表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
72/122

71 確執

 あれだけ渋っていた死神関係の仕事を、志織が引き受けたことをアルカは驚愕を持って受け止めた。なぜならば、ただアルカの頬をムニムニしただけだから。たったそれだけのことで、自身の意見を翻すことにしたのか全く理解できない。

 一縷の望みをかけて、その様子を一番近くで見ていたキョウならば何かわかるかもしれないと思い、小声で聞いてみた。


「キョウ、なんで志織さんが仕事を引き受けたと思う?」

「さあ? アルカのほっぺがぷにぷにで気持ちよかったんじゃない?」

「聞いた私が間違いだったよ」


 仕事を引き受ける、という志織の言葉に驚いたのはアルカだけではなかった。調も理解できなかった様子で、目を剥いていた。


「志織が意見を変えるなんて珍しい。熱でもあるんじゃないかい?」

「恒温動物だから熱はあるよ」

「そういうことじゃないんだよ! 何でアンタが意見を変えたのか聞いているんだよ」

「あぁ、そっちね。簡単だよ。調おばあちゃんは分からないと思うけど、只人にあんな風にされたら、大体の死神は激怒する。でも、あの子達は怒るどころか、嫌悪感の欠片も無かった。それに、いい目をしてたから、引き受けたの」


 なんと、あの頬をムニムニすることにそんな意味があったらしい。アルカは感心しながら、先ほどからアルカの頬を突いているキョウの手を払う。

 同時に、アルカは技術開発局にいる死神が、只人にどのような振る舞いをしているか悟った。恐らく、志織は他の局員に会うたびに嫌がらせ等を受けているのだろう。だとすれば、死神というだけで、警戒するのは当然だ。

 アルカは手の届く範囲で志織を守ろう、と内心決意する。死神であるアルカ達を守り、育てたクアド神官のように。


「そうかい。まぁ、志織が納得しているのなら、文句はないさね」


 どこか納得していない、諦めたような目で、志織は手を振った。好きにしろ、という無言の言葉がひしひしと伝わってくる。長年、死神の特権にどっぷりと浸かり生きてきた調には、いまいち志織の立場が分からない様子だった。

 そんな調を一瞥して、志織はくるりとアルカ達に向き直る。


「と、言うわけで、よろしく」

「あ、はい」

「おう、よろしくな」


 志織はアルカの頭を撫でる。アルカは普通に、キョウはニッと笑って返事をした。


「志織がやる気になったのなら、問題なかろう。私は本部に戻るが、何かあったら情報端末に連絡を入れよ」

「わかりました」

「では、これにて失礼する」


 足早に局長室を去っていくヴィクターを見送った後、志織が口を開いた。


「調おばあちゃん、資料頂戴」

「……はいよ。それとここでは……」

「はいはい、分かったから。……三十二研究室か。行くよ」


 調の言葉を遮り、資料を捲っていた志織は局長室を出ていく。慌ててアルカとキョウは後を追って退出した。

 志織は一切の迷いを見せず、スタスタと歩く。その後ろから、アルカは遠慮がちに声を掛けた。


「あの……志織さん」

「何?」

「まだ、私達の自己紹介をしてなかったので……」

「知ってる。九十九 アルカと、轟 キョウ、だよね」


 アルカは自己紹介をしようとしたら、志織に話を遮られた。何故、知っているのか、とアルカは目を瞬かせていると、事も無げに志織は話し出す。


「わたしも一応局員だからね。ある程度の情報は閲覧できるのさ。ここではやる事ないから、暇つぶしに資料を読んでいたから、二人の事は一方的に知ってる。若干十七歳の最年少の班員で、片方は最優秀生徒。方やもう一方は座学が赤点ギリギリの問題児の凹凸チーム。先生が半ば強引に三班に所属させたから、ひと悶着あったことも知ってる」


 かなり色々知っていた。何ならアルカの知らなかったことまで知っており、関わる予定のなかった二人の事を覚えているあたり、記憶力は相当良いことが伝わってくる。


「そう言えば、わたしの自己紹介がまだだったね。もうわかってると思うけど、わたしの名前は深澤 志織。調おばあちゃんの玄孫」

「玄孫……!」

「やしゃ……?」

「孫の孫だね」

「うひぃぃっ」


 とりあえず、調が超長生きなのは理解できたキョウは、思わず変な鳴き声が出てしまった。バッと口を押えるキョウの反応を見て、志織はすごく面白そうに笑った。


「驚くのは当然。調おばあちゃんは百四十三歳で、死神の寿命が百五十歳と考えられているから、いくら死神が長寿って言っても、なかなかお目にかかることはないからね」


 調の年齢を知って、さらにアルカとキョウは驚く。そして納得もできた。調が権限を行使してまで次期局長を探すわけだ。パッと見は飄々としているが、内心、かなり焦っているのだろう。


「調さんが後継者を育てようとしていた意味が分かりました」

「人を育てるのには時間がかかるって、先生に言われていたのに、ずっと行動しなかったから、自業自得な部分もあるけどね」


 志織の厳しい評価に、アルカは目を丸くする。仲のよさそうな雰囲気だったので、尚更、そう感じたのだ。


「志織さんはならないんですか? 局長」

「なれないよ。只人だから」


 皮肉めいた笑みを浮かべて、志織はそう言った。何故なのかアルカが聞いてみると、志織はヴィクターのように眉間に皺を寄せた。


「言いにくいことを聞いてくるね、アルカは」

「あ……すいません。言いたくないなら無理に話す必要はありません」


 志織にとって辛い記憶を思い起こさせるような事だと判断したアルカは、すぐさま謝罪をする。アルカもつい最近までトラウマに苛まされてきたのだ。死神ばかりの技術開発局での只人の扱いを、もっと深く考えるべきだったと反省する。この時ばかりは、キョウの気遣う能力の高さを羨ましいと思う。

 一方、謝罪された調は、心底驚いたように目を瞬かせていた。そして、フッと笑みを浮かべる。


「本当に、ここの死神とは違うんだね。只人に頭を下げる死神なんて初めて見た」


 志織はアルカの頭を優しく撫でる。その表情はとても愛おしそうなものであった。そして、アルカの隣で、頭を撫でられるアルカを羨ましそうに眺めているキョウに気がつき、志織はキョウの頭を撫でる。撫でられているキョウの尻尾は嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。


「さてと、わたしが局長になれない理由だったね」

「あの、お辛いなら……」

「二人になら問題ないから話すよ」


 そう言って、志織は理由を話してくれた。


「結論から言うと、わたしが局長になっても、局員が言うことを聞かないから、かな」


 いくら局長と局員といっても、死神と只人では明確に特権の差がある。死神に只人の言うことを聞かせるには、それこそ、この国の政治家並みの権力が必要になる。

 しかし、そのような権力を与えようとする政治家はいない。ただでさえ、異常に賢い、と評判の只人に強権を与えてしまえば、自身の立場を奪われることになるかもしれない、と考えているからだ。

 そんな下らない考えで志織は出世ができず、他の局員から厄介者扱いされる立場に甘んじているそうだ。


「何というか、酷い話ですね」

「死神も色々酷いけど、政治家も腐っているね。まぁ、彼等の懸念はもっともだけど」

「どういうことですか?」

「わたしが権力なんか手に入れたら、わたしの研究に邪魔な奴は排除するもの」


 何の悪気もない顔で、志織はそう言った。そこには研究者らしい、冷徹な部分が垣間見えた。ゾクッと背筋が震えたアルカに対し、キョウはうんうんと頷く。


「アタシだって、強くなるのを邪魔するヤツはぶっ飛ばすから」

「ははっ、キョウとは気が合いそうだ」


 声を上げて志織は笑う。変なところで気がしそうな二人に、アルカは頭が痛くなる。志織に良いようにあしらわれるキョウの姿が、簡単に思い浮かんだからだ。

 話をしながら立ち止まっていたらしく、改めて三十二研究室に向かって歩き出す。三階に下り、志織を先頭にして進んでいると、アルカの耳に進行方向から複数の話し声が聞こえた。そして、前方の扉が開いて複数の局員が姿を現す。


「おやぁ、誰かと思えば、只人ではありませんか。研究チームに所属していないはずの只人が、こんなところで何をしているんです?」


 嫌味ったらしい言葉遣いで、志織を見下すような発言を先頭の男性がすると、後ろにいた局員達も嘲るように嗤う。その顔ぶれを見て、機工兵の受け取りの場にいた白衣の集団の一部であることを思い出した。

 その様子に、アルカは志織が死神を嫌いになる理由がよく分かった。普段からこのように言われていては、それは嫌いにもなる。アルカは志織の様子を窺うと、志織は皮肉の笑みを張り付けていた。


「どこかの死神様が駄々をこねなきゃ、わたしが来る必要なんてなかったんだがね。尻拭いする方も大変なんだよ」


 ぐぅの音も出ない正論で、局員達は口をパクパクと動かして反論しようと試みるが、結局は押し黙るしかなかった。


「死神様に代わって、わたしは班員のために専用武装を作らなくてはならないから、とても忙しいんだ。だから、そこを退いてくれないかな、死神様?」

「口が過ぎるぞ、只人が!」


 先頭の男性が志織の胸ぐらを掴む。その顔には青筋がくっきりと立っており、後ろの局員達も射殺さんばかりの視線を志織に向けていた。

 だが、それ以上の事はしなかった。正確にはできなかった。キョウがスッと前に出て、志織に伸ばした腕の手首を掴んだからだ。男性はピクリ思動かない腕に動揺しつつ、声を荒げる。


「お前は死神ではないか! 何故、只人なんかに味方する!?」

「何故って、アタシの邪魔だから」

「はぁ!?」


 意味が分からないとばかりに、男性は素っ頓狂な声を上げる。彼等の感覚からしたら、死神が只人を庇うことが理解できないのだ。

 しかし、相手はキョウである。強くなるためならば、嬉々として何でもやる人間だ。キョウの視点から見れば、専用武装を作ってくれる志織に危害を加えようとしている敵である。

 キョウが手首を掴む力を強めると、力が入らなくなった手が志織の胸ぐらから離れた。男性は必死にキョウの手から逃れようともがくが、本気のアルカですら、捕まれば逃げられないのだから、班員でもない局員では無理だろう。


「へし折られるか、そこを退くか、どっちか選べ」

「退く! 退くから離してくれ!」


 半泣きになりながら懇願する男性の腕を開放すると、後ろにいた死神を連れ立って、逃げるように去っていた。


「全く、嫌な奴だぜ」

「ははっ、死神の口からその言葉が出るとはね。礼を言うよ。ありがとう」

「いや、これは……ほら、アタシがムカついたからで、別に志織のためじゃなかったし……」

「理由はどうあれ、結果としてわたしは守られたんだ。礼も言わなければ、人として間違っている」


 結局、言いくるめられて頭を撫でられているキョウは、とても嬉しそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ