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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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87 影を追って

 アルカとキョウは見回りの途中で昼食をとっていた。事前に志織に連絡を入れると、二つ返事でやって来た。


「へー、大変だねぇ」

「そうなんですよ」


 志織は平たんな声でアルカの現状に同情する。大量の書類に、摘発に、指揮に、静香の事が重なって大変だという愚痴だ。志織は感情を吐き出すことがアルカの目的だと気が付いているので、尚更適当なのかもしれない。


「静香って言ったかい? 何でまた失踪なんてしたのさ」

「それは……」


 アルカに対する嫉妬心から失踪したのではないか、という推測を伝えると、静香は呆れたように息を吐く。


「静香は二人の努力を知らないから、簡単に嫉妬なんてするのさ。昔資料を見たけど、訓練生時代は最優秀生徒だったはず。才能だけはあるのにもったいない」

「そうなんですか……」

「まー、半分は理解できるけど、もう半分は理解不能だね」


 志織自身は覆せない権力を前に大きな挫折を味わった。その絶望感は痛いほどよく理解できる。だが、志織はそれでも諦めるつもりはない。その点が明らかに違う。


「わたしと違って絶対的な差じゃないのに足掻くこともしないで逃げるなんて、理解できないよ」

「志織さんは厳しいですね」

「ははっ、もっと厳しい状況にいるんだもの。そんな甘ちゃんを甘やかす暇は無いさ。一度現実を見せてやればいいのに」


 歯に衣着せぬ物言いに、流石のキョウも苦笑いを浮かべる。


「でもよ志織、何か策でもあんのかよ?」

「言ったじゃないか。現実を見せてやればいい。それで折れるならそれまでの人間だったってことさ」

「それは駄目です。静香さんが傷付きます」

「優しすぎるよ。アルカは」


 アルカの耳を弄びながら、志織は口を尖らせる。志織も研究に関しては驚くほどストイックなので、厳しい言葉が出るのも頷ける。


「どちらにせよ、静香さんを見つけなければ話になりません。情報もほとんど無いので、正直手詰まりです」

「ほほう? それでわたしの頭脳を頼りに来たのかい? 仕方ないなぁ。手伝ってあげよう」

「ありがとうございます」


 志織の頭の良さがどこまで捜査に活かせるかは分からないが、飛び抜けて賢いので期待している。

 志織はアルカから聞いた話と過去の資料を擦り合わせながら頭を回転させていく。


「静香は第三区画に向かったんだよね?」

「はい。確定ではありませんが、それらしき人物を見たという目撃情報があります」

「恐らくその証言は本物だね」

「どうしてだ?」


 確定ではない、というアルカの言葉を聞いて、自信満々にそう断言した志織に、キョウは首を傾げる。

 それに答えるように、志織は口を開いた。


「勘だね」

「勘かよ!」

「嘘だよ」

「嘘かよ!」

「ははっ、キョウは面白いねぇ」


 お腹を抱えて笑う志織は一度呼吸を整えると、再び口を開いた。


「ま、色々推測できる理由はあるんだけど、一番は彼女が機動隊員だから、かな」

「……意味が分からん」

「説明してあげよう」


 静香は機動隊員である。それは当たり前の事実だ。だから、着の身着のまま失踪しても何とでもなる。何せ、この国でトップクラスの高給取りなのだから。そして、目撃情報が無いのは第二区画での見回りばかりしているからだ。


「機動隊は第二区画と第三区画の一部を見回りしている。逆に言えば、殆どは第二区画だ。そこで目撃情報が無いのならば、選択肢は二つに絞られる」


 一つは第三区画に逃げ込んだ可能性。もう一つは誰かの家に転がり込んでいる可能性だ。


「後者は更に二つの可能性に分岐する。一つ目は、親戚や友人の家に転がり込んでいる場合。だが、彼女は嫉妬心で逃げ出したのだろう? そんな事、知り合いに言えるような人間ではないよ」


 素直に言えるようならここまで拗れてはいないし、知り合いに何があったか聞かれれば、それは神経を逆なでされるも同然なので、わざわざ自分からは近づかない。


「二つ目は、赤の他人の家に転がり込んでいる場合。その他人の目的は不明だが、体目的だとしても、死神に無理強いは不可能に近い。どうせ銀行の口座も動いていないだろうから、金銭が目的でもない。目撃情報が無いのなら、部屋に引きこもっている可能性もあるが、彼女の性格上、じっとすることは苦手だろう」


 つまり、第二区画にいるとしたら何処かに監禁されている、と志織は考えているようだ。


「それなら監禁されている可能性が……」

「班員がそう簡単に捕まるか?」

「……そうだね」

「キョウの言う通りさ。これだけ第二区画を探し回っていないのなら、機動隊の目が届かない第三区画にいると考えるのが自然さ。相変わらず理由は分からないけどね」


 志織の推理に矛盾はない。推測ばかりで反論も出来るが、その反論はより小さい可能性の推測を積み重ねたものでしかない。


「ただ、死神である彼女が第三区画に向かうのだから、それなりの理由があると見ていい。それに、彼女が神意教でもない限り、第三区画で平穏はない。そう考えると、彼女に協力者がいる可能性が高いと踏んでいる」


 納得の理論だ。その協力者が何らかの目的で衣食住を提供したら、第三区画でも生きていける。


「でも、それなら第二区画でも考えられませんか?」

「アルカは賢いねぇ。その通りさ。でも、何か企む人間が隠れるなら、第三区画の方がやりやすいんだ」


 第二区画は班員と練度の高い隊員が頻繁に見回りをしている。それに対して第三区画はただでさえ広く、人が多い。見回りをする班員が足りておらず、加えて素行不良の隊員が多く、治安維持に神意教が手を貸している状態だ。


「人を隠すなら人の中、よく言ったものだね」

「はー、よく考えてるな」

「キョウはもう少し考えようか。考察って愉しいよ?」

「遠慮するぜ」

「ははっ、そうかい。ま、いつでも頼ってくれたまえよ。頭脳労働は得意なんだ」


 キョウと志織のじゃれあいを横前に、アルカは志織の推測を反芻する。矛盾点や理論の飛躍などを潰し、可能性の高いものを積み重ねていくと、志織と同意見になった。


「協力者がいたとして、その目的が掴めません」

「それはわたしも分からないかな。嫉妬心を利用した復讐かもしれないし、単に快楽主義かもしれない。それよりも、仮定の協力者を探した方がいいんじゃないかな? 彼女にロングコートを渡したはずだから、第二区画で接触したと思うよ」

「そうですね。その方向で探ってみます」

「頑張ってね」


 静香との昼食を終えて、第二区画の見回りをする。普段、班員が通らなさそうなルートを進み、簡単な事件を解決しながら進んでいく。


「お? 班長から連絡来たぞ」 

「静香さんが着ていたのは黒っぽい男性用ロングコート。高級品ではないが、安物でもなさそうだった、か。だいぶ曖昧だけど、男性用だったんだ」


 ロングコートが男性用となると、協力者か静香の彼氏的な立ち位置の人の所有物になる。アケミにも連絡を取って聞いてみなければならない、と思いながらアルカは情報端末を見ていると、文末にお説教が並んでいた。


「志織は技術開発局に籍を置いてはいるが、本来は部外者だ。あまり頼りすぎるな、だってさ」

「……反省だね。次から気を付けよう」


 そうは言ったものの、静香に関しては情報が無さ過ぎた。それに、少しでも早く戻ってきて欲しいので、多少の叱責は甘んじて受け入れるつもりだ。

 情報端末に送られてきたロングコートの参考図を片手に、アパレルショップも含めての見回りを続けること数時間、第三区画近くの奥まった路地に構えた店で、参考図とそっくりなロングコートを見つけた。


「これ、そっくりだな」

「そうだね。聞いてみようか」


 店内に入ったアルカとキョウは、暇そうにカウンターで欠伸をしていた男性にロングコートについて聞いてみる。


「すいません。あの飾られている黒いロングコートについて聞きたいのですが」

「え? は、はい。大丈夫です」


 ガチガチに緊張した男性は店長だった。

 ロングコートについては全て手作業の少数生産で、この店の目玉商品らしい。だが、客の購買層と噛み合っておらず、中々売れないそうだ。


「あのロングコートを買った人を知りたいんです」

「ちょ、ちょっと待っててください」


 慌てて店の裏に帳簿を取りに行った店長は速足で戻ってきた。ロングコートの仕入れから二年近く経っていても、購入者は十人いなかった。

 購入者の情報を聞きだし、お礼を述べて店を立ち去る。


「これが静香に繋がるといいな」

「うん」


 その日の見回りはアパレルショップを中心に、あちこちを巡り歩いた。

 本部に戻る道で、キョウは何の気なしに話し出す。


「今日は疲れたぜ」

「そうだね。でも静香さんに少しずつ近づいている気がするよ」

「それもだけど、やたらと事件が多くなかったか?」

「それは……確かに」


 第三区画に近いところだったので第二区画の中でも治安が悪い方だが、それでも過去に比べて増えている気がする。オオサカ派遣からトウキョウでの見回りをほとんどしていなかった事もあって、尚更、変化が顕著に感じられる。


「第三区画で治安が悪化しているって言っていたけど、もしかしたら第二区画でも悪化しているのかな?」

「かもしれねぇが、何でだ? そもそも何で治安が悪化してるんだよ」


 根本的な問題だが、アルカはすぐに答える事が出来なかった。だから、理由を考えてみる。


「キョウ、治安悪化の原因って何だと思う?」

「え? そりゃあ、金が無くなったとかだろ」

「そう。後は外から人が多く入ってきた時とかだね」


 金が無くなれば食べ物を買えない。ならば持っている人から奪うのが、最も手っ取り早くて確実な方法だ。

 そして、他所から大人数の他人が越してくると、現地の人間との意見の対立が生まれる。それは、都市外調査訓練で移住予定の村から逃げ出した人達が証明している。


「お金が無くなれば第二区画に住むのは難しい。だから区画整理されきっていない第三区画に向かう」

「第二区画は住めないのか?」

「持ち家があっても税金が高いよ。区画整理されているから言い逃れ出来ないし」


 アルカは答えが出た。しかし、キョウはまだ分からないのか頭をガシガシと掻いた後、アルカに顔を向ける。



「だから何になるんだよ?」

「何でお金が無くなった人が沢山いるのか、心当たりない?」

「心当たりって、アタシらが最近やってたのって摘発くらい……そうか、それか」


 キョウも答えにたどり着いたようだ。

 アルカ達が行った摘発により、何人もの人間が仕事をクビになった。それだけでなく、粉飾決済や捏造などは警察が摘発している。アルカ達の知らないところで、数多くの人が職を失っている。


「今はまだ全ての摘発が終わっていないだろうし、まだ貯蓄がある人もいる。でも、それだけの人が再就職できるとは限らない。そして時間と共に増えていく」

「それはやべぇな。どんどん悪化するじゃん」


 キョウの危惧した通りだ。これから先、相当忙しくなることは理解できた。ヴィクターに相談すべきことが、また一つ増えた。

 アルカとキョウは急ぎ足で本部に戻り、静香への手がかりと共に、これからの懸念をヴィクターに伝えるのだった。



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