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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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73 製作途中の一幕

 三人は話しをしているうちに、すっかり打ち解けた。話が終わるころには、頭痛と倦怠感もほとんどなくなり、資料を読むことになった。


「いーやーだー」

「子供じゃないんだから、わがまま言わない」


 アルカはじたばたとするキョウの首根っこを掴み、隣に座らせると情報端末に表示した資料を見せる。一人では絶対にサボるので、昔から座学はこのスタイルだ。

 改めて資料を見る。最初のページには赤文字の注意事項を始め、専用武装の製作方法が記載されていた。軽く目を通してみるが、それらは設備の使用方法や手順、注意事項がびっしりと事細かに記されている。


「どちらかというと、これはわたしに必要な物だね。全部、頭に入っているけど」


 キョウとは反対側のアルカの隣に座り、興味深そうに覗き込む志織は、局員でもない死神が覚える内容ではない、と苦笑いする。

 確かにその通りなので、ざっくりと目を通してから次のページに移る。そこには、専用武装の製作原理が記載されていた。

それらを簡単にまとめると、汎用の魔動武装は高魔力伝導鋼で制作されているが、専用武装は超高魔力伝導鋼で制作されている。超高魔力伝導鋼は多量の魔力を流すことで少しずつ変質していき、流した魔力と同質に近しいものとなる。この性質により、魔力を流した本人の身体と同じように扱えるようになる。


「……これも覚える必要があるんですかね?」

「ないと思うよ。先生は好きで覚えているのであって、普通は知らないと思う」


 ヴィクターは研究者の目線から見て必要な知識を資料にまとめたようだ。優秀なヴィクターならば、班員と研究者の目線の違いくらい分かりそうなものだが、間違えたのだろうか、とアルカは首を傾げる。


「こんな資料を送るなんて、班長は疲れているのかな」

「違うと思うよ」


 アルカの口から出た言葉を、すぐさま志織が否定した。


「わたしの予想では、アルカとキョウが優秀だから、どんどん知識を付けさせているのだと思う」

「アルカは兎も角、アタシにもか?」

「そうだよ。不満は口にするけど、結局はこなすじゃない。普通の死神なら、特権を振りかざせば問題ないから、嫌なことからは逃げ出すものなのさ」

「へー」

「でも、不思議だね。死神の常識だと思っていたけど、二人は知らないんだ。まるで、都市とは全く違う環境で育って、常識そのものが違うみたい」


 スッと目を細め、見透かすような、探るような視線を向ける志織に、アルカはたじろぐ。言葉の端々から自頭の良さは垣間見えていたが、この短時間で、こうも真実に近い位置まで来るとは思っていなかった。どう答えたものかと頭を回転させていると、志織は不意に視線を外した。


「ま、他人の過去をとやかく言う資格は誰にもないね。そのおかげで、わたしはこうして楽しいひと時を過ごせているのだから」


 これ以上はアルカとキョウの過去について詮索するつもりはない、と言外に言い、志織は話を戻した。


「ま、暇なら覚えておけばいいんじゃないかな。それ以外にも覚えなければならない事があるんだろう?」

「……そうですね。全部覚えてからでも遅くはなさそうです」


 専用武装の資料の他にも、過去の作戦資料があるのだ。どれだけ多いかは分からないが、製作日数に予想がついているのなら、そこそこ多いはずだ。そう考えて、アルカは次のページに進む。そこには、専用武装の特性や注意事項が記載されていた。

 曰く、専用武装は当人の魔力を自身の身体と同様に通しやすく魔力の節約になること、代わりに、他人の魔力を通しにくくなり、汎用武装以上に魔力が必要になってしまうこと、そして、自身の身体と同じように扱えるため、特異技能の影響を受けることも記載されていた。


「これは班長が言ってたな」

「よく覚えてたね」

「そりゃ、もちろん」


 強くなるためにのみ発揮されるその記憶力を、普段から使ってほしいと思い、キョウを軽く睨むが、胸を張って威張るだけであった。はぁ、とため息を一つ吐いて、資料に視線を戻すと、その下の文章を読む。そこには赤文字で下線を引いて強調された文章があった。

 専用武装はその特性によるメリットがある。しかし、同時にデメリットも存在する。それは、相手に接触することで影響を与える特異技能の対象にもなり得るという点だ。これは対統率個体や対死神戦において大きな意味を持つ。端的に言えば、まともな打ち合いができない事になる。自身が影響を与える側ならば有利に戦闘を進められるが、影響を与えられる側ならば、一方的に不利な立場に追いやられることになる。


「これは……覚えないといけないね」


 特に三班は対人要素が強いため、死神と敵対することもあるだろう。アルカとキョウの二人とも他人に干渉するタイプの特異技能ではないで、警戒は必須だ。


「相手が影響を与える特異技能を持っていた際、どのように対処すればよいか考えておくように。二人の特異技能を見せてもらう時に答えを確認する。だってさ」

「……しゅくだい?」

「宿題」

「イヤーっ!」


 頭を抱えて倒れこむキョウは奇声を上げる。それを横目に、アルカは自分の方が頭を抱えたい気分になった。このキョウに“考えさせること”をしなければならないからだ。

 とりあえずキョウは放っておいて、思案することにする。アルカの特異技能ならば、触れることなく倒すことも可能だが、ヴィクターの望んでいる答えではないだろう。すべての攻撃を回避し、一撃で相手を倒す、などという現実味の薄い答えも違うだろう。

 ずっと黙りこくって考え込んでいるアルカを現実に引き戻した声があった。


「ずいぶんと考え込んでいるけど、そんなに難しいのかい?」

「そうですね……。名案が浮かばないんです」

「魔力やら特異技能やらはわたしには分からないけど、結局は魔力を使っているんだよね? なら、魔力で対抗とかできるんじゃないのかい?」


 ハッとアルカは顔を上げる。志織の言う通りだ。特異技能は個人ごとに違うから思い至らなかったが、本をただせば魔力に行きつく。相手に干渉する特異技能も魔力を使うのだから、体に巡らせる魔力を増やせば、干渉を防ぐことができるのではないか。


「志織さんの言う通りです。その可能性は十分あります」

「そうかい。魔力ってものはよくわからないけど、力になれたのならよかった」


 フッと笑う志織は、お礼を言おうとしたアルカの唇を、唐突に人差し指で押さえる。


「それと、わたしは只人だ。局員だからこそ特異技能のことは知っているけど、本来なら只人に特異技能のことを話すのは厳禁だよ。気を付けな」

「あ……。そうでした。ごめんなさい」


 過去にヴィクターに言われたことを思い出し、アルカは肩を竦める。普通に接していたが、志織の立場を考えると、かなり危ういことをしてしまったようだ。


「いいよ、いいよ。わたしはそういうの知っているし。でも、そうだなぁ。ちょっと手伝ってくれたら、嬉しいかな」


 しょげるアルカを慰めながら、志織は悪戯っぽく微笑んだ。





 アルカとキョウは志織に連行され、一階にある研究室にいた。そこには、機工兵が三機、並んで安置されていた。


「これは……」

「この前、オオサカで大捕り物があってね。その時、テロリストが使っていたロボットさ。その名も機工兵……って知ってるか」

「そうですね」


 横たわる機工兵を観察しながら、アルカは答える。当事者だったので、嫌というほど機工兵の厄介さも知っている。


「で、アタシ達は何をすればいいんだ?」


 早くも観察に飽きたキョウが、機工兵の装甲を突きなが訊ねる。


「これの装甲を剥がしてほしい。ヤツ等、魔力が使われていないって分かった途端、わたしに仕事を押し付けた上に、わざわざ組み直していったのさ。ここの設備は魔力が無いと動かせないのを分かった上でね」

「……酷いですね」

「そう言ってくれるのは二人だけさ」


 魔力の無い機械は、魔力の無い人間がお似合いだ、と言って志織に機工兵の分析という仕事を押し付けていったそうだ。

 その物言いと嫌がらせに憤りを覚えつつ、このような目に余る嫌がらせを受ける理由が気になった。後で聞こうと心に決め、アルカとキョウは志織の指示に従いながら装甲を剥がしていく。専用武器の製作があるので魔力を使うことはできないが、力はそのままなので、手作業である。


「……すごい。設備を使うよりも遥かに速い。その力が欲しくなるね」


 感嘆の表情をしながら、志織はそう呟く。迷いのない志織の指示のおかげか、装甲を剥がすだけなら三十分もかからなかった。


「おー、ありがとね。予定よりも早く終わった」

「いえ、これぐらいならお安い御用です」

「動くって楽しいなぁ!」


 キョウの声は弾んでいた。勉強から一時的にでも逃れる事ができたことが嬉しかったのだろう。アルカにとっても、良い気分転換になった。そして、気になっていた、この嫌がらせを受けた理由を聞いてみた。


「何故って、嫉妬だよ」


 志織はそう言って、彼等が嫉妬する理由を語った。

 そもそも、技術開発局は死神しか局員になることはできないそうだ。学校で学習する範囲は、知識の悪用の恐れがあるとして制限されており、訓練生と只人でも教えられる範囲が異なる。訓練生の中でも成績優秀な生徒や、教官の推薦した生徒のみが制限された知識を学び、局員になれるそうだ。只人である志織では、普通の手段で局員にはなれない。

 しかし、志織は普通ではなかった。


「わたし、天才なんだよ」


 当然のような顔で、志織はそう言った。

生まれ育った家には、調の残した教材が置いてあり、訓練生が教えられる知識を瞬く間に吸収していく。そして、志織は自力で、制限された知識に辿り着いたのだ。

只人が制限された知識、例えば火薬や銃に辿り着けば、即座に危険因子と見做され処分される。だが、調の血族であることが幸いし、局員になることで、その結末を回避できた。


「局員の権利の一部を特別に付与されて、喜び勇んで大変革前の知識を知って、絶望したよ」


 志織が辿り着いたと思っていた知識は、遥か昔に、既に存在していたのだから。誰も知らないと思っていた知識が、既存の知識の僅か一部と知った衝撃は、それはすごかった。そして、その大半が意味を成さない事も知った。


「知識を知れば知るほど、再現不可能なものが多くてね。正しく、机上の空論だった」


数日は食事も喉を通らず、寝込んだくらいだ。素材も技術も無くては、どれだけ知識を付けようとも、意味を成さない。だからこそ、魔力という未知の力が研究には必須だったのだ。


「死神の持つ魔力が無いと、碌に研究ができやしない。そのくせ、私は只人だけど頭は飛び抜けて良いから、奴等のプライドと嫉妬心を著しく刺激するのさ」


 呆れたような、諦めたような目で、志織は遠くに視線を投げるのだった。


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