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誰かに己の人生とは、と訊かれれば多分、こう答えるだろう。幸と不幸の繰り返しだ、と。
幸せ、と言っても普遍的な幸福だ。素敵な人と出会った、今まで無償で行っていたことへの恩返しが来た、思ってもいなかった唐突のプレゼント、そういった幸せとは異なる。ここで提示している幸せは、つまらないな、どうしてうまくいかないんだろう、めんどくさいな、何してんだろう、死にたい、そう思うことなく過ごせている状態だ。だから仮に、空き巣に入られて金品を盗まれたり、コンビニの駐車場で当て逃げされたり、学校でいじめられていたとしても、当人が、最悪、疲れた、死にたい、そう思わなければ幸福ではあるのだ。
要するに、幸と不幸を分ける境界線は、負の感情を抱いたかどうかということになる。あくまで基準は負の感情で、自分の幸福を満たしてくれる感情ではないのだ。
普通の人間なら、嬉しい、という感情を起点に幸か不幸かを判断するだろう。
自分は変わってしまったのだ。別れた理由は、キミが変わってしまったから。忘れられない理由は、あの頃のキミが好きだったから。
ああ、できることならあの頃の自分に戻りたい。どこかの有能な科学者が、タイムリープできる装置でも作ってくれないかなと他力本願。
もっと真っ当で才能のある人間に生まれ変わりたいと思うことはあっても、あの頃の性格の自分に戻りたいと思うことは少ないのではないか。
だとしても、戻れない。タイムリープは時をかける少女の世界なら洋服と同じくらい身近なものだが、現代では現実味がない。
過去に戻れないのか、と嘆いた。
もういっそのこと時間を早送りにして、人生に終局を与えてしまいたい。二本目の煙草を吸い終えると、ベランダから室内へと戻った。