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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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92 老兵の実力

「どうした? 向かって来んのか?」

「戦う気が無いのなら、棄権してもいいぞ?」

「このっ……!」

「キョウ、落ち着いて。こっちのペースを乱そうとしているだけだよ」


 龍造とソウゴは馬鹿にするような態度を取ってはいるが、その目に油断は一切無い。その態度そのものが作戦の一部なのだ。冷静さを失わせて思考を縛り、安易な行動を取るように仕向ける。歴戦の老兵に無駄は無い。


「ハッハッハッ、バレておったか。だが、攻撃しなければ勝てんぞ?」

「そもそもワシ等に勝てるわけ無いがな。ハッハッハッ」


 己の作戦が露見しても慌てない。寧ろ、更なる煽りと余裕を見せる。幾多の戦場を生き抜いた龍造とソウゴにとって、この程度のことでは精神に微かな揺らぎすら起きない。

 落ち着いたキョウと共に、アルカは専用武装を構えた。それを見て、龍造とソウゴは笑みを深める。


「キョウ、片方を潰すよ」

「おう」

「言ってくれるのう」

「面白い。やってみな」


 挑発するようにソウゴは指をクイッと曲げる。その挑発にアルカは敢えて乗った。

 アルカとキョウは揃って魔力を多く巡らせる。爆発的に上がった身体能力を生かして突貫を敢行する。

 アルカの振り下ろした刀がソウゴを狙う。ソウゴは突きによる攻撃で相殺しようと構えるが、龍造が横入りをした。


「儂を忘れておらんか?」

「来ると思ってました」

「何?」


 この二人は実力も一級品だが、それ以上に搦め手を多用する。だからこそ、ソウゴのピンチでもないのに龍造が入ってくるとアルカは予想していた。

 アルカは刀を起点にして腕力で上に跳ぶ。高くは飛べないが十分だ。


「ダラァァアアッ!」

「突っ込むつもりか!?」


 アルカの足元をキョウが猛スピードで駆けてゆく。大剣を盾のように構え、勢いを落とさない様子から龍造はその目的を悟った。

 片手はアルカの刀を防ぎ、ソウゴとは一直線に並んでいるために援護は望めない。残った剣で防いでも確実にダメージは入るはずだ。アルカはそう確信していたが、予想外の出来事で目を見開くことになる。


「ふいー、助かったわい」

「危なかったな、龍造? ワシがいなければ死んでいたぞ?」

「何を言っとる? あれくらい余裕じゃ」

「その割には焦っていたように見えたが?」

「引っかかったな、馬鹿め」

「何だと?」


 いつも通り言い合いを始めた龍造とソウゴを横目にアルカとキョウも合流する。

 しかし、普段と変わりない老兵二人と違い、必中を確信したアルカとキョウの動揺は大きい。


「どうなってんだよ。あれで回避できるとかありえねぇよ」

「たぶん、ソウゴさんの特異技能だよ。あの動きは」

「何か分かったのか?」


 キョウはアルカを見つめる。この摸擬戦の勝機を掴めるかどうかの瀬戸際だ。嫌でも期待してしまう。

 アルカは空中で見た光景を詳らかに伝えた。

 キョウがぶちかましをする直前、後方にいたソウゴが槍を側面に回し、地面に軽く突き刺した。そして、信じられないことが起きた。ソウゴの身体が浮き、龍造を横方向に引き上げたのだ。

 明らかに異常な現象で、実際に目撃したアルカですら目を疑った。しかし、現実に龍造とソウゴはキョウの攻撃を回避し、ピンピンしている。信じがたいが現実だ。


「意味が分かんねぇ」

「あの状態でバランスが取れるわけがない。でも、何となく分かってきたよ」


 異常な体勢から横方向に龍造を引き上げるという動作、そして、アルカが遠くに弾き飛ばされた時の違和感。それらを統合すると、朧気ながらソウゴの特異技能が見えてくる。


「たぶん引力とかを操れるんじゃないかな」

「……なんかスゲーな」

「槍を地面に突き刺していたから、何かに直接触れないと作用しないと思う。いきなり石とかが飛んでくることはなさそう」


 アルカはキョウと考えを共有し、特異技能の対策を考えながら専用武装を構えた。

 向こうもアルカとキョウに合わせて構える。


「口喧嘩でもすれば来ると思ったんじゃがな」

「目論見が外れたな。案外冷静のようだ」


 口喧嘩自体は本物だろう。だが、それでもアルカとキョウから意識を外すことは無かった。それを分かっていたからアルカとキョウは安易に切りかからず、情報共有を優先したのだ。


「仕切り直しじゃな。儂も少しは本気を出すとしようかのう」

「ハッハッハッ、それではワシも存分に動くとしよう」


 龍造とソウゴが駆けだす。年齢を感じさせない素早い動きの先にはアルカがいた。

 龍造の連撃をアルカがいなし、力強いソウゴの攻撃はキョウが受け止める。だが、少し時間が経つと純粋な技術の差で押され始めた。

 アルカの攻撃はものの見事に躱され、いなされた。アルカも負けじと龍造の攻撃を対処するが、見事なフェイントを織り交ぜた連撃を前に、次第に防御の比率が多くなる。


「やりにくい……!」

「ワシの特異技能を初見で捌けるだけでも誇ってよいぞ」


 キョウは奥歯を噛み締める。ソウゴの特異技能による妨害で、思うように戦えないのが原因だ。

 大剣と槍が触れると同時に、キョウはあらぬ方向に引っ張られる感覚を覚え、それが次の一手を僅かに遅らせる。その遅れのせいで大剣の速度が乗りきらず、インパクトの瞬間がいつもの感覚と差異を生じさせる。たったそれだけで、ソウゴはキョウ最大の武器である腕力を封じているのだ。

 キョウの大剣が大きく弾かれた。そして、その隙をついてアルカに突きが放たれる。

 アルカは身体を捻って躱すも、龍造の双剣を捌ききれずに生まれた空隙に蹴りを入れられた。


「くぅ……」

「咄嗟に魔力を巡らせたか。良い判断じゃ」


 戦況が大きく傾いた。

 アルカがキョウから離された瞬間、龍造が魔力を多く巡らせて猛攻を仕掛ける。

 アルカも状況を打破しようとするが、蹴りによるダメージと体勢不利な状況を覆すには至らない。

 アルカは現状を即座に分析する。キョウはソウゴに完全に抑えられていて援護は不可能だ。アルカ自身もこのままでは押し切られるのは間違いない。このままでは確実に負ける。ならば、答えは一つだ。

 アルカは一発逆転に賭ける。

 頭を横に傾けた。龍造の剣がアルカの頬を浅く裂き、アルカに痛みを届けた。だが、アルカは止まらない。

 アルカは一歩踏み出し刀を振り下ろす。龍造の残っている剣はアルカの残った刀で防ぎ、敢えて龍造の剣を弾かずに、ダメージを甘んじて受け入れる事によって生まれたこの一撃で勝負を決めるつもりだ。


「残念だったのう」


 龍造はそう呟いた。小さな声だったが、一歩踏み込んでいたアルカには良く聞こえた。

 アルカは刀を振り上げたままの姿勢で止まっていた。否、刀を振り下ろせなかったのだ。アルカの頬を切り裂いた剣が歪に形を変形させ、アルカの刀に絡みついていたからに他ならない。

 非常事態でアルカの思考に一瞬の空白が生まれ、龍造は素早く残った剣をアルカの首に突きつけた。


「……負けました」

「うむ」


 アルカが負けを認めると、龍造は剣を首から離す。アルカの刀に絡みついていた剣は生物のように動いて、元の剣の形に戻った。

 龍造は未だに戦っているソウゴに加勢しに向かう。そして、すぐに決着がついた。

 アルカはアケミから治療を受けながら、キョウが戻ってくるのを待つ。頬の切り傷が消毒で沁みた。


「儂等の勝ちじゃな。それで、儂等の特異技能が分かったかのう?」

「龍造さんのは専用武装の変形ですよね? ソウゴさんのは引力を操るものですか?」


 龍造の特異技能は変化が分かりやすいものなので自信はあるが、ソウゴの特異技能は分からず仕舞いだ。分析しようにも最後の方は龍造の剣を捌くことだけで手いっぱいだった。


「儂のは正解じゃな。ソウゴのは……どうなんじゃ?」

「合ってはいないが、間違えるのも仕方ないぞ。過程はどうあれ、結果だけを見ると似たようなものだ」


 そんなことを言いながら二人はそれぞれの特異技能を教えてくれる。

 龍造の特異技能はアルカの見た通りのものだった。無生物に魔力を流し自在に“変形”させるというものだ。強度は素材に依存し、体積を変化させることは出来ない。


「中途半端で扱いにくい特異技能じゃな。かと言って強いわけでもない。不便な能力じゃよ」


 龍造は自身の特異技能を悪く評するが、その表情は柔らかいものだった。

 一方で、ソウゴの特異技能は目に見えるものではなかった。どんな体勢であろうとも“均衡”がとれるという特異技能だ。固定されている物、一定の密度と重量がある物に触れていなければ発動しないので、物を飛ばすことなどは不可能だそうだ。


「例えば、こんなことも出来る」


 ソウゴは槍を垂直に立てると、体を地面と水平にして槍の上を歩く。傍から見ると脳が理解を拒むような光景に、アルカとキョウは素っ頓狂な声を上げた。


「どんな場所も昇り降り出来て、地に足がついている限りバランスを崩すことない程度の能力だ」

「……十分強くねぇか」

「うん」


 拮抗する戦いでは如何に相手の隙を作るかが勝利の別れ目だ。フェイントや搦め手で相手の体勢を崩すのは常套手段であり、王道だ。それが効かないソウゴは滅茶苦茶強いとアルカとキョウの意見は一致した。


「あくまで対等の戦いではな。格上との戦いでは役に立たん。腹立たしい事に、その時は龍造の方が役に立つまである」

「ハッハッハッ、たいして変わらんて」


 こうして龍造とソウゴの特異技能を教えてもらったので、アルカとキョウも特異技能を教える事にした。


「いいのか?」

「はい。皆さん信頼できると思ったので」

「そうだな」

「ま、ありがたく信頼は貰っておこうかのう」


 アルカは“消滅”の特異技能を、キョウは“怪力”の特異技能をそれぞれ伝える。

 聞いた三人はそれぞれ違った反応を返した。


「強そうじゃのう」

「使い方次第で化けるな」

「二人とも戦いに特化しているのね」


 三人の言う通りである。戦闘向きの特異技能なので、火力という一点では三人を既に超えている。だからこそ使い方を学び、考えなければならない、とアルカは考えている。でなければ特異技能の開花は望めないだろう。


「まぁ、使い方は各自で考えろ。発動原理が理解できない他人では、アイディアを出すのが精一杯じゃ」

「そうだ。特異技能がどうやって芽生えたかを理解しておかなければ、使いこなすことはできん」


 目に見える結果は同じでも、その過程が異なれば考え方自体を変える必要がある。その過程は本人しか理解できないもので、他人は自身の経験による助言やアイディアを伝える事しかできない。

 特異技能を使いこなすためには、結局のところ自身で考えるしかないのだ。


「最後はわたしね。廃墟群で見せたけれど、わたしの特異技能は“飛翔”よ。空を飛べるの」


 単純明快な能力だ。だが、その利点は計り知れない。

 地上の状況を一切考慮せずに移動できるのは言わずもがな、上空からの監視任務や偵察任務、低空飛行をしながら、一方的に不死者を討伐できるメリットは非常に大きい。


「それにね、雲の上から見る日の出はとても綺麗なのよ」


 飛行艇では到達しえない超高高度のご来光は、アケミでなければ体験できない。

 それを聞いたアルカとキョウは、アケミの特異技能をとても羨ましく思うのだった。


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