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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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91 届かぬ場所

 ミスフィットの巣食う地域は一言で言うと、陰鬱という言葉がぴったりな場所だった。

 道は長年の汚れがこびり付いていて、場所によってはドス黒く変色している。座り込んでいる人もチラホラいて、誰もがやせ細っていた。そしてゴミが至る所に捨てられており、全体的に酷い臭いが充満していた。


「うっ……」

「こりゃ酷いな。よく不死者が発生しないもんだよ」

「そうだね。死神がいるのかもしれない」


 アケミは鼻を覆って臭いを耐えている。アルカとキョウはこの衛生環境で不死者が出ない事を不思議に思っていた。

 アルカの予想では、死神がいて不死者が発生しても即座に討伐していると考えたが、この環境に好き好んで身を置く死神がいるとは考えにくい。機動隊はもっと良い環境であるし、アケミのように拒絶反応が出ると思う。


「でもソラは死神だったぜ?」

「あそこは環境が良さそうだし、ケーキも食べれるよ?」

「最高だな」

「機動隊でもケーキは食べれるよ……」


 自分で買う必要はあるが給料は高い。飽きるほどケーキなら食べる事が出来る。

 そんなふうにアルカとキョウがじゃれていると、ようやく臭いに慣れてきたアケミが口を開く。


「二人の方が臭いには敏感なハズでしょ? 何で平気なの?」

「昔はよく嗅いでいたので」


 都市外移住者の村では風呂に入ることは出来ない。トイレもぼっとん便所だ。そんなところで生活していれば嫌でも慣れる。慣れても嫌な臭いであることは変わりないのだが。

 アケミが臭いに慣れて、路地に足を踏み入れようとしたその時、路地の壁にもたれ掛かって座っていた人が木の棒で路地の入口を塞ぐ。


「アンタら、この先は入らんほうがええ」


 ガラガラ声の男性はそう忠告してきた。同時に至る所から視線を感じる。

 その視線の主は座り込んでいる人々だ。もしかしたらこの人達はミスフィットの門番の役割なのだろうと見当つけた。


「理由を伺ってもよろしいですか?」

「……この先はミスフィットの領地。許可なく入れば、たとえ死神でも生きて帰る事はできない」

「そうでしたか。わざわざありがとうございます」


 アルカ達は一度路地から距離を取った。相変わらず視線はそのままだが、気にせず会話をする。


「どうしましょう?」

「ここは退却よ。性急に物事を進めれば、何処かで必ずしっぺ返しを受けるわ」


 アケミは冷静だった。静香が目の前にいるかもしれないのに、焦らず物事を進めようとする手腕は見習うべき点だ。アルカは前のめりになっていた思考を冷やす。

 アケミは一歩引いて俯瞰的に状況を確認するために、この場を離れる事を提案した。


「そろそろ見回り終了の時間が迫っているわ。帰りの時間も考えたら潮時よ」

「……そうですね」

「報告すべき事が沢山あるわ。戻りましょう」


 アルカ達は来た道とは違う道を通って本部に戻る。途中でヴィクターに連絡を入れたので、そのまま班長室に直行だ。


「だいぶ捜索は進んだようだな」

「はい」


 アケミが代表して話を進める。

 報告を聞いている間、ヴィクターは眉間に皺を寄せた無表情を崩すことは無かった。そして報告を聞き終えると、盛大にため息を吐いた。


「静香の痕跡があった事は朗報だが、第三区画にそのような場所があったのだな。ここまで管理されていないとは……。呆れてものが言えん」


 ヴィクターの呆れた相手は政治家だろう。本来、自分達がやるべき仕事をやらず、神意教に押し付けて放置。神意教が第三区画の治安維持をしているのは、あくまで善意によるものだ。いくら神意教が大きい組織と言えど、トウキョウで最も大きく人が多い第三区画を治めるのは不可能だ。

 今のままでは何かの契機で不死者が発生してもおかしくはない。早急に手を打つべきだろう。


「それで、エドモント神官からの要請とは何だ?」

「第三区画の治安維持に協力してほしいそうです。その、班長が政治家の家系だから、と」


 少し言いにくそうにアケミは最後に付け加えた。人の過去を勝手に知ってしまったのだ。あまり良い気はしないし、ヴィクターが嫌がる可能性もあったから。

 しかし、ヴィクターは顔色を変えずに、普通に対応した。


「神意教はそこまで知っているのか。オオサカの件といい、情報網は侮れんな」

「その、班長は本当に政治家の……?」

「そうだ。当主ではないが、発言力はある方だ。……今は私の話はどうでもいい。聞きたければ暇なときにでもしてやろう。それよりもエドモント神官と話した内容を詳しく教えてくれ」


 今は関係ないヴィクターの家の事より、神意教の要請の方が重要度が高いとヴィクターは判断し、アケミに話の続きを促す。

 アケミはエドモント神官との会話の内容を伝え、アルカは適宜補足する。

 それを聞いたヴィクターは素早く決断した。


「丁度いい。神意教の要請を受ける方向で話をしよう。ついでに神意教が管理していない区画の統治、役立たずの政治家を引っ張り出してやろうではないか」


 ヴィクターは黒い笑顔で笑う。腹の立つ政治家にものを言える絶好の機会のようだ。


「アケミ達三人は手に入れた情報を整理し提出せよ。三班全体で共有する事を前提に手を抜くな、キョウ」

「はいっ!」

「アルカ、エドモント神官に面会を受け入れる旨の連絡を送れ。四日後の予定だ。時間と場所は後日連絡する。それと、アルカとキョウは立ち会え」

「わかりました」

「戦闘訓練はアケミも同伴して良いか、アルカ?」


 静香が失踪したため、今のアケミの予定は宙ぶらりんだ。一人では足りない事が多いので、しばらくは三人で活動してほしいそうだ。

 アケミの捜索技術や姿勢、戦闘技術をアルカ達に学ばせる良い機会であり、同時に、アルカとキョウの努力を目の当たりにして、アケミの静香への態度を考えさせる目的もある。


「はい。特異技能も教えあっても良いと考えています」

「いいの?」

「もう過去のことまで知っていますし、信頼していますから。ね、キョウ?」

「おう。アタシもいいぜ」

「それなら結構。龍造とソウゴから話は聞いている。そろそろ特異技能を含めた戦闘を学ばせるそうだ。精進せよ」


 本格的に特異技能を使った訓練になるらしい。そして、かなり厳しいものになるそうだ。


「楽しみだぜ」

「疲れそうだよ」

「そんなこと言って、アルカも笑ってんじゃん」


 キョウに指摘されて、アルカも自身が笑っている事に気が付く。すぐにいつもの顔に戻すが、強くなれるのだから楽しみなのは間違いない。キョウに頬を突かれながら揶揄われ、アルカとキョウの言い合いが始まった。

 アケミはそんな二人の会話を、驚愕の感情を持って受け止めていた。

 アルカとキョウの境遇を知り、廃墟群では格上に負け、オオサカでは命の危機に瀕したと聞いている。普通の死神なら、とうに心折れていてもおかしくない。だが、二人はそれでも尚、前に進もうと、強くなろうと努力している。


「見ておくと良い、アケミ。この二人の強さへの執着を。そして、それを静香に伝えよ。それは君にしかできない仕事だ」


 ヴィクターから見ても二人の強さへの執着心は異常だ。それを特異技能が開花していないアケミの目線から見て、静香に伝えなければならない。静香の好きにさせるのではなく、アケミが言葉を尽くして静香を説得し、静香に現実を向き合わせる必要がある。


「……わたしが間違っていたんですね」

「誰だって間違う。何度でもな。だが、それを次に活かせる人間が正しいのだ」


 ヴィクターの言葉には確かな重みがあった。輝かしい数多の功績の裏には、それをはるかに超える間違いがあった事を窺わせるものだった。


「アルカ、キョウ。その辺にしておけ。報告の密度からすると昼食をとっていないのだろう? 食べに行きなさい」

「あ。そうだった。何か腹が減ってきた」

「でもいいんですか? お昼休みは終わっていますけど」

「どうしても働きたいというなら考慮しよう」

「アルカ、班長の厚意に甘えましょう」


 アケミもそういうので、アルカはヴィクターの言う通り昼食を取ることにした。

 その後は朝一と同じように岳から報告書のまとめ方を習い、アケミはタロウから聞き出した情報などを地図書き出したり、簡素にまとめたりして、戦闘訓練の時間になる。


「今日からアケミも一緒だと聞いておる。ビシバシいくから覚悟しておけ」

「はい。よろしくお願いします」

「やる気だのう。ま、最初はアルカとキョウじゃがな」


 龍造はカラカラと笑い、ソウゴと共に専用武装を手に取った。

 それだけでアルカは今回の摸擬戦相手を察する。


「アケミ、開始の合図だけ頼むぞ」

「ええ。分かりました」

「アルカ、キョウ。儂等は特異技能を使う。対処してみせよ」


 事前情報無しの、実践に近い摸擬戦。相手の特異技能を知ることから始めなければならない戦いは初めてだ。


「初見の特異技能への対応訓練は早々できん。よく考え、よく学べ」

「ハイ!」

「良い返事じゃ。アケミ、やれ」


 両チームが距離を取り、専用武装を構える。そして、アケミの高く上げた腕が振り下ろされた。

 最初に動いたのは龍造とソウゴだ。アルカとキョウは特異技能を警戒して先手を取れなかった。

 龍造の専用武装は双剣。適度な長さと軽さが持ち味で、アルカと同じように速さと手数で攻めるスタイルだ。

 一方の龍造は長い槍だ。遠心力を活かした強烈な一撃と、連続突きによる手数を兼ね備えた攻防一体のスタイルだ。

 それは奇しくもアルカとキョウの戦い方に似ていて、個々の技術やチームワークも学ぶ点が多い。指導役としては適任だった。


「ほれほれ、どうしたアルカ? 避けてばかりでは勝てんぞ?」

「キョウもだ。いつもの勢いはどうした?」

「くっ……。やり辛ぇ……!」

「ホントにッ! でもッ!」


 アルカは魔力を多く巡らせる。相手に影響を与える特異技能であっても、これなら被害を最低限に抑え込めるからだ。

 速度を増したアルカの刀が剣を弾き、もう片方が龍造に迫る。


「ほう? 悪くない判断じゃ。だが、これはチーム戦じゃぞ」

「二人同時なら兎も角、アルカだけなら簡単に対処できる」


 アルカの刀はソウゴの槍によって防がれる。そして、遥か後方に弾き飛ばされた。


「アルカ!」

「キョウ、気を付けて! ソウゴさんは影響する特異技能っぽい!」


 アルカは弾き飛ばされた瞬間、明らかに変な力を感じた。表現しにくいが、腕力で弾き飛ばされたのではなく、後ろに引っ張られたような感覚だ。

 今のアルカの身体に異変は感じない。ヴィクターのような、離れても作用し続けるタイプでは無い可能性がある。

 キョウはアルカが弾き飛ばされた瞬間、二対一では分が悪いと判断して後退した。


「後退したか。いい判断だ」

「さてさて、アルカの読みは当たっているのかのう?」


 キョウの判断の正しさを称賛し、アルカの言葉ははぐらかす。自身の特異技能をペラペラ話すほどソウゴはお人好しではない。

 再び専用武装を構えた両チームは向かい合うのだった。


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