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死神少女は生きています  作者: 気晴
第四章 動き出す者達
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69 今後の予定

 苦い表情を浮かべるヴィクターを見て、アルカは何となく一班の中で苦労しているヴィクターの姿が思い浮かぶ。宴会の席などで今のような表情を浮かべていたに違いない。そんな想像をしながら、先ほどのヴィクターの言葉の中で気になったことを聞いてみる。


「先ほど班長は、実体験していなければ、と言いていましたが、班長はどこかで実体験したのですか?」


 その質問に、ヴィクターは一度目を閉じてから、ゆっくりと口を開いた。


「……北部戦役だ」

「あ……」


 知らずとはいえ、ヴィクターの古傷を抉るような事を聞いてしまったことを理解したアルカは、酷く後悔した。すぐさま言葉を訂正しようと口を開こうとしたが、ヴィクターの方が早かった。


「あの戦いで私は銃で撃たれた。犯人は今でも分かっていない。だが、不自然なところがある」

「不自然なところとは何でしょう?」

「分からんか、大護。北部戦役は不死者の侵攻だ。一般人が持つはずのない銃が、何故使われた? 不死者に知性は無く、手に持った物を振り回すことが精々の奴らに、銃を使う、ということが出来ると思っているのか?」


 銃は死神をも簡単に殺せる武器だ。だが、それは知性ある人間が使ってこそ。照準を合わせ、撃鉄を起こし、引き金を引く。たったそれだけだが、それは知性が無ければ非常に難しい。

 統率個体が不死者を率いても投擲が偶に行われるだけで、弓すら使われない。不死者という駒を動かすことは出来ても、駒一つ一つの身体の動きまでは制御できない。それは過去のデータからも明らかだ、とヴィクターは話す。


「私は、北部戦役は終わっていないと考えている。厳重に情報統制された中、出どころ不明な銃が使われていた。そして今回もそうだ。関係性は不明だが、繋がっているような気がする」


 そう締めくくり、ヴィクターは話を戻した。


「銃に関しては、理由があって厳しく情報が伏せられている。絶対に他言しないように」

「わかりました」


 強い口調でそう言ったヴィクターに、アルカとキョウは重々しく頷いた。


「よろしい。では二人の今後の予定について連絡だ。大護、説明を」


 その言葉を合図に大護が情報端末を操作すると、幾つかの資料が送られてくる。


「今送った資料は予定表と関連資料、技術開発局の地図、これまで三班が行った作戦の資料です」


 今までは、今後の予定など普段の見回りばかりだったので、いきなり予定表が送られてきて困惑してしまう。加えて、関連資料の“関連”とは何だろうか。何故、昨日行った技術開発局の地図があるのだろうか。アルカとキョウは揃って首を傾げる。


「二人には休暇明け、技術開発局に向かってもらいます。そして、あなた方専用の魔動武装を製作してもらいます」

「専用の、と言うと班長達の魔動武装は私達の物と違うのですか?」

「ええ、どの班の班員も自分専用の魔動武装を持っています。あなた方の物は、隊員の使う汎用の魔動武装です」


 普通ならば、訓練生、隊員時代を通して自身に合った武器種を探し、班員になると同時に、

専用の魔動武装を作るらしい。

 しかし、アルカとキョウは訓練生から隊員を経ずに班員になったために、見送られていたそうだ。


「二人の様子を見るに、その武器種で問題なかろう」

「はい」


 訓練生時代から、周囲とは比べ物にならないくらい鍛錬しているので、アルカは刀二本、キョウは大剣の魔動武装に慣れきっている。今更、別の武器種に変えるつもりはない。


「先ほど送った予定表は技術開発局にいる間のものです。空き時間がかなりあるので、専用についての説明資料と、過去の作戦資料に目を通し、学んでおいてください」


 キョウの目がどんよりと曇る。よほど座学が嫌なようだ。


「そんなに暇なんですか?」

「多量の魔力を使いますから、戦闘訓練などする体力は残りませんよ。魔力を回復させがてら学習をして、魔力を使っての繰り返しです」

「えぇ……」


 一日の大半が座学になることを知って、キョウは頭を抱えて唸る。だが、どうしようもないものはどうしようもない。

 かくいうアルカも、あまり気乗りはしない。時間が空くとはいえ、多量の魔力を使うことになるのだ。また頭痛や倦怠感に襲われると思うと、億劫である。そうキョウに向かって呟くと、ヴィクターが反応した。

 

「ならば考え方を変えよ。多量の魔力を扱う機会などそうそうない。慣れる訓練だと思えば多少は気が楽になろう。それに、先ほど言った負担軽減も試してみるといい。実体験できるいい機会だ」


 負担軽減はヴィクターが言っていた、魔力の変化をゆっくり行うというものだ。それにより、頭痛などが軽減されることが確認できれば、是非とも取り入れたいと思う。アルカはやる気が出たが、キョウはまだ嫌そうな雰囲気を醸し出している。


「座学やるくらいなら、専用なんていらない……」

「ほう? 作った方が強くなれるのにか?」

「……強くなれるんですか?」


 キョウは驚いた様子で顔を上げ、ヴィクターを見つめる。そこには口の端を上げ、勝ち誇ったような顔をしているヴィクターがいた。


「専用武装は魔力の巡らせ易さが、汎用の比ではない。魔動武装に巡らせる魔力が少なくなれば、必然的に自由に使える魔力が増えることになる。その魔力を使って、いつもより多く巡らせるか、時間を延ばすかは場合によるが、つまるところ、強くなったと言えるだろう」


 キョウの目が爛々と輝き始め、前のめりになってゆく。耳がピンと立ちヴィクターの方を向き、人の話を真面目に聞く姿勢になる。


「さらに、専用武装は自身の身体の延長として扱うことができる。即ち、特異技能の影響を受ける。例えば、アルカであれば射程の延長ができると考えられる。ここで肝要なのは、自身の特異技能の本質をしっかりと理解することだ。使いこなせれば、非常に強力なものとなる」

「アタシ、がんばります!」


 キョウは硬く決意をして、ガッツポーズをする。ヴィクターは非常に満足そうに頷いていた。

それを横目にアルカは内心でドキドキしていた。ヴィクターは、特異技能の影響を受ける、と言っていたが、キョウの“怪力”が大剣にどう作用するか、見当がつかない。ヴィクターもそれを分かっていたため、アルカを例えに出したに違いない。

口先だけでキョウをやる気にさせるあたり、ヴィクターは強くなるためなら何だってする、単純なキョウの扱いに慣れつつあるようだ。


「初日は私も同伴する。朝はここに顔を出しなさい」

「ハイ!」


 元気よく返事をした、やる気になったキョウの気が変わらないうちに、ヴィクターは話を打ち切る。


「では、休暇まではこれまで通りで頼む。休暇後は技術開発局だ。専用武装を製作後、二人の特異技能を確認させてもらう」

「私も参加してよろしいですか?」


 大護が笑顔で二人の特異技能を見たいとアルカに迫って来た。ヴィクターに対しての行動が少々怖いが、アルカは大護の事を信頼はしている。キョウは大丈夫か、と聞くと、アルカに任せる、と返って来た。


「大丈夫ですよ」

「えぇ、ありがとうございます。楽しみにしておきます」

「その時に我々も特異技能を披露する。それと、他にも信頼できると判断した者がいるなら各自で伝えあうと良い。ただ、誰に伝えたかは後で教えてくれ。報告書の書き方が変わるからな」

「わかりました」


 アルカは頭の中で伝えてもよさそうな人物をピックアップしていく。そして、意外に少ないことに気が付いた。事件に巻き込まれてばかりだが、三班に配属されて数か月しか経っておらず、ほとんど話す機会の無い班員も結構いるのだ。

 そんなことを考えていると、ヴィクターがおもむろに口を開いた。


「最後にだが……」


 そこであえて言葉を切り、ヴィクターは改めて姿勢を正した。その真剣な気配に、他三名の背筋も自然と伸びる。


「今朝がた、保管室から連絡があった。今回の事件で押収した証拠品の一部が紛失したらしい」

「え!?」


 機動隊本部に存在する保管室には、これまでの作戦や事件の証拠品や報告書、資料などが保管されている。保管室には警備員が常時配置されており、防犯カメラが保管室の内外を死角無く設置されている。


「五班班長の宗一がシャルズの司法解剖結果を問い合わせたところ、証拠品の紛失が発覚した」

「資料が紛失したんですか?」

「いや、紛失したのは銃弾だ。キョウを貫通し、机で止まった物が一発。キョウの体表にめり込んでいた物が三発の、計四発。すべてが無くなっていた」


 普通ならば目的の物以外が無くなっても気が付きにくいが、最新の事件で整理が完了していなかったこと。銃という機密情報の一部であるため、ヴィクターが持ち出した銃と共に、さらに厳重な保管場所に移される予定であったこともあり、いつでも持っていけるように準備されていたことで、紛失に気が付いたそうだ。


「警備員は保管室に誰も入っていないと証言し、防犯カメラにも何も映っていなかった。保管室に持ち込んだ際には、銃弾は四発すべてが存在していたこともわかっている」

「はい。確かにあったことは私と龍造、ソウゴが確認しています」


 大護は真面目な表情でそう言った。とても嘘をついているようには見えない。

 ヴィクターの話が全て本当だとすると、弾丸が忽然と消えた、という結論に至る。しかし、そんなことがあり得るだろうか。誰かが持ち出したと考える方が自然だとアルカは思う。


「随分と考え込んでいるようだが、アルカはどう考える?」

「……忽然と無くなるのは考えにくいと思います。なので、誰かが嘘をついているのではないでしょうか?」

「仮に警備員が嘘をついていたとて、保管室内部の防犯カメラに誰も映っていないのは事実だ」


 保管室の防犯カメラは捏造できないよう、フィルム式を採用しているらしい。電源やフィルムを加工した形跡はなく、データ自体も本物であることは確認済だそうだ。


「それに大護達は証拠品を持ち出す動機がない」


 わざわざ証拠品を持ち出すのならば、弾丸は何か、または誰かに繋がる重要なものだと判断できる。それならば、大護達には今までにいくらでも機会はあり、わざわざ保管室に預けた後、行う意味がない。わざわざ自分達に疑いの目を向けられるような行動をするほど、迂闊には教育していない、とヴィクターは言った。


「他の可能性で思い浮かぶことは無いか?」

「……アルカの特異技能は?」


 ヴィクターの質問にアルカは他の可能性を考えていると、キョウが言いにくそうにそう呟いた。バッとキョウの方に視線を向けた後、アルカは慌てて反論する。


「私は違いますよ! 私だって副班長と同じで動機も無ければ、今のタイミングで動く意味がありません」

「わかっているから、いったん落ち着け」

「でも……」


 ヴィクターに窘められるが、無実の罪で疑いをかけられるのは、正直しんどい。何とか誤解と解こうと口を開きかけたその時、肩に手を置かれる。そこにはキョウが立っていた。

キョウに諫められて、ようやく自分が立ち上がっていたことに気が付き、やり場のない感情を胸に、アルカは座り直し、飲み物を一口飲むのだった。


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