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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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81 乱入者再び

「お前を呼んだ覚えはない」

「奇遇だな。オレも呼ばれた記憶はねぇぜ?」

「なら、何故来る?」

「オレが戦いたいからだ」


 何時ぞやと同じく、言い合いが始まった。頭痛の種がやってきたことに頭を抱えるヴィクターと、他人の都合を考えない豪。二人はいつもこんな感じなのだろうか、という疑問がアルカの思考をよぎった。


「最近、椅子に座ってばかりだろ? たまには身体を動かそうぜ? な?」

「誰のせいで椅子に座っていると思っている?」

「事件を起こすヤツのせいだな」

「お前の班が碌な捜査をしないのも理由だ」


 言い争いは終わる気配を見せない。どうしようかと思いキョウを見ると、豪の言葉に惑わされ、動きたそうにうずうずしていた。それを見たアルカは嫌な予感がひしひしとしたので、キョウの気を引こうと声をかけようとしたが、一歩遅かった。


「あ? そこの小娘どもはこの前のヤツか。……どうだ? 戦いたくねぇか?」

「ハイ! 戦いたいです!」

「キョウ!?」


 ヴィクターがため息を深々と吐いて頭を抱えた。大護は目を瞬かせ、アルカはキョウの肩を揺さぶる。


「決定だな。借りるぞ、ヴィクター」

「はぁ……。好きにしろ」

「班長!?」

「サシじゃつまんねぇな。小さい方も同時にかかってこい」

「えぇっ!?」


 豪の一存で摸擬戦に参戦が決定したアルカ。それを慰めるように、キョウが口を開く。


「決まっちまったもんはしょうがないぜ?」

「……キョウが原因でしょ」

「いいじゃねぇか。機動隊最強との手合わせだぜ? サイコーに楽しそうじゃん」


 楽しいかは兎も角、貴重な機会であるのは間違いない。班が違うので、戦闘訓練で顔を合わせることはなく、尚且つ、機動隊最強の実力を肌で感じるいい機会だ。

 アルカは早くも気持ちを切り替え、戦術を考え始めた。


「ハッ、二人揃っていい目をしてやがる。殺す気で来い」


 獰猛な笑みを深め、豪は唸るように笑う。本当に楽しみなことが伝わってきた。さっさと訓練場の真ん中に向かう足取りは軽い。


「特異技能は使うな。その上で豪の言った通り、殺す気でかかれ。寸止めなどは一切必要ない」

「いいんですか?」

「そこまでしても、二人ではあいつにはまず勝てないだろう」


 豪は特異技能が開花しているのだろうが、万一すら考えなくて良いのは、強さの次元が違い過ぎると感じる。特異技能に秘密があるのだろうが、それは聞かないルールだ。

 アルカとキョウも訓練場の真ん中に向かう。豪とは向かい合うようにして、それぞれの専用武装を構えた。


「僭越ながら、開始の合図は私が務めさせていただきます」


 アルカ達と豪の真ん中に立った大護は、フラッグ代わりにトンファーを逆手に持って掲げた。そして、勢いよく振り下ろす。

 動いたのはアルカとキョウだ。アルカを先頭に、キョウが後ろに続く。

 対して豪は動く様子はない。腕を組んだままだ。

 アルカはそのまま直進し、豪の直前で上に高く飛んだ。豪の視線もアルカに集中する。そして、刀を振り下ろした。


「嘘っ!?」

「マジかよっ!?」


 アルカの攻撃は囮だ。視線を釘付けにし、キョウの大剣の切り上げを当てるための。

だが、豪は二人の想定を軽々と超えた。左腕でアルカの二本の刀をそのまま受け止め、右手でキョウの大剣を掴む。そして、アルカを腕力のみで弾き飛ばし、キョウを軽々と投げ飛ばした。豪本人は、その場から一切動いていない。

 殺す気で、と言われた意味を、二人はようやく理解した。魔力を普段より多く巡らせていたのにも関わらず、傷一つ付けることができなかった事実に戦慄した。


「ガッハッハッハッ。いい連携だ。ウチの馬鹿共にも見習わせたいくらいだ」


 余裕綽々な表情で、豪は褒める。それは嬉しいが、攻撃が通じなかった悔しさもある。


「さあ、どんどん来い。オレを楽しませろ」

「キョウ!」

「あいよ!」


 アルカとキョウは駆けだした。後先考えず、魔力を全力で巡らせる。今のアルカ達が何処まで通用するのか試したくなった。

 吹き飛ばされた方向は、豪を挟んで正反対。図らずも挟撃という形になった。

最初とは比べ物にならない速さでアルカが迫る。狙うは喉。勢いを乗せた突きが豪を襲う。


「おうおう、随分と早いじゃねぇか」


 アルカの刀は豪に片手で止められる。ガッチリと握りこまれた刀はびくともしない。

 だが、それはアルカも予想していた。だからこそ、もう一方の刀で豪の目を狙う。


「そこっ!」

「ガッハッハッ、容赦ねぇ攻撃だなぁ、オイ」


 しかし、それすらも防がれてしまう。だが、豪の両手は塞がった。アルカは固定されて動かない刀を軸にして、強烈な蹴りを顔面に放つ。

下から掬い上げるように放たれた蹴りは、豪の顎に直撃し、ガンッと鈍い音とともに、金属を蹴ったような感覚をアルカに届ける。


「……ッ!」

「悪くねぇ。だが、決定的に威力が足りねぇなぁ」

「だったら、これでどうだよっ!」


 豪の眼前にはアルカが蹴りを放った形で死に体を晒している。しかし、何もアルカが一人で戦っているわけではない。アルカの身体を隠れ蓑にして、キョウが全力で大剣のフルスイングを、豪の鳩尾にお見舞いした。

 流石の豪も、地面に跡を付けて後ろに弾かれる。

 キョウの大剣が当たった瞬間に緩んだ握力を見計らって、アルカは拘束から抜け出した。

 たった数メートルだが豪を後退させた二人に、素直に感心するヴィクターと大護。そして、その事実を一番楽しんでいる豪の笑いが訓練場に響いた。


「ガッハッハッハッ! 面白れぇ! オレを下げるか、開花してねぇ死神が! いいなぁ、オイ!」


 一切ダメージの通った様子の無い豪に、流石のキョウも目を剥いた。


「あれでダメージが無いとか、嘘だろ……」

「魔力を巡らせなきゃ、オレでもヤバかったぜ? それにしても、いい腕だ。どうだ、一班に来ねぇか?」

「勝手な引き抜きをするな、豪」

「いいじゃねぇか。お前のところばっかりいいヤツが集まってるのが悪い」

「それは育てているからだ」


 突然の引き抜けをかけようとする豪と、それを外から止めるヴィクター。性格が正反対にも見える二人だが、息があっているように見える。寧ろ、性格が反対だからこそ、ここまでぴったり息が合うのかもしれない。


「チッ、まあいい。それよりも、だ。かかってこい」


 口論では勝ち目がないのか、豪は少しだけ不機嫌そうに指をクイッと動かす。


「そんじゃ、行くぜ」

「了解」

「いいねぇ。いい目をするじゃねぇか」


 すぐに豪は獰猛な笑みを浮かべる。つられるようにアルカとキョウも口の端が上がった。

 アルカとキョウが駆ける。二人は見事なコンビネーションを見せ、何度も豪に攻撃を当てるが、豪はびくともしない。そして、攻守が逆転する時が来た。


「よし、そろそろ遊びは終わらせようじゃねぇかよ」


 アルカの背筋が凍った。なりふり構わず、その場を飛び退いた。直後、アルカのいた場所に、豪の拳が降ってきた。

 爆発音じみた音を奏で、小さなクレーターが出来上がる。


「躱したか。ウチの連中なら当たったんだがなぁ。流石だ」


 冗談じみた威力だが、これでも手加減しているらしい。

 アルカは生唾をゴクリと飲み込んだ。最強の名は伊達ではないことを、身をもって知ったのだから。


「ほう? まだ向かってくる度胸があるか。面白れぇ」


 豪が動いた。咄嗟に刀をクロスさせてガードし、自分から後ろに跳ぶことで威力を減衰するが、それでも、軽減しきれない衝撃が全身を貫く。

受け身を取り着地し、追撃の拳を蹴り上げて逸らす。そのまま懐に入って刀を振るうが、馬鹿みたいな硬さで、皮膚を切るどころか、軍服すら切断できなかった。


「服も専用武装ですか!?」

「ご名答だ!」


 それは切れないわけだ。キョウの攻撃も片腕で防がれる。

アルカは生身の部分に攻撃を集中させるが、傷一つ付く様子はない。

そして、攻撃を恐れない豪がキョウの攻撃を肩で受け止め、代わりにキョウの腕を掴んだ。


「ヤバッ」

「プレゼントだ。受け取りな」

「え?」


 キョウがアルカに向かって投げられた。アルカは空中でキョウを受け止めきれず、二人でもんどりうって地面を転がった。

 ぶつかった拍子に互いにダメージを負った二人だが、うかうかしてはいられなかった。豪の追撃の気配があったからだ。

 痛む身体をおして二人が左右に躱した中央を、豪の拳が通過した。


「やるじゃねぇか。だが、そろそろ終わりにしようぜ」


 豪は笑った。

そして、アルカの全速力に追いついて全ての攻撃を躱し、アルカを訓練場の端まで投げ飛ばした。

 次にキョウだ。一瞬で距離を詰め、掬い上げるようにアッパーを放ち、キョウが大剣で受け止める。だが、あまりの威力に空中に浮いたキョウに、大剣で受け止められる程度の速さのストレートで追い打ちし、これまた訓練場の端まで吹き飛ばした。


「そこまで!」


 大護の声が響いた。その声で、戦っていた三人は最初の位置まで戻ってくる。


「あー、楽しかったぜ。芽生えただけのヤツがこれ程できるなんて思わなかった」

「気は済んだか」

「ま、今日の所はこれくらいにしといてやる。次はもっと強くなってろ」


 そう言い残した豪は、意気揚々と訓練場を後にした。

 豪の背中を見送った後、口を開いたのはキョウだ。


「強かった……」

「うん……」

「そう気を落とすな。特異技能が開花していない二人なら、あれだけ戦えれば上等だ」

「そうですよ。私でも勝てません。二人が負けるのは道理です」


 そうヴィクター達は慰めるが、アルカとキョウの顔は優れない。否、正確には、キョウまでもが難しい顔をして、攻略法を考えているだけだ。

 だが、どれだけ考えても、一つの結論に行きついた。


「特異技能が開花してないと、そもそも勝てなくないか?」

「そうだね。先ずはどんな特異技能が欲しいか、考えないとだね」

「二人は落ち込んでいないようだな」

「そのようです」


 手加減された上に、手も足も出ずに敗北したのだから、場合によっては向上心を失う恐れがある。それなのに、アルカとキョウは反対だった。更になる向上心の上昇が見られたのだから。


「これは、戦闘訓練に参加する他の班員が心配になるな」

「ですね。二人の向上心に潰されなければ良いのですが」

「我々も注意するが、その辺りは龍造とソウゴに任せた方が良いかもしれん。彼等は班員として長く生きている分、我々よりも班員の心の機微に沿いやすい」


 多少素行に問題はあるものの、特異技能が開花しない班員として、ずっと生きているのだ。龍造とソウゴは自身よりも才能のある死神を沢山見てきており、苦悩もしている。だからこそ、班員のことをよく見ているし、慕われてもいる。


「また文句を言われるな」


 ヴィクターはため息を吐く。仕方ないので、今度は酒を持っていき、ギャンブルに付き合うとするか、とヴィクターは心に決めるのだった。


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