79 特異技能の把握
「アルカ、キョウ。訓練場に向かう。特異技能を見せてもらおう」
ヴィクターはそう言って、岳に一言伝えてから訓練場に向かう。当然のように大護も一緒だ。
全員が専用武装を持って訓練場に到着すると、いつもは何もない訓練場に準備がしてあった。
「アルカの特異技能は不明な点が多い。特徴をしっかりと把握しなければ、応用どころか戦闘ですら覚束なくなる。用意したものは様々あるが、全部使うつもりで試しなさい」
「はい」
必要魔力や射程距離、発動時間、発動方法など多岐にわたる。アルカは気合を入れて返事をした。
「キョウはまず自身の特異技能の限界を知ること。そして、魔力効率と連続使用、継続時間を把握しなさい」
「ハイ!」
資料の精査から逃げる事の出来たキョウは、元気の良い返事をした。
「大護はキョウの手伝いを。アルカは私が担当する」
ヴィクターはそう言って、準備されていたコンクリートブロックを手に取った。
「まずは必要魔力と精度の確認だ。これに私が言う形を切り抜きなさい」
「わかりました」
ヴィクターの指示のもと、アルカはコンクリートブロックの一部を消滅させていく。単純な四角形に始まり、大きさを変えたり、距離を変えたり、形を変えたりしながら、どんどんとコンクリートブロックに穴を開けていった。
その間、ヴィクターはメモを取り、アルカに消費魔力を聞いたりしていた。
何枚ものコンクリートブロックを穴だらけにしたアルカに、ヴィクターが統計結果を伝える。
「予想通り、消滅の面積が増えるほど、そして、距離が遠くなるほど消費魔力は増える。また、複雑な形を消そうと思えば、それでも消費魔力が増える。精度は遠い程下がるが、一センチもずれないので、誤差の範囲だろう。集中して行えば精度も上がり、連続使用や突然の使用では誤差は大きくなる」
消費魔力に関しては体感的に分かっていたが、精度も一緒に測っていたとは流石である。志織に先生と呼ばれる人間は伊達じゃない。
「いったん休憩だ。休んだら素材による消費魔力の変化と、視界外の精度を計る」
短期間で断続的に特異技能を使用したため、少し疲れたアルカはほっと一息ついた。次もある程度の魔力の消費が考えられるので、しっかりと休養をとる。準備されていた飲み物に口を付けていると、ドスンッという音と共に地面が揺れた。
何事か、と思ってそちらを向くと、三段重ねにしたコンテナを前にしたキョウの姿があった。
キョウはおもむろにしゃがむと、コンテナが浮いた。そのままキョウが立ち上がり、頭の上にコンテナを持ち上げ、数秒キープしてコンテナを地面に置く。それを繰り返していた。
キョウの想像以上の怪力にアルカは言葉を失い、ヴィクターも唖然とした様子で呟く。
「あれを簡単に持ち上げるか……。想像と違うぞ」
「班長はどんな想像をしていたんですか?」
「ん? 簡単に言えば、私の特異技能の力に特化した形だ。その場合、全力でもコンテナ二個が限界だと考えていたが、三個で余裕があるとなると、根本的に違うかもしれない」
ヴィクターの特異技能は全身に魔力を巡らせるものの強化版らしい。魔力効率と強化上限が段違いで、使い勝手が良いものだそうだ。
アルカはそんな話を聞きながら、単純な疑問が浮かんだ。
「そう言えば、何で魔力を巡らせるって言い方なんでしょうか? 魔力強化とか身体強化とかのほうが、短くて言いやすいと思うんですが」
「それは、かつて自身の特異技能にその名前を付けた班員がいるからだ」
ヴィクターが言うには、特異技能が正式に発見された時代の人物らしい。それまでも特異技能は存在したが、しっかりとした判別がされておらず、班員という概念もなかったそうだ。
「機動隊が軍内部の一組織だった時代の人物で、独立機動隊の創設にも多大なる貢献をした死神。一班の初代班長、不知火 利光だ」
歴史上の偉人が出てきた。訓練生時代の教科書に載っていた記憶がある。何でも、一人で不死者の侵攻を食い止め、逆に殲滅したことがあるなどの逸話を持つ人物だったはずだ。
「本人の性格は、細かいことを気にしない豪胆な性格だったらしい」
「え? では、使っても良いのでは?」
そんな性格なら、むしろ名前が大々的につけられたら大喜びしそうなものだ。あまりに不自然な話にアルカは首を傾げる。その答えをヴィクターは知っていた。
「問題なのはその子孫だ。不知火家は彼の功績から、この国の政治家として君臨することになった。不知火家は彼の全てを自身の家の財産として扱うと決め、もし彼の特異技能の名前を使うなら、利用料を取ると宣言した」
「……滅茶苦茶ですね」
「それがまかり通ってしまうのが、この国の政治だ。まともではない。……そして、機動隊隊長はその話を突っぱねて、別の表現を使った結果が、身体に魔力を巡らせる、というものだ」
利権関連で拗れた結果、皺寄せが現場に来るという最悪のパターンが今も残っている、とヴィクターは眉間に皺を寄せて語る。
「それ以外にも、研究が制限されているのも、機動隊が軍と警察のどっち付かずなのも、未だに班員と隊員という括りで分けているのも、利権絡みの結果だ。それ以外にも多く柵から生まれた規則がそのまま残っている事も多い。全く、非効率甚だしい」
研究者として、班長として、副隊長として。それぞれの立場を知っているからこその言葉だろう。
ヴィクターは軽く息を吐いてから、アルカの方を向いた。
「魔力も多少は回復しただろう。実験を再開する」
いつの間にか実験になったアルカの特異技能の確認作業は、次の段階に入った。
ヴィクターが指定した素材のブロックを、次々消滅させていく。木材や金属、合成樹脂、果てはスポンジまで様々だ。それぞれ消費魔力に差はあったが、ヴィクターが触れたままの状態で消滅させた素材は、どれも異様に魔力を消費した。
「魔力を纏わせましたか?」
「正解だ。そこまではっきり言うということは、変化が大きかったな?」
「はい。消費魔力が跳ね上がりました」
スポンジなどの密度の低いものや、アルミのような重量が軽いものは消費魔力が少ない傾向がある。そして、魔力を纏わせると、その量に比例して消費魔力も増える。
「予想通りだな。次に行くぞ」
ヴィクターに連れていかれた場所には壁が設置されており、その向こうにはコンクリートブロックが幾つも転がっている。
「目標が見えない場合の精度を計る」
ヴィクターの指示に従い、壁を挟んで、アルカはコンクリートブロックを消滅させていく。だが、精度は芳しくなかった。
気配察知は人間や不死者、野生動物などは分かるが、無機物のコンクリートブロック相手ではそこまでの精度はでない。その気配察知を基に特異技能を使うので、当然ながら、特異技能の精度も悪くなる。
「相手次第では使えるか。消費魔力は?」
「変化はありません」
「となると、直線距離だけが関係するのか……。いや、完全に空間を仕切れば、増える可能性残っているな……。しかし、気配察知自体の精度の問題が……」
ブツブツと呟いて、考察の世界に浸り始めたヴィクターをよそに、アルカも別の考察に浸る。
アルカの特異技能はどれも超高威力で、遠距離攻撃も可能だ。しかし、消費魔力が多すぎる。しかも、対象に魔力が含まれていると、消費魔力が跳ね上がるのだ。対人では殺傷能力が高すぎて、死神相手だと消費魔力が多すぎる。使い勝手の悪い特異技能だ。
シャルズ相手にあれだけ特異技能が使えたのは、シャルズが魔力を使い果たしていたからだろう。でなければ、アルカの魔力が足りなかったに違いない。
「準備ができていないので、これで実験は終了だ。休んで魔力を回復させておきなさい。キョウの実験が終わり次第、課題の確認に移る」
課題とは、専用武装作製中に出された、相手が影響を与える特異技能を持っていた際の対処法、というものだ。
アルカとキョウは志織の協力も得ながら、幾つか回答を考えてある。何時聞かれても問題はない。
回答を思い出していると、四段に増えたコンテナを地面に置いたキョウと大護がこちらにやってきた。
「キョウの特異技能の確認は終わりました。こちらの予想とは違うもののようです」
大護はメモをヴィクターに渡すと、ヴィクターはメモを睨みながら考え事をし始める。大護はヴィクターの邪魔にならないように黙ってその様子を観察していた。
このままだと進まなくなる、と判断したアルカは、ヴィクターに声をかけた。
「班長、課題の確認をするのでは?」
「ん? ……そうだったな。では、キョウ。君の考えを言いなさい」
メモから視線を外して、キョウに向き直ったヴィクターは回答を求めた。
キョウは緊張しながらも、自身の考えを述べる。
「相手が影響を与える特異技能を持っているなら、そもそも近づかないで、近くにあるものを拾って投げればいいと思います」
「……他には?」
驚いたように目を瞬かせたヴィクターは、少し間をおいてから、さらに回答を求める。
「他? 他には……そこら辺の物で戦えば問題ないかな、と……」
「間違いではないが、魔力効率も考えると、汎用武装を使う方が良い」
大体の班員は、専用武装の他にも何かしらの汎用武装を持っている。当のアルカとキョウも、専用と汎用の二種類のナイフを装備している。相手次第では、ナイフでの戦闘になるが、特異技能の影響を受ける方が厄介である。
「キョウが言ったように、周囲の物を使うのも大事だ。だが、相手が死神であれば投擲物を躱すことくらいはできる。それに、周囲に物があるとは限らない。いかなる状況でも、自身で対処できる必要がある。さらに言えば、現場の保存は三班の重要な仕事の一つだ。やむ終えぬ場合は兎も角、積極的に現場を破壊するのはいただけない」
注意事項がすらすらと出てきて、キョウの頭がパンクしそうだ。だが、ヴィクターの口はまだ閉じない。
「魔動武装が刃物の場合は、その鞘で戦う者が多い。基本的に携行しているし、素材も高魔力伝導鋼だ。剣を利用する者は、リーチもとれる。加えて、相手が不死者の場合、投擲で殺すことは、非常に難しいと言わざる負えない」
理由は、不死者は魔力を纏った状態で頭を破壊しないと殺せない。そして、魔力を纏わせるには、基本的に直接触れて魔力を流す必要がある。しかし、今のところ魔力を帯びた物体は発見されていない。触れていた物体から離れれば、どれほど魔力を纏わせていてもたちまち霧散する。
「銃という武器がありながら、未だに剣や槍で戦っているのには、そういった理由がある」
「遠距離で不死者が倒せることが評価される理由にも繋がります」
近づかなければ殺せない、それが普通だ。そして、近距離は不死者の攻撃範囲でもある。場合によっては、逆に殺させる可能性がある。しかし、遠距離攻撃が可能だと一方的に攻撃可能で、殲滅は無理でも数を減らすことができれば、戦闘を有利に進めることができる。
「以上の事から、キョウの考えは三角といったところだ。着眼点は悪くない。後は効率を考える事ができれば、十分に通用するだろう」
ヴィクターはキョウの回答を、そう採点して締めくくったのであった。




