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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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84 進む者 遅れる者

 ふぅ、とアルカは肺の中の空気を吐き出した。魔力自動車に次々と乗せられる証拠品を見ながら、感慨深い気持ちに浸る。

 最初こそ緊張したものの、短期間で四回目ともなれば指揮を執るのにも慣れてきた。岳達の支援無しに、今回はスムーズに摘発を終えることが出来た。アルカ自身も今回の摘発は反省点が少ないと思っている。


「証拠品の積み込みが終わりました。犯人と共に本部へ輸送します」

「はい。お願いします」


 隊員が敬礼をしてから速足で去っていく。きびきびとした動きからは、普段から厳しい訓練を受けている様子が伝わってくる。

 魔力自動車の発進を見送ってから、この企業の社長に摘発の終わりを告げて、アルカ達も本部に戻った。


「任務ご苦労。そろそろ慣れたか?」

「はい。今回はほとんど二人で指揮出来ました」

「よろしい。岳、君の目から見て二人はどうだ?」

「とても優秀です。基本は十分でしょう。後は突発的事態の収拾能力ですが、そればかりはどうにも」

「起きないに越したことは無いが、経験としては欲しいところか」


 嫌なジレンマに挟まれた形になるが、ヴィクターはアルカとキョウにこそ、その経験を積んで欲しいと考えている。

 ただでさえ不可解な縁に恵まれており、金の刻印を持つ死神でもあるのだから、予想外の事態に巻き込まれるのは想像に難くない。その時役に立つのはこれまでの経験であり、同時に自身の強さだ。


「無い物ねだりをしても意味はない。これまで通り任務にあたってくれ」

「わかりました」


 班長室を後にして、アルカ達は書類の精査に戻る。二週間ほどかかって終わりの見えてきた書類の山を前に、皆の目には希望が宿っている。


「はぁ、まだこんなにあるのか……」

「後これだけだよ。横流し先の組織の大半を潰しているし、摘発の終わった企業のも入っているから、実際は半分以下じゃないかな」


 便宜上テロ組織と称しているが、中身は千差万別だ。単なる不良グループみたいなものから半グレの集団、その類の前科者がいるれっきとしたテロ組織まで様々だ。

 潰したテロ組織の幾つかから回収できた書類の中には受け渡しの記録も存在していて、それらも目の前の書類の山に潜んでいる。それらのダブりも考慮すると見た目以上に少ないはずだ、とアルカは考えている。


「アルカの言う通りです。皆さん、ラストスパートですよ。早く終わらせて日常を取り戻しましょう」

「そうだ。俺達は日常を取り返すんだッ!」

「おう!」

「やってやるわよ!」


 岳の一言で、まるで強敵を前にした主人公のような事を言い出す面々に、アルカは皆の目から炎が噴き出す光景を幻視した。

 相手はたかが書類なのに、と冷めた目をしているのはアルカだけだった。ここでそんな指摘をして皆のやる気に水を掛けるような真似はしないが、それでも釈然としない。

 その後は書類を精査し、昼食を取ってから訓練場に向かう。


「あれ? 今日は龍造さん達はいないんですか?」

「お二人とも組織に強襲をかけに出かけました。私達が代わりです」

「……厳しくしろ、との命令だ。あの二人に何をしたんだ?」

「ただ言われるがまま模擬戦しただけだぜ? 後、自主練も増えた」

「……それが原因か」


 想像以上の成長速度で、問題点を次々指摘しても修正していくアルカとキョウに、龍造とソウゴは大変な思いをしているらしい。


「そうでしたか。ならば、私達が特異技能を使っても問題ないかもしれませんね」

「……今日の摸擬戦を見てからだ。それに、俺達は二人の特異技能を知らないからな」


 そうだった。専用武装を製作してから何かと忙しく、未だにアルカとキョウの特異技能をヴィクターと大護以外に伝えていない。アルカとしては、この二週間で今まで以上に人となりを知った班員には伝えても良いと思っている。龍造とソウゴ、小十郎とテツはその中でも特に信頼している。


「信頼関係がってやつか。面倒だな」

「他班には無いルールですからね。三班限定ですよ」

「え? そうなの?」

「そうですよ。班長が作りました。理由は知っていますが、他人に話すことではないですから言いません。どうしてもと言うなら、本人に聞けばよろしいのですよ」


 わざわざ理由を本人に聞けと言うあたり、アルカはヴィクターの個人的信条から来るものと推測した。しかし、興味はあるが、ヴィクターに直接聞くほどでも無いとも思う。そのうち聞けばいいや、という結論に至ったアルカは話を戻した。


「ところで、今日も摸擬戦ですか?」

「……そうだ。言われた事は覚えているだろう? それを意識しながら戦え。その上で俺達が気が付いた点があれば伝える」


 龍造はそう言って、休憩していた班員を呼ぶ。二人の男性がやって来た。

 そこにいたのは見た目が四十代くらいの男性が二人だ。実年齢は六十代なので、とんだ見た目詐欺である。小十郎とテツの世代の一つ下で、ベテランの領域の人達だ。

 明るい茶髪で少し太い男性が菅嶋 大智。金髪で痩躯の男性がリカルド カシラギだ。二人とも獣の耳と尻尾を持ち、一般的な死神のイメージそのものだ。


「前回は辛勝だったけど、今回は勝てるかねぇ」

「勝つに決まっている。新人の若造に負けるなど在り得ない」

「この前負けたけど?」

「まぐれだ」


 大智は気の抜けた話し方で、対するリカルドは神経質そうな話し方だ。


「摸擬戦を始めますよ」

「はい」

「了解だ」


 それぞれが専用武装を構え、テツが開始の合図をした。





「負けちゃったねぇ」

「ま、まぐれだ!」

「危なかったぜ……」

「私は一本取られたよ……」


 アルカが囮になって一本取られたからこその勝ちだが、二人で生き残って勝つことは出来なかった。それを目指していたら負けていた。


「両チームともお疲れ様です。お疲れでしょうから休みながら反省点でも言いましょう」


 小十郎とテツから四人の反省点を上げられる。囮は生還してこそ意味がある、とアルカは言われた。しかもくどくどと長く。アルカは大反省だ。

 反省会を終えて一息入れていると、訓練場の入り口から懐かしい声が聞こえてきた。


「ちょっと静香! 見回りに向かう時間でしょ!」

「まだ時間はある」


 その声にアルカとキョウは目を丸くする。何故なら、ヴィクターが近づけないようにしている二人の声だったからだ。そう、アケミと静香である。そして、二人は姿を現した。

 アルカは懐かしいと思うと同時に、静香の雰囲気の違いに驚く。記憶の中の静香は真面目で優しい雰囲気を纏っていたが、今の静香は刺々しい雰囲気を隠そうともしていない。

 アルカは静香と目が合った。その目は多分に敵意を含んでいて、仄暗い激情が渦巻いていた。


「アルカ、私と戦え」

「そ、それは……」

「戦え」

「待ちなさい」


 問い詰めるような勢いの静香をテツが制した。アルカを隠すように前へ出ると、静かと向き合う。


「静香、あなたは見回りのはずでしたよね?」

「まだ摸擬戦一回分の時間はある」

「それは見回り場所に向かう時間も考えていますか? そもそも訓練場の使用順は違いますよね?」

「急げば間に合うし、自主参加は自由だ」


 静香の言葉は間違ってはいない。だが、いきなりやってきて「戦え」は問題だ。アルカとキョウの予定もある。それを一方的に変えるわけにはいかない。

 反論の口を開こうとしたテツの前に、今度はアケミがやって来た。


「テツさん、お願いします。静香のお願いを叶えてやってください。静香も一戦終えたら見回りに行くわよね?」

「ああ」


 テツは困ったような表情で振り向いた。アルカの判断を尊重するらしい。

 アルカは迷っていた。ヴィクターと大護に「近づくな」と言われている以上、直ぐに立ち去ってほしい。それに、静香がおかしくなったのはアルカとの摸擬戦後である。またどうかにかなるのかと思うと、気が進まない。


「班長に許可を取ってください」

「……班長と副班長は会議の予定だったはずだ。緊急連絡以外は取れない」


 重要な会議で、各班長と副班長が出席するものらしい。結果的に静香の願いは叶わない事だけは確かだ。


「では駄目ですね。日を改めて……」


 アルカは反射的に飛び退いた。静香がテツを押しのけて、アルカに直剣を振るったからである。


「静香!」


 小十郎とテツが怒声を上げる。これでは摸擬戦ではなく単なる襲撃だ。謹慎では済まない可能性がある。


「静香……」

「アケミって静香に甘いよな」

「……どういうことかしら?」

「アケミは班長から言われているだろ? でも静香のワガママを優先した。静香の事を思うなら、首根っこ掴んで引っ張る時も必要だぜ?」


 ずっとキョウ自身がアルカにさせられてきたことだから。嫌がる自分に勉強を教え、書類仕事を教え、作戦と反省をさせる。おかげでキョウは今もこうしてアルカの隣にいられる。感謝しても、し足りないくらいだ。

 アルカを守っていたつもりだが、キョウも助けられていた自覚はある。


「たぶん、静香は負ける。それも盛大に」


 そうなったら静香は今以上におかしくなるとキョウは思う。キョウにとってアルカが無事なら問題ないが、アケミにとっては大問題だろう。

 小十郎とテツは静香を止める気配はない。冷静さを欠いた静香では、アルカに勝てない事を確信した目で見ている。負けて冷静になってから叱れば良いと思っている。


「わたしはどうすれば……」

「止めに入れば?」

「でも、静香がやりたいことを止めるのは……」

「甘やかし過ぎだ。アタシが同じ事をしたら、アルカが本気で怒ってくれる。静香の事を思うならアケミが止めな。アタシじゃ駄目だ」


 前回、静香がアルカに負けた時、キョウは外から冷静に見ていた。だからこそわかる。たまたまアルカだっただけで、キョウでも同じ結果になっただろう。だから、静香を止めるのはアケミでなければならない。キョウでは火に油を注ぐだけだ。

 アケミはしばらく考えていたが、スッと顔を上げて静香を見た。そして、いざ止めようと足を踏み出したその時、決着がついた。ついてしまった。

 キョウの予測通り、アルカの圧勝という形で戦いは終わったのだった。


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