいいってことだ。


「あの、絶対に秘密にしてくれますか?ローランドは……」


 カイルのことを愛していて、すぐにでも同性婚を望んでるんです!


 私がそう言うと、先輩はしばらく固まって、それから頭をかかえてしまった。


 どうしよう、やっぱり先輩は後ろ向きなタイプだったんだ。


  そりゃそうだよね。婚約者との子作りのために、閨教育に励まれているくらいだし、男同士っていうのはやっぱり無理だよね。


「先輩、気持ちは分かります。でも、約束は約束ですよ。カイルを呼び出してくれますね?」

「…うん。約束は守る。でも、その話は人にはしないほうがいいよ。それは誤解だと思うし、君もそのことは忘れたらどうかな。ローランドにはそういう趣味はないよ」


 これだからおぼっちゃまは! 世間はLGBTに敏感なんですよ。きちんと理解しておかないと、差別になるんです! 訴えられちゃうんです!


「先輩、人の嗜好はいろいろなんですよ。自分と違うものも受けれないと!」

「いや、そうじゃないんだけど……。ああ、まあ、そうだね。しかし、ローランドも大変だな。さすがに気の毒になってきた……」

「でしょ?せめて私たちが応援してあげないと!先輩も知らないフリをしながら、こっそり応援してあげてくださいね」


 私がそうお願いすると、先輩はまだ往生際悪く、ふーっと大きなため息をついた。


 そうして、私はカイルへの伝言を先輩に託すのに成功した。


 話が話なので、人目がないところがいい。放課後に薬草栽培用の温室に呼び出すことにした。ちょうどお弁当用のハーブを分けて貰いたかったし、一石二鳥だ。


 温室は薬草園の外れにあって、あまり訪れる人はいない。薬剤調合用の薬草が必要な授業は後期からだ。今はたまに庭師さんが見回る程度で、園芸部が朝に水やりをしている。

 私はときどき、ここで調理用の珍しいハーブを分けてもらってるのだ。


 私が温室に入ると、カイルはすでに中にいた。授業が終わってすぐに来たのに、足の長さの違いだろうか。カイル、速っ!


「カイル!待たせてごめん」

「こんな場所に一人で来るなんて、何考えてるんだ!」


 私を見ると、カイルはいきなり目を三角にして怒った。カイル、怖っ!


「学園内は安全だよ……」

「学園の人間は大丈夫でも、外部からの侵入者がいたら?最近は国全体の治安が悪い。危機管理は重要だろ!」


 北方情勢が微妙なのは知っている。でも、そこまで? 侵入者ってことは、学園を守っている結界が破られる可能性があるってことなの? そんなの高位の魔術師じゃないと無理なのに。


「ごめん。どうしてもカイルと二人っきりで会いたかったから」

「……なんだよ、それ。紛らわしい言い方しないでくれ」


 うん? どんな言い方した? なんでカイル赤くなってるわけ?


 いや、今はそんなことに構ってられない。まずは本題に入らないと。


「とにかく、話を聞いて! ローランドのことなの。弓道大会の一件で殿下と険悪になってる。知ってるよね? 」

「......それは殿下が何とかするって」

「ホント? もう殿下にお願いしてくれたの? ありがとう!」


 なんて素早い行動! カイル、偉っ!


「俺じゃないよ」

「じゃあ、アレク先輩が? 先輩、 殿下と話すんだ?」

「……まあ。あんた、あいつとどういう関係なんだ?」


 は? どういう関係って、わざわざ申告するほどの関係じゃないけど……。


「えーと、ランチ友? たまに庭園で一緒にお昼食べてるの」

「……いつの間に。たまにあいつが消えるのはそういうことか」

「うん。いい人だよね、先輩」

「……いい人……」

「天然だけどね」

「……天然……」


 カイルは眉根にシワを寄せて、なにか真剣に考え込んでしまった。カイルはアレク先輩と、あまり接点がないのかもしれない。


 そう言えば、アレク先輩は殿下やカイルたちの集団にはいなかった。別のグループなんだな。それか一匹狼……じゃないよね、やっぱ。飼い犬だもん。


「ごめん。アレク先輩が殿下に言ってくれるって知ってたら、カイルを呼び出したりしなかったのに」

「いや、それはいいんだ。……別の話があったから」


 え、改まってなんだろ。あ、恋バナ? 恋バナかな? それなら喜んで相談に乗るよ。私、偏見とかないから! 二人の味方だから!


「なあに? なんでも言って!」

「ローランドが、俺を、その、パートナーにしたいって話なんだけど」


 ぎゃああああああ!


 アレク先輩の嘘つき! 絶対に秘密って言ったのに、あっさり約束破ってる! ひどいっ! 


 これはもう、素直に謝るしかない。


「ご、ごめんなさいっ! でも、カイルの気持ちは言ってないから! ローランドの片思いってことになってるから! 」

「僕の気持ちって……」

「約束通り、ちゃんと忘れたから! 私はローランドとカイルの幸せを影ながら見守ってるから!」

「……なるほど、そういうことだったのか」


 涙目で訴える私に、カイルは長い長いため息をついた。そして、なぜか急に笑いだした。


 どうしよう。カイルが壊れちゃった。私がアレク先輩に秘密をバラしたせいで?


 オロオロする私の前で、カイルはひとしきり笑った。


 そして、しばらくしてから、すごくすごく言いにくそうに私に報告してくれたのだった。


「……俺たちはもう別れたから」


 えええええええええ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ