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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
91/122

90 痕跡を追って

 静香が目撃された場所に到着した三人は、周辺環境の確認から始めた。何処にどんな道や建物があるのかを把握し、様々な状況や視点からルートを考えるためだ。


「随分地図と違うわね」

「道がゴミで塞がっていたり、バラック小屋が建っていたり、立ち入り禁止のフェンスが張られていたり、やりたい放題ですよ」


 機動隊や警察が立ち入らない区画は、それこそ何でもありな世界だった。否、暴力こそが法律の世界とでも言うべきか。時折、路地に横たわる人が見える。気配察知で確認すると、生きているようなので放置だが、一瞬だけ合った目は異様にぎらついていた。


「無法地帯だな。それに……」


 キョウが振り返ると、急いで物陰に隠れる怪しい人影。これで五人目だ。


「オイ、そこの。バレてんぞ。もしこっちに来たらぶっ飛ばすからな」


 キョウは後ろを向いてそう言った。人影はアルカ達とは反対方向に向かって歩き出した。


「はぁ~、スリってうぜぇな。アタシら班員に挑むって無謀だろ」

「それだけ困っているのか、それとも命が惜しくないのか。どちらにしろ捜索には邪魔になるね」

「本当に都市なのか疑わしくなる治安の悪さね。神意教が関わらないだけで、こんなにひどくなるとは思ってもみなかったわ」


 それぞれの感想は全くもってその通りだ。神意教がどれほど第三区画に貢献しているか、それを全員、肌で感じている。


「それでもここの雰囲気なんかの情報を持って帰るだけでも捜索の手助けになるわ。機動隊が見回りしない区画の情報は貴重だから」


 情報が伝われば人員を割いて活動が出来る。人員を割けば効率は上がる。そうなれば静香の情報は集まりやすくなる。

 目印になりそうな建造物や気が付いたことなどを逐次メモしながら歩いていると、正面から見るからに怪しい風貌の人物が歩いてきた。パーカーのフードで目元は見えないが、口は弧を描いていた。

 その人物を警戒しながらいると、目の前で立ち止まる。


「……何か御用ですか?」

「ククク、何かお探しのようだね~?」


 押し殺すような笑い声を響かせる。アルカ達が警戒している事は分かっているはずだが、気にした様子はない。それどころかアルカ達の様子を楽しんでいる節すらある。そして、アルカ達の目的を言い当てるあたり、ただものではない。


「ここに機動隊が来ることなんて滅多にないし、目的地も無くキョロキョロと~。探し物以外に理由は無いと思うんだけど~?」

「それはあなたに関係ありません」

「ククク、それは事実だね~。でも、ボクはこの辺りに詳しいんだよ~。色々教えてあげようか~? 勿論、有料でね~」


 他人を侮るような口調の人物に、アルカは警戒心剥き出しで対応するが、その提案は魅力的だった。この人物の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、現地人の持つ情報は欲しい。

 アルカが心の中でリスクとリターンを天秤にかけていると、アケミが前に進み出た。


「いいわ。情報を買いましょう」

「毎度あり~」

「でも、虚偽情報だったら……」

「いくらボクでも“班員”に喧嘩を売るなんてしなよ~? 命とお金は大事だからね~」


 わざわざアルカ達が班員という事を強調して伝え、情報の正確さと伏してある情報を宣伝する手腕に舌を巻く。


「ククク、ボクの事はタロウとでも呼んでくれよ~。ついてきて~」


 タロウはくるりと回れ右して歩き出す。アルカ達はその後ろに続き、入り組んだ路地を突き進むと、この地区にしては立派な一軒家にたどり着いた。


「スゲーな」

「そうでしょ~? 外観はボロ家だけど内装は新品だよ~」


 キョウが思わず口走るくらい、一軒家の内装は豪華だった。全体をアンティーク調に仕上げていて、派手過ぎず、気品ある雰囲気でまとまっている。

 その中を進むと、一番奥の扉の前に仕立ての良いスーツを着た人が立っていた。獣の耳と尻尾が揺れているその姿は死神だ。


「おかえりなさいませ。タロウ様。後ろの方々はお客様ですか?」

「そうだよ~。大口のお客様さ~。お茶とお菓子を準備しておくれよ~」

「かしこまりました」


 その死神は恭しくタロウにお辞儀をし、アルカ達にも会釈をしてから立ち去る。

 タロウは死神が立っていた部屋にアルカ達を招くと、広い書斎のような部屋に設置されている応接用のソファに座るように促した。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ~。ちょっとした仕掛けがあるだけのソファだから~」

「それで座るやつはいねぇだろ」

「だって嘘ついちゃいけないんだろ~? 正直に言っただけさ~」


 タロウ自身は立派な書斎机に肘をついて座っている。口調はアレだが、その格好は様になっていた。そこがタロウの定位置なのだろう。


「立ったままでいいわ。それより情報を教えてちょうだい」

「それはダメだよ~。お客様は座らないと~。教えてあげない~」


 アルカ達が警戒してソファに座らず、タロウは話をしようとしない。しばらく睨み合いをしていると、扉が開いてワゴンを押した死神が入ってきた。


「お待たせしました。……何をしているのでしょうか? タロウ様」

「聞いてくれよ~、ソラ~。お客様が座らないんだ~」

「仕掛けがあるって聞いて、座る馬鹿はいねぇだろって言ってんじゃん」

「ハァ……。タロウ様。くだらない冗談を言いますと、お客様が去ってしまいます。お客様、あのソファに警戒するような仕掛けはございません」


 ソラと呼ばれた死神は丁寧に説明してくれた。タロウが言った仕掛けというものは、ソファがとても柔らかく沈むため、立ち上がるのに手間取るというものらしい。


「いきなり立ち上がれないようになっているだけさ~。只人には効果てき面なんだけど、死神にはイマイチ効果が薄いんだよね~」

「情報屋という仕事をしていると、何かと用心は必要なのです。タロウ様。お客様に無駄な時間を取らせてしまいました。謝罪を」

「ごめんね~」


 誠意を一切感じない謝罪だったが、ソラが言うにはこれ以上の謝罪は出てこないらしい。

 アルカ達は早々にタロウについては諦めて、この区画の事や静香の事について聞くことにした。

 アルカ達はソファに座り、ソラが紅茶とケーキを三人の前に置いた。


「質問は分かったよ~。でもその前に支払いからだよ~」

「いくらなの?」

「そうだね~。これくらいかな~」


 タロウが金額と振込口座が書かれた紙を差し出した。アルカとキョウはその額に目を瞬かせたが、アケミは二つ返事で了承する。

 アケミは情報端末で指定された口座に入金し、タロウも情報端末を操作してニヤニヤしている。


「流石、班員様だね~。この金額を顔色一つ変えずに出せるなんて~」

「無駄話は結構よ」

「あらら~、厳しいね~。一回しか言わないからメモするなりしてよ~」


 タロウは最初にこの区画の情報を話し始めた。

 情報端末にタロウからの情報を書き込んでいくが、その量に目が回りそうだ。それに、これだけの情報を淀みなく話していくタロウの記憶力は相当なものだ。


「こんなものかな~。あと~、それは現時点のものだから~、時間経過で変わることは知っておいてね~」


 バラック小屋などは頻繁に取り壊しと建設が繰り返されるため、少しずつ変化していくらしい。タロウからの忠告もキッチリと書き留めて、アケミは静香の目撃情報を訊ねた。


「前置きで言っておくけど~、その情報は正確性に欠けるから~、そこんとこよろしく~」


 普通ならタロウかソラ、もしくは子飼いの人間が確認に動き、情報の真偽を確かめるのだが、目撃情報が一度きりなので再確認出来なかったそうだ。


「その女と金髪の男が揃って歩いていたらしいよ~」


 日時は静香が第三区画に向かった日の正午近く。日時に矛盾は無かった。


「男に先導されてこの辺りじゃ一番危険な区画に向かったらしいよ~」


 静香らしき人物が向かったのは、この区画に巣食っている組織が管理している場所らしい。

 その組織は龍造達が潰しまわっているテロ組織と違い、機動隊などには喧嘩を売らず、この周辺地域を支配するだけの組織だ。無法地帯に暴力という名の法をもたらし、支配しているだけなので、機動隊ですらその存在を関知していない組織らしい。


「ボクが知っているのはそこまでだよ~」

「その組織について教えてちょうだい」


 アケミは追加料金を払う姿勢でいると、タロウが手を軽く振った。


「ボクもほとんど知らないんだよね~。だからサービスしておくよ~」


 その組織名は“ミスフィット”。社会から弾き出された者、という意味だ。「そう言う意味ならボクもそうなんだけどね~」とタロウは呑気に笑っていた。


「構成員や人数は不明だし~、本拠地も分からない~。でも内部に死神はいると思うよ~」


 ミスフィットを探ろうとした人間は尽く殺された。死に方は悲惨で、バラバラになった手足がそこいらの路地に捨てられていた。その切断面は綺麗で、とてもじゃないが人間業ではなかったそうだ。


「君子危うきに近づかずって言うしね~。ボクが知っている事は以上だよ~」


 想像以上に危険な組織に静香はついていったようだ。正直、三人で負いきれる大きさでは無くなってきた。どうするにしても、入念な下準備が必要なことは確実だ。


「質問の答えとしてはこれくらいかな~。満足かい~?」

「……そうね」

「それは良かった~。また聞きたくなったら何時でも来てよ~。有料で教えるよ~」

「その時はまた来るわ。わたし達はそろそろ行こうかしら」


 アケミの言葉でアルカ達三人は立ち上がる。その際、ソファが想像以上に沈んでいたため立ち上がるのに少し苦労した。仕掛けは正常に機能しているらしい。

 見送りはタロウとソラがしてくれた。


「ありがとうございました」

「いいんだよ~。君達とはまた会いそうな気がするからね~」

「そうならない事を願うわ」

「ケーキ美味しかったぜ」


 別れの挨拶もそこそこにしてアルカ達は元の道に戻る。タロウから教えてもらった情報を基に、確認の意味を込めて歩き出し、静香の目撃情報を辿ってミスフィットの巣食っている地域に足を延ばす。

 ミスフィットの巣食う地域に向かうほど人通りが減っていき、代わりにボロボロの格好をした痩せた人間が増えていく。治安が悪い事だけはすぐに分かった。


「これは……酷いわね」


 アケミは眉を顰めてそう呟く。だが、アルカとキョウは違った。


「都市外だと珍しくねぇよ」

「そうなの?」

「人はこんなに多くないですけど、こんなもんですよ」

「熊とか猪とかが来ない分、ここの方がマシかもな」


 食料が少なく、だいたい誰もが栄養失調気味であり、服なども満足に無いのでボロボロの布切れを着る。アルカとキョウは子供でありながら死神であったので、熊や猪は食料だったが、只人にとっては脅威そのものだ。

 神意教の教会が近い分、怪我や病気をしても何とかなるし、電気も通っているので都市外よりもマシかもしれない。


「わたしが都市外で生活するのは無理そうね」

「普通は生活しませんよ」

「アタシも戻りたくねぇな。あの生活には」


 そんなことを話していると、静香が入っていったというミスフィットの巣食う地域に到着したのだった。


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