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三人の運命の男?

「おやおや。お前さんには三人の運命の男がおるようじゃよ?」


 占い師のおばあさんは、水晶玉を覗き込みながら、ニコニコとそう言った。はい?はい?はい?なんで運命の男性が三人もいるんですか?


「え、それって、私、まさか三回結婚するんですか?」


 ということは、最初と二回目の結婚は失敗するってこと?失敗する結婚をしないと三回目の結婚ができないって……なんてことだ!花の乙女17歳に、そんな運命とか過酷すぎるんですけど!


「えー、違うでしょ。ミツマタなんじゃない?」


 後ろで聞いていた親友のヘザーがヒョイと首を出していった。はい?はい?はい?三人の男と同時進行?なんで私がそんなビッチな設定に?ない!ない!ないでしょ!


「おばあさん!それ、どういうことなんですか?もっと詳しく教えてください!」


 私が必死にお願いすると、おばあさんはニコニコしたまま、水晶玉をくるりと撫でた。


「うむ。お前さんには、結ばれるべき男性が三人おるんじゃよ。誰を選んでもいいが、誰か一人を選ばにゃならん。そういう宿命の乙女じゃ」


 その答えを聞いて、私は胸をなでおろした。意外と普通の運命じゃないか!


「なーんだ。おばあさん、脅かさないでよ。つまり、最終的には一人の男性と結ばれるってことよね?よかったぁ!」


 とにかく三人の男性がいて、そのうちの一人が運命の相手ってことだ!よかった。至極まともな運命だ。これなら大丈夫。


「クララ、あんた、なに喜んでるのよ。男なんて星の数ほどいるのに、三人からしかモテないって言われたのよ!そこは落ち込むところでしょ」


 そりゃ、美人で才女のヘザーは、星の数ほどの男の中からヨリドリミドリでしょうよ。こちらは、しがない貧乏男爵令嬢。三人から好かれるだけでも夢のような話だし、実際問題として、大事なのはたった一人の愛する人から愛されるってことでしょう?


「別にモテなくてもいいもん。好きになった人から好きになってもらえれば!」


 初恋もまだな夢見る乙女としては、初恋の人と両思いになって、そのままゴールインというのが理想。べつにモテモテ路線を行きたいわけではない。


「はー? クララ、あんた、占い師さんの話、ちゃんと聞いてた?あんたが好きな人が、その三人じゃなかったらどーすんのよ?そうだったら、結構ヘビーな運命だと思うけど?」


 え?なに?なに?まさか、まさか、そういう意味なの?


「うそっ!じゃ、『この三人の内の誰かと結婚してもらう!』ってな政略のこと?まさか、お父様に多額の借金があるとか、これから犯罪に巻き込まれて保釈金が必要になるとか、そんなやばい運命?」


 私が半泣きでそう言うと、おばあさんは目を丸くして、くっくっと笑った。


「面白いお嬢さんたちだのう。心配しなさんな。そういうもんじゃない。恋に落ちるべき相手が三人おるということじゃよ。お前さんはそのうちの一人を選ぶことになる」

「ふーん。なんか安易な運命ね。それで、おばあさん、その三人はビッフェ?それともコース?どんな風にクララの前に現れるんですか?」


 おばあさんの返答を聞いて、ヘザーがすかさずトンデモナイ質問をした。つまり、食べ放題のように同時に皿の上に盛って食すのか、コース料理のように一皿ずつ食べるのか……という話。なんとなく卑猥な意味に聞こえるのは、私の勘違いじゃないと思う。


「ほうほう。そりゃ『びゅっふぇ』だろのお。ちょいと味見はできるが、一皿食べきって次を食べるっちゅうのは、なかなかのツワモノじゃなきゃ無理だろが。特にこのお嬢さんには難しかろう」


 おばあさん!ヘザーの下世話な質問に、そんなにちゃんと返答なくていいですから!


「……おばあさん、もういいです。とにかく、私は三人の男性に巡り合って、その中の一人と恋に落ちる。そういう、単純な理解でいいってことですよね?」

「ま、そうじゃな。つまりはそういうことじゃ」

「あー、よかった。それなら、幸せな運命ですよね!」


 私がにっこり笑ってそういうと、おばあさんは少しだけ表情を曇らせた。え?なに?なに?なんなの?実はその先には悲恋が待っているとかなわけ?


「まあ、そうじゃの。一人を選べばの。その後はまあ簡単じゃ。しかし、選ぶのがのう」

「あー、そっか!誰と結ばれてもいいわけだから、三人を同時に好きになっちゃう運命なんだ?うわあ、やっぱりビッチ参上?」


 ヘザーは本当に余計なことしか言わない!もう黙ってほしい。どーせ、面白がっているだけのくせに。


「……まあ、そうなるかのう。好いた男を捨てるっちゅうのは、なかなかしんどいぞ。しかも、捨てた男らの執心が一生続くとなりゃ、こっちの罪悪感も半端ないじゃろ」


 え?なんですか、それ。すごく不穏な感じなんですけど!そんな大げさなことになるの?


「あの、それはどういうことですか?結ばれなかった二人は、ど、どうなっちゃうんですか?まさか、死んじゃったり、出家しちゃったりするわけじゃないですよね?」


 ちょっと、それはやばい。他人の人生をそこまで破壊するとか、なんでこの私が?傾国の美女ならいざ知らず、ただの平均的な下級貴族の令嬢の私が?


「うわー、ドロドロ設定?ねえ、ストーカーとか刃物沙汰とかだったら、今のうちに予告してもらっておくべきだよ!予防と対策のために」


 ヘザーよ、君は本当に私の親友か?ここまでくると、おばあさんも怒ると思うよ!おちょくるのも大概にしてちょうだい!


「ふーむ。まあ、そこまで警戒せずともええ。だれも死んだりせんよ。未来を知りすぎてもいいことはないしの。ことは自然に流れていくもんさ。運命の理じゃな。だが、お前さんは稀有な宿命を持っておるし、困ったことがあれば、また相談に来んさい。話くらいは聞いてやるぞ」

「うん。ありがとう、おばあさん。また来るね」


 規定の料金を払うと、私たちはお礼を言って『占いの館』を後にした。今、女子の間で当たると評判の占い師がいるところ。そういう触れ込みだったので、明日、高等教育機関である学園に入学する前に、私たちは恋愛について占ってもらいに来たのだ。


「魔法に比べれば、占いなんて非現実的だけど、でも結構楽しめたね?」


 魔力があるヘザーにしてみればそうかもしれないけれど、魔力なんてまったくない私には、どちらもなんだか別世界の話なんだけどね。


「うん。ヘザーはなんて言われたの?」


 明日から二年間の学園生活が、貴族の教育の最終段階となる。これまでは家庭でおのおの学習していたものたちが、一箇所に集められてその能力を競う……というのは建前で、成人する前の社交場というかコネ作りの場なのだ。そして、もちろん男女の出会いの場でもあるので、婚約者のいないものはここで恋人を得て婚約するということが多い。決まった相手のいない私たちは、学園で素敵な出会いがあるのか興味津々で、それを占ってもらいに出向いたのだった。


「私が愛する人は一人で、結ばれても結ばれなくても、その人だけを愛するって。すごく一途に聞こえるけど、なんていうか、少女趣味よね。幸せなんていくらでもあるのに」


 ヘザーはそう言うけど、なんとなくそれは彼女っぽい。彼女は簡単に恋に落ちたりしないけど、たぶん恋をしたら一途だと思う。それはその性格からも行動からも分かる。


「そっか。私たち、とにかく誰かを好きになるんだね」

「まあね。でも占いの話だから!当たるも八卦当たらぬも八卦よ!」


 私たちは二人でそうだねえと笑った。占いは占い。別に予言じゃないし。でも、これからの学園生活にちょっとした恋の予感は嬉しい。素敵な恋をしてみたいのが、乙女の夢だもの!


「私、ちょっと図書館に寄ってから帰るけど、クララどうする?」

「うーん。私はもういいわ。このまま寮に戻るよ」

「一人で大丈夫?待っててくれたら、一緒に帰るけど」


 ヘザーは勉強家なので、図書館に入ったら最後、最低でも二時間は出てこない。お腹もすいたし、ちょっと買い食いしながらゆっくり帰るほうがいい。今日は変装しているので、私たちはその辺の町娘に見えるし、まだ王都に知り合いもいない。さっきから美味しそうな屋台をいっぱい見たし、買い食いは地元で慣れているし、問題なし!


「大丈夫よ!道も覚えてるし、のんびり帰るわ」


 私たちはその場で別れて、反対方向へと歩き出した。


 今思えば、このときのこの行動も、つまりは私の運命の一部だったのだ。なぜなら、そのすぐ後に、私は巡り合ってしまうのだ。後に「運命の人」だと分かる、とても素敵な男性に!


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