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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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95 不穏な気配

 午前中は四班が見回り担当になった。三班は待機である。待機組は緊急事態に対応したり、炊き出しの手伝いと警備をしたり、報告書をまとめたり、入ってくる情報から色々考えたりが仕事だ。とは言っても、それらがなければ暇なのだ。既にキョウは奥から引っ張り出してきた机に伏している。


「キョウ、だらしないよ」

「でもよ、ずっと緊張してたって疲れるだけじゃん。気楽にいこうぜ」


 キョウの言葉はもっともである。無駄に気を張って、もしもの時に疲れてしまっていたら本末転倒だ。アルカは肩から力を抜いた。


「アケミさんは何をしているのですか?」

「わたしは静香の足取りを振り返っているのよ。ミスフィットに入ってから情報が一切ないもの。すこしでも手掛かりになればって思って」


 静香は相変わらず行方知れずだ。ミスフィットまでは足取りを追えたが、そこから進展はない。アルカでさえ焦燥を感じるというのだから、チームの相方として過ごしていたアケミは尚更、そう思うだろう。


「やっぱりミスフィットに強襲をかけるしかなさそうね」

「ちゃんと証拠を見つけて、内偵をしてからにしてください。でないと被害が出ます」


 アケミが短絡的な結論に至る。

 アルカはそこに隠れた焦りを感じ取り、理論的にアケミを諫めた。オオサカ派遣で内偵を進めたのにもかかわらず、それでも未知の要素が存在し、死にかけたのだから、アケミの無謀ともいえる考えは受け入れられなかった。

 報告書でアルカとキョウが生命の危機に瀕した事を知っているアケミは、何も言えずに悔しそうに下唇を噛む。


「班長が神意教と組んでまで第三区画の治安維持を決断したのは、不自然にならないように三班を送り込んで情報を集めるためです。私達以外にも多くの目があれば、情報は必然的に集まります。今はまだ動いちゃ駄目です」

「……アルカはよく見て、よく考えているのね。わたしも見習いたいわ」


 アケミはアルカの言葉を脳内で反芻して、納得したように呟き、目を瞑る。再び目を開いた時には、その目に焦燥はなかった。

 その後は落ち着いたアケミと共に静香の動向を振り返る。そして、静香がアルカに対して凶行に出た理由を考えた。


「班長の言っていた通り、嫉妬心だけなのでしょうか?」

「そう思うわ。才能と努力を両立したアルカに対して嫉妬をするのは当然だもの。静香は特異技能に関しては天才で、上を知らなかったのですもの」


 アケミはそう言うが、アルカは何処か釈然としない気持ちだった。そこに、別の回答をもたらしたのはキョウである。


「嫉妬もあるだろうけど、自分の不甲斐なさを自覚してないように見えたぞ。アルカに八つ当たりしてただけだろ」


 静香は自身の無力さからくる自覚無き激情を嫉妬心に昇華させていた、とキョウは見ているらしい。

 アルカは何となくだがキョウの言葉が正しいように感じた。キョウの感性は馬鹿にできないからこそ、断言した時は本質に近いものになる事を知っているから。


「そうだとしたら、その感情を静香に自覚させなければならないわね……。嫉妬心なら嫉妬の対象から離すべきだと思ったけれど、アルカと自身を無意識に比べていたのなら、アルカとキョウの訓練をきっちり見せるべきだったわ」


 アケミは後悔の念に苛まされる。一番近くにいたのに、ほとんど関わってこなかったキョウのほうが、静香の事をよく見ているのだから。後悔してもしきれない。


「後悔してもどうしようもないです。今の私達に出来ることは静香さんを取り戻すこと、そして、立ち直らせることです」


 トラウマによって過去に縛られていたアルカの言葉は、誰よりも実感がこもっている。

 アケミはアルカのトラウマ関連の事を知らないが、オオサカ派遣から戻ってきたアルカの雰囲気が変わっていた事には気が付いていた。

 静香の話をしていると、玄関に複数の気配が来た。


「すいません、班員の方はいらっしゃいますか?」


 その声には聞き覚えがあった。ハイディ・クレセントだ。ハイディはアルカ達の姿を見ると顔を綻ばせた。


「三班の誰かと思えば、アケミじゃん。それにアルカとキョウもいるし」

「ハイディが派遣された隊員?」

「そうよ。よろしくね」


 隊員達は安全を考慮して四人一組での見回りとなる。頻度も見回りに比重が置かれ、仮設駐屯地に派遣される人数も多い。各仮設駐屯地に十六人ずつ派遣される予定だ。


「四班と合同って聞いたけど?」

「四班は見回りに行ったわ。午後からは三班が見回りに行く予定よ」

「はいよ」


 ハイディはアケミと親し気に話しているが、後ろに控えている隊員達は硬い表情をしている。ちらちらとアルカに視線がいくのは、四班の言っていた噂が原因だろうか。


「とりあえず、皆さんに見回り範囲の説明をしますね。中に入ってください」

「あら? アルカが取り仕切るの?」

「そうよ。わたしは監督役」

「そうなの。頑張ってね。小さな指揮官さん」


 ハイディはお茶目にウインクしてから奥に歩いて行く。ハイディが気安く話しかけることで少しだけ緊張感が緩んだ隊員を、アルカは奥に招き入れた。その中にチェリンカ・ハミットもいて、小さく手を振っていた。

 全員を集め、アルカは見回り範囲の説明をした。隊員達は真面目な顔でメモや、地図を開いて確認していた。


「最後に注意事項ですが、今回の見回り範囲より外側は神意教の管理外です。神意教からも情報がほとんど無いので、どのような危険が存在するは分かりません。なので、範囲外に出ない事を心がけてください」


 加えて、はぐれ死神がいる可能性も伝えると、隊員達は揃って息を呑んだ。アルカ達班員からするとそこまで脅威に感じないが、隊員にとっては同格の死神なので要注意なのだ。


「メンバー分けはこっちでやっていい?」

「はい。お願いします」


 ハイディはアルカから許可を取ると、すぐにメンバーを分ける。それはすぐに終わり、二つのグループは見回りに出て行った。ハイディとチェリンカは待機組だ。


「隊員のグループを一つ残して、私達は炊き出しに向かいます」


 時刻は十時前。炊き出しは十時と十七時の二回だ。一日に三回炊き出しをすると、食材が足りなくなるし、作業をする人の負担も大きくなる、とエドモント神官は言っていた。

 アルカ達は神意教の教会に向かう。多くの視線がアルカ達に集中し、隊員達はかなり警戒している様子だ。

 すると、そこにタルディ神官がやって来る。


「おはようございます。後ろの方々は初めまして。タルディと申します。死神の皆様には居心地が悪いかもしれませんが、どうかご容赦を」


 丁寧にお辞儀をするタルディ神官に、隊員達は自己紹介で返す。

 アルカはその様子をドキドキしながら見守っていたが、特に問題なく終わった。


「機動隊の方々には炊き出しの警備をお願いします。近頃、治安悪化で順番を守らない者や、他者の食事を奪う者が増えました。それらの取り締まりをしてください。咎人の処置は機動隊に一任したします」


 神意教の総本山である教会の目の前で、機動隊のルールに則って警備をして良い、とは中々に豪胆である。

 実際のところは、神意教が機動隊に譲歩して、歩み寄りを見せているのだ。ここで機動隊が下手に高圧的な振る舞いをすれば、機動隊の名誉に傷がつく。この条件を考えたであろうヴィクターとエドモント神官は似た者同士なのだろう。


「わかりました。タルディ神官」

「私は炊き出し班本部にいますので、何かあったらそちらまでお願いします。それでは」


 タルディ神官は炊き出しをしているテントの方向に向かって去っていく。あそこが炊き出し班本部なのだろう。

 アルカは隊員達に振り返って指示を飛ばす。その指示に従ってルール違反がいないか目を光らせ始めた。


「私達はばらけましょう。戦闘ではありませんし、これだけ近ければ、何かあってもすぐに駆けつける事が出来ますから」

「問題ないわね。この状況ならわたしも同じ判断をするわ」


 アケミに合格点を貰い、三人はそれぞれ動き始める。

 それから少し時間を置いて炊き出しが始まった。綺麗に四列に並ぶ人達を横目に見回りをしているが、全くと言っていいほど問題は起きていない。このまま何事もなく終わればいいと思っていた矢先、俄かに行列の一部が騒がしくなった。


「うわーっ! 助けてくれー!」

「いきなりどうしやがった、コイツ!?」

「オイ、やめろ!」


 そんな声が聞こえ、アルカはすぐさま駆けつけると、そこには地面に倒れ必死に抵抗している男性と、その腕に噛みついている女性がいた。その女性を男性が数人がかりで引きはがそうとしているが、離れる様子はない。

 アルカは女性を強引に引きはがそうと近づくと、女性は突如として顔を跳ね上げ、アルカに掴みかかろうとした。アルカは自身に伸ばされた腕を掴み、素早く捻りあげて女性の背後に回り込む。それだけで女性は獣のような悲鳴を上げて膝をついた。


「状況を説明してくださいますか?」


 年端も行かない少女が、女性とはいえ大人を簡単に力でねじ伏せてしまう様子に、周囲の人々は沈黙して恐怖の眼差しをアルカに向けのみだった。

 しかし、そんな沈黙を破ったのは、噛まれた腕を治療していた男性だった。ハンカチを傷口に縛り止血した彼は口を開いた。


「助けてくれて、ありがとう」

「いえ、これくらいは普通です」

「おい、そいつは死神だぞ」

「助けられたのは事実だ。恩を仇で返せ、と教えを受けた覚えはない」


 怪我をした男性はそう言ってからアルカに向き直った。そして、事件の起きた経緯を説明してくれた。

 怪我をした男性は襲ってきた女性と面識はなく、偶然横に並んだだけだった。並んだ当初は挨拶を無視されたので少し変わった雰囲気を感じたが、それ以上のことは無かった。だが、突然唸り声を上げたと思ったら、いきなり噛みつかれた。何を言っても意味を成さず、そこにアルカが現れたそうだ。


「面識も無いのにいきなり……。こういう事件はこれまでありましたか?」

「さぁ……。俺は知らないな。みんなはどうだ?」


 怪我をした男性は周囲に目を向けると、何人かが反応した。これまでに何度か似たような事件が発生している。その度に神意教の神官達が奔走しているらしい。事件が散見し始めたのが治安悪化の時期と被るという情報もあった。


「そうでしたか。ありがとうございます」

「あ、はい。どうも」

「怪我の方は大丈夫ですか?」

「後で診療所に行くので大丈夫です」


 ひとしきり情報収集をしたアルカは怪我をした男性を気遣うが、どれもそっけない態度を取られてしまう。助けはしたが、それでわだかまりが無くなるほど、機動隊と神意教の関係は簡単ではない。

 アルカは改めて只人との距離を感じ、少しでも関係を修復できるように頑張ろう、と心に決めるのだった。


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