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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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78 進捗の確認

 本部へと戻ったアルカ達一行は、休む間もなく会議室に呼び出される。アルカとキョウがいなかった間の捜査の確認も兼ねて、三班全体で情報の共有を図るためだ。

 会議室には、既に多くの班員達が集合しており、アルカ達の姿を見ると、温かく迎えてくれた。いや、どちらかと言えば、仕事をできる人間が増えたことを喜んでいるようだった。

 見回りと休暇のチーム以外が会議室に揃い、ヴィクターが最初に口を開く。


「急な招集をしてすまない。早速だが、これより情報の共有、及び現状の再確認を行う。大護、進めろ」

「はい。まず、オオサカ派遣で得られた資料から、テロ組織に物資を横流ししていた企業についての報告を、岳、お願いします」


 大護は情報端末を操作し全員に資料を送り、岳を指名する。岳が中心になって捜査しているのは、大護が言った通りテロ組織への横流ししていた企業関係だ。

送られてきた資料は整理させておらず、報告書がそのまま混じっている様子は、この会議が急に行われたことを如実に示していた。


「現在、摘発した企業は五社。どの企業も一部の人間による独断でした。犯行動機は金品を得る目的や借金返済、死神を後ろ盾にすることで企業の上役になる、と言った目的でした。思想に関しては、進化種や神意教との関係は今のところ出てきていません。彼等とテロ組織を仲介した人物、もしくは組織の存在が示唆されていますが、証言のみで、証拠は残っていませんでした。他にも横流ししていた形跡があり、残りの企業と合わせて、目下捜査中です」


 それ以外にも企業自体に粉飾決済やデータ改竄等が見つかっており、それらは警察が捜査中だ。

 岳は発言を終えて着席する。仕事をすればするほど増えるという状態で、企業を捜査している班員達の疲労の色は濃い。


「残りの企業も恐らくは同じようなものでしょう。そちらはできる限り早く終わらせて、仲介した存在の捜査に注力してください。証拠を残さないように動くことに慣れている相手です。一筋縄ではいかないことを頭に入れておくように」

「了解です」


 徹底的に存在を隠すその手腕は、シャルズ達とやり取りをしていたローブの人物を思い起こさせる。相手がローブの人物ならば、証拠が出てくる可能性は低いだろう。これまでの経験からそんなヘマをする相手ではない、とアルカは考える。


「次は他のテロ組織について、龍造、報告を」

「潰した組織は十一。ほとんどが半グレみたいなやつらの集団じゃ。当然、大した情報なんて持ってないわい。あれは末端の使いっ走りじゃな。指示も紙でのやり取りで、全て燃やしたそうじゃ」


 資材も指示された場所に置いてあり、誰も指示役と会ったことが無い。すべての組織が、完全に使い捨ての駒として使われていたようだ。


「姿も見せないやつの指示を鵜呑みにするとは。そんな考えなしじゃから、世間から爪はじきにされるんじゃ」


 指示通りに動けば資材が手に入り、それ以外は自由に行動できた。半グレ集団にとっては、それで十分だったらしいが、世間にとってはいい迷惑でしかない。

 龍造はそんな彼等を思い出しているのか、軽蔑したようにそう吐き捨てた。


「オオサカ派遣で得た資料の組織は全て潰しましたか?」

「すべてではない。いくつかはもぬけの殻じゃった。だが、別段それらの組織が優遇されていたという話はないのう。どこも同じような集団じゃ」


 龍造達が強襲をかけるが、無人だったらしい。誰かが使っていた形跡はあったが、慌てて逃げた様子もない。外出しただけのような雰囲気だったそうだ。


「今はそいつらの行方を追っているが、行方不明ばかりじゃ。実家にも戻っていない」


 親が匿っている可能性も考えて、気配察知を駆使して確認したが、居ないのは事実だったそうだ。


「岳の捜査結果次第では、また強襲をかけねばならん。早く送ってれ。人探しは門外漢じゃ」


 オオサカで散々歩き回って目撃証言を探したが、今回もその状態になっているらしい。しかも、オオサカではすんなり話ができた只人も、トウキョウでは警戒され距離をとられる。神意教の過激派の妨害もあって、捜査は難航しているようだ。


「資料の精査と尋問ですが、代わりましょうか?」

「嫌じゃ。儂は適度に動きたんじゃ」

「動いているじゃないですか」

「そういう意味ではない!」


 岳と龍造の口論が始まった。二人とも仕事が詰まっていて、疲れとイライラが募っているのだろう。


「言い合いはその辺りにしてください。会議中ですよ」


 大護が仲裁して、口論は鳴りを潜める。そこにヴィクターが口を開いた。


「アルカとキョウが復帰した。捜査は岳の方に付ける」

「助かります」

「なんじゃヴィクター。儂らには何もないのか?」

「二人の戦闘訓練で稽古をつけて欲しい。これは龍造だけでなく、全員にだ」


 班員の視線がアルカとキョウに集中する。それはフラストレーションが多分に含まれており、戦闘訓練が厳しくなりそうな予感がひしひしと伝わってきた。


「既に二人に負け越しているチームは、その理由を考えて訊ねろ。勝ち越しているチームは全力で叩き潰すつもりでかかってよい」

「班長、それは……」

「二人はそれで問題なかろう?」


 ヴィクターはアルカとキョウに尋ねる。質問の形式をとってはいるが、回答は分かり切っているのだろう。そして、アルカとキョウもまた、その答えを口にする。


「はい。強くなりたいですから」

「おう。どんと来い」


 班員達の目がギラリと光る。なんだかんだ言っても、三班も戦闘が好きな人間が多いのだ。

 とりあえず、班員達のストレス発散先が決まり、会議室に平穏が戻った。


「進めろ、大護」

「はい。次ですが、機工兵の分析が一部終わりました。結果から言えば、素材となる金属はナゴヤ製鉄所で生成され、各都市で分散して部品が作られたようです」


 トウキョウだけで約七十パーセントの部品が作られており、それらの企業についても調査することが決定したことを受け、方々から絶望の声が聞こえる。


「三班だけでは手が足りないので、四班にも増援をしてもらうことが決定しています。加えて隊員の中から優秀な者達を選抜し、捜査に協力してもらう手筈は済んでいます」


 一班ではないのは、戦闘になる可能性が低いと考えられたことと、そもそも彼等が捜査に向いていないという二点からだ。

 それに比べ四班は後方支援が任務なので、こまごまとした仕事の方が得意で、隊員の使い方も心得ている点から、協力を要請したという話だ。

 会議室から安堵の声が漏れる。


「潤滑油やバッテリーは既製品のものではありませんでした。更なる分析で何か分かれば、連絡が来るでしょう」


 潤滑油やバッテリーは各社の商品と比較した結果、どれにも当てはまらないという結果に終わった。特注で作られた可能性が高いとして、捜査する必要がある。


「それと、機工兵についての注意事項です。何でも集積回路という、脳みそにあたる部分が見つかっていないそうです。回収されて、死神の動きを解析されている可能性が高いとの話しでした。もし機工兵と戦うことがありましたら、十分に留意してください」


 たかが機械が班員と戦えるという大護の言葉に、何人もの班員から疑惑の声が出るが、それはテツが否定した。


「戦えば戦うほど動きが洗練されていきました。しかも、単純な力では機工兵の方に分があるように感じましたね。それに、装甲が分厚く、軽い攻撃ではダメージが通りません。アルカ達に勝てないチームでは危ないでしょう」


 ざわざわと会議室が騒がしくなる。アルカとキョウのチームは三班の中でも中堅レベル。つまり、半分は勝てないとテツは言ったのだ。付け加えるように小十郎が話す。


「……アルカ達との戦闘訓練は、自分のためだと思え。向上心の塊たる二人はどんどん強くなるぞ」

「そうですね。三班配属当初に比べると、格段に強くなっています。成長率でいったら、歴代でも屈指のものでしょう」


 ベテランである小十郎とテツに、新人の二人が一度だけでも勝利していること自体が異常なことである。特異技能を使っていないことを加味すると、単純な戦闘能力だけならベテランの領域に踏み込みつつあるのだ。

 実際は、ベテラン勢に比べると経験不足が目立つため、突飛な事態に対処が追い付いていないが、それも時間の問題だろう。これから戦闘訓練が増えるのだから。


「機工兵については、追加の情報が分かり次第、連絡を入れます。では、ドーピング薬について、班長、お願いします」

「うむ。全員、知っているだろうが、オオサカ派遣で会敵したテロ組織“西の夜明け”のリーダーが服用した薬についてだ」


 ヴィクターの口から、五班班長、落部 宗一による司法解剖の結果が伝えられた。事前にオオサカでも司法解剖されていたが、更に詳細な情報が得られた。

 薬物反応はあった。だが、痛覚を始めとした感覚をマヒさせるための麻薬のような薬物が多くを占めていた。寧ろ、筋肉増強剤などは少ししか含まれていなかった。


「あのドーピング薬は、特異技能を疑似的に芽生えさせる一種の薬物だと推測される」


 その言葉に、会議室に沈黙が流れた。そんな恐ろしい薬物が出回れば、とてもじゃないが機動隊だけでは対応できない。


「どのようなメカニズムかは解明できていないが、解剖結果から、脳に対して強い影響を与えるものだと考えている」


 肉体もボロボロだが、脳があまりにも変質していたそうだ。部位ごとに変色し、肥大化し、萎縮した、歪な形の脳みそになっていたらしい。

 部位ごとに精密検査をする必要があるので、かなり時間がかかるという話だ。


「ただし、肉体強度を考えると、只人では耐えきれないという見解だ。逆に言えば、強い死神なら、シャルズのように暴走はしない可能性もある」


 安心して良いのか分からない情報だった。格下が対等に、対等が格上に、格上は手を付けられなくなる。邪な考えを持つ死神に渡ったら大混乱に陥ることは、簡単に想像できた。



「製造方法などは何もわかっていない。敵に死神が出て来たら、例え格下だと思っても手を抜くな。そして、薬を飲む暇を与えず、飲んだとしたら、直ぐに首を切り落とせ」


 シャルズもドーピング薬を飲んだ直後は近くにいたキョウに一撃入れただけで、その場に留まっていた。あの時は警戒と困惑で動けなかったが、異形の姿になる前に首を切り落とすことは可能だった。改めてアルカはそう思う。


「ドーピング薬については以上だ」


 想像を超える情報を前に、会議室はとても静かであった。その中で大護が会議を進める。


「共有すべき情報は以上です。詳細は資料に載っていますので、各自で確認をお願いします。今後すべきことは疑惑のある企業の捜査を中心に進めていき、適宜、関係のあるテロ組織を強襲、及び殲滅。背後にいると推測される組織の手足を潰しつつ、その全容の解明が最終目標となります」

「北部戦役以来の大仕事だ。三班だけでなく、他班との協力も必要になってくることもある。連携を緊密に行い、柔軟な対応が必要だ。諸君らの働きに期待する」


 ヴィクターがそう締めくくり、会議は終了した。真剣な面持ちの班員達は各自の仕事に戻っていくのだった。


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