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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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83 微速前進

 新人二人の頑張りに、先輩としての意地か、それとも岳に脅されたからかは不明だが、一同は真剣に書類と格闘する。

そうしているうちに一日は終わった。岳の満足そうな顔を見るに、随分と進んだのだろう。


「本日のところはこのくらいでしょう。後は夜勤の者に引き継ぎます。明後日辺りに、一度摘発をかけることになると予想されますので、今のうちに英気を養っておいてください」


 岳は摘発する企業に対して証拠をまとめ、ヴィクターに許可を貰いに行くようだ。

 一先ず仕事が終わったキョウは、グッと背を伸ばして机に伏せた。


「疲れたぜ……」

「お疲れ様」

「アルカ~、これ、いつまで続くの?」

「終わるまで、かな」

「そうか~」


 ツッコミする気力がないくらい、キョウは疲れているようだ。明日は今日ほどの戦力にはならなさそうだ。

 そんなふうに気の抜けた会話をしていると、岳が話しかけてくる。


「助かりました。書類ばかりで皆の緊張の糸が途切れていたのです」

「助けになったのなら良かったです」

「明日からは戦闘訓練も追加されますので、その時は容赦なく皆を叩きのめしてください」


 ずっと新人が入ってこず、アルカとキョウが配属される前は静香が一番新人だった。悪い意味で変化が無く、戦闘訓練も今一身が入らない状態だったところに二人が入ってきて、とても新鮮な思いをしているそうだ。


「年下に蹴り飛ばされた挙句、敗北を喫するほど腕が鈍っているとは思いませんでした。私どもも容赦はしません」


 岳のチームは、アルカとキョウを相手に初戦を黒星で飾っている。今では勝率は半々だが、それでも初戦のインパクトは抜けきっていないらしい。

 戦闘訓練と聞いて、目に生気が戻ったキョウが口の端を吊り上げる。


「俄然、楽しみだぜ。勝つのはアタシ達だけどな」

「それは聞き捨てならないな」

「言ってくれるじゃん」

「特異技能有でやろうぜ」


 キョウの言葉に、書類の精査でフラストレーションの溜まっている班員達が騒ぎ出す。彼等もキョウと同様、身体を動かすのは得意で大好きなのだ。


「特異技能云々は信頼関係を築いてからですよ。彼女等に失望されないよう、仕事をしっかりしましょうね?」

「お、おう」


 翌日、書類の精査の合間に訓練場へ赴く。既に訓練場は使われていて、何組かのチームが摸擬戦をしていた。


「む、来たようじゃな」

「待っとったぞ」


 堂々とした態度で、最初に出迎えてくれたのは龍造とソウゴである。アルカとキョウは二人のもとに向かった。


「ヴィクターから聞いとるかもしれんが、儂等が二人の指南役になる。厳しく指導しろ、と言われておるから覚悟しろ」

「よろしくお願いします!」

「はっはっはっ、随分と楽しそうではないか。その意気や良し。すぐにでも摸擬戦をしようではないか」


 そう言ったソウゴは、壁にもたれ掛かって休憩していたチームを呼ぶ。


「え? 龍造達とじゃないのかよ」

「儂等に一度でも勝ってから言え、キョウ」

「えー、勝つために戦おうぜー」

「先ずは二人の癖や悪い点を洗い出して直すところから始める。でなければ二人が儂等に勝つなど到底不可能じゃ」


 自分達で考えて完全する事も大切だが、外部から見て修正していく事も重要だ。自分達では気が付けない部分を指摘し、指導できるチャンスはそう多くない。まして、アルカとキョウはなまじ強く、自分達で改善していけるので、外部から指摘できる人間が限られてくる。


「ヴィクターも大護も役職上、忙しい。かと言って、そこらの班員では二人に指導できるほど強くない。小十郎とテツは他の班員の指導で手一杯。そこで儂等にお鉢が回ってきたんじゃ」


 龍造とソウゴに二人は、特異技能が芽生えた死神としては最強の部類に含まれる。向上心の塊のアルカとキョウを相手にするなら、二人くらいの実力が無いと厳しいものがある。


「何の用かと思ったら、アルカとキョウの相手か。キツイなぁ」

「何言ってんの。今日こそ勝つよ。四で連敗はストップよ」


 同性のチームが基本の機動隊で、異性で組んでいる異色のチームだ。今も一緒に書類を精査しているので良く知っている。名前は男性が東御とうみ 悟志さとし。女性が東御 寧々(ねね)。苗字でもわかる通り夫婦だ。二人とも赤毛で、耳や尻尾の形まで似ているため、お似合い夫婦と呼ばれることもある。


「悟志さん、寧々さん。よろしくお願いします」

「アタシ達が勝つけどな」

「言うねぇ。でも、あたし達も負けないから。ねぇ、あなた?」

「ま、うちの子達より若い子に、これ以上情けない姿を見せたくないしな」


 二人の子供たちは全員只人で、既に独り立ちしているらしい。「偶には顔を見せなさいよ」が最近の口癖だとか。

 訓練場でアルカ達は専用武装を構えて向かい合う。ソウゴがコインを取り出して、指で弾いた。小さく放物線を描き、地面に音を立てて落ちる。摸擬戦が始まった。





「また負けたーっ!」

「五連敗だねぇ」

「何で落ち着いてるんだよ!」


 寧々は悟志の襟首を掴んでがくがくと揺らす。悟志は目を回してしまった。


「ま、訓練の質と量、才能の差、後は向上心の違いじゃろうな」

「全部じゃないですか!」

「才能以外はどうにでもなるじゃろ」


 龍造は寧々達の訓練については小十郎達に学ぶように言ってから、アルカとキョウに振り向いた。


「配属当初に比べると、驚くほど強くなっておるな。アルカは思い切りが良くなっておるし、キョウは全体が見えるようになってきておる」

「放っておいてもいずれはワシ等を越えるであろうが、先達として導くとしよう」


 龍造とソウゴはそれぞれの視点から改善点や、問題点を上げていく。

 アルカが言われたことは、力技はキョウに任せきりなところがあり、正面から打ち合うことを避ける傾向にあるそうだ。同程度の力でも純粋な技量で勝負するのではなく、トリッキーな手段を取るために、技量の向上率が低い。足を止めて戦ってみると改善できる、というものだ。

 一方のキョウは、アルカがいる事前提の戦い方をしているので隙が多く、特に攻撃後が悪い。加えて、アルカに意識を割き過ぎているので、時折、ワンテンポ行動が遅れる様子が見られたらしい。キョウは一対一での戦いに慣れる事、アルカの様子を窺うのではなく、信じて行動することが大切だ、と言われていた。


「一朝一夕で治るものでもないし、一戦で全てがわかるわけでもない。これから何度も反復練習を行うことになる。心せよ」

「ハイ!」

「いい返事じゃ。では、次の摸擬戦といこうかのう」


 丁度、一戦終えて休憩中の他のチームを呼び、再びの摸擬戦が始まったのだった。





「流石に疲れたぜ……」

「そうだね。染み付いた戦い方を変えるのが、こんなに大変だとは思わなかった」


 アルカとキョウはしみじみと呟く。龍造達に言われたことは、これまで自分達の戦い方の基礎となっている部分だったのだ。直そうと意識すると動きがぎこちなくなり、戦闘に集中すると癖が出てきて、龍造達から叱咤が飛んでくる。戦闘訓練は終始叱られていた気がする。


「無意識を意識し、再び無意識にできるようにする。鍛錬とはその繰り返しである、だったか。長い道のりだ」

「鍛錬の道のりも長いですが、先ずは書類を片付けましょうね? 精査しなければ一歩を踏み出せませんよ?」


 岳が話に割り込んできた。その目は「話してないで仕事してください」と言っている。

 キョウは背筋を伸ばし、アルカは精査し終わった書類を渡す。アルカは出来る子なのだ。


「問題なさそうですね。これは次の書類です」

「これは……精査が終わったのもでは?」

「明日、この企業を摘発します。これは証拠資料として使いますので、覚えておいてください。キョウもですよ」

「ぐはっ」


 そんなやり取りがあった翌日、予定通り企業の摘発をすることになった。

 アルカとキョウは岳のチームと共に企業に出向き、十名の隊員も同行している。

 今回は岳のチームがお手本として摘発の指揮を執り、アルカとキョウは見学である。次の摘発からはアルカとキョウが中心となって指揮を執りつつ、岳のチームが補助する形になっている。幸いにも、摘発すべき対象は沢山あるのだ。練習には事欠かない。

 アポイントメント無しに訪れた機動隊に、フロントの受付嬢の表情は固まる。


「独立機動隊第三班所属、久留峰 岳と申します。現時刻より、この企業の捜索をします」

「……え? あの……?」


 あまりにも突然のことに目を白黒させている受付嬢をスルーして、岳達は社長室に向かった。すれ違う社員は何事かと振り返るが、声をかけてくる気配はない。寧ろ、そそくさと逃げるように道を開けていく。


「失礼します」

「何事か……ね……?」



 ノックもしないで社長室に入った岳を見て、書類から顔を上げた立派な身なりの男性は言葉が詰まる。


「代表取締役社長、古川 一朗ですね?」

「そ、そうですが……機動隊の方がどの様なご用事でしょうか?」

「この企業からテロ組織に物資が流れていたことが判明しました」

「何ですと!?」

「その捜査をします。ご協力願えますね?」


 疑問形の形を取っているものの、実際には強制だ。一郎氏は勢いよく首を縦に振り、快く協力してくれた。

 テロ組織に横流ししていた部署の関係者と証拠品を隊員達が運び出していく。大した問題も起きずに摘発自体は終了した。


「意外と簡単だったな」

「摘発自体はこんなものですよ」


 そもそも機動隊、それも班員に睨まれて平然としていられる只人など普通はいない。それは最初に関わった事件でも学んだ。皮肉を言える志織が異常なだけだ。


「いまだに残っている仕事に加え、拘束した人間の尋問と押収した証拠品の分別、精査が加わるのです。嫌になるでしょう?」


 岳は眼鏡を拭きながら、投げやりにそう言う。

 真面目な岳にしては物凄く不真面目な事を言っている、とアルカは思った。


「意外です。岳さんがそんな事を言うなんて」

「そうですか? 私は適度に仕事をしたいだけで、忙しなく働くのは苦手です。なので激しく動く戦闘訓練は好きでなく、書類仕事をしている方が性に合う点は、他の皆さんと違うでしょう」


 相対的に岳が真面目に見えるだけで、もっと勤勉な人間はいくらでもいるらしい。特にヴィクターはその筆頭だそうだ。


「アルカは気を付けた方がいいですね」

「何でですか?」

「勤勉だと仕事が山ほど回ってきます。アルカは私以上に大真面目な上に勤勉なので、班長が育成と称して無茶振りするでしょうから」

「……時すでに遅し、ですね」

「それは……ご愁傷様です。諦めて頑張ってください」


 岳は拭き終えた眼鏡をクイッと上げて、アルカに励ましのエールを送るのだった。



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